相次ぐ弁当製造業の倒産… 破産の前にM&Aと事業再生で工場売却の検討を
相次ぐ弁当製造業の倒産… 破産の前にM&Aと事業再生で工場売却の検討を
業界全体で労働生産性が高まらない食品加工業
国内の総菜(中食)・米飯市場は堅調に成長しているものの、倒産も目立つようになりました。
これはコロナ禍による急速な商環境に適応できなかったことや、他業種に比べて労働生産性が低いことが背景にあります。弁当や調理パンの一人当たりの付加価値額は他の食品業の中で最低水準。
原材料や光熱費、人件費が高騰すると、それを利益で吸収することができずにキャッシュフローが悪化し、倒産へと至ってしまうのです。
この記事では、弁当製造業者が倒産に至るケースを具体的な事例を交えて解説し、工場などの資産を売却して再生への道を歩む方法を紹介します。
葬儀への参列者減少の影響で廃業に
2023年8月に奈良県の仕出し弁当製造業であるアイ・サンクが奈良地裁から破産手続き開始決定を受けました。負債総額は2900万円。
アイ・サンクは「膳料理たいが」という看板を抱えて店舗を持ち、葬儀場や催事向けに販売していました。コロナ禍が本格化する前の2020年6月期の売上高は3600万円。2022年6月期は1400万円まで落ち込みました。
鎌倉新書によると、2017年の葬儀の参列者の平均人数は64人でした。しかし、2024年は38人まで減少しています。コロナ収束後も参列者の人数はまったく回復していません。葬儀の平均飲食費は2017年が29.3万円、2024年は20.7万円でした。
葬儀業界はコロナ禍をきっかけに小規模化が進んでおり、葬儀場だけでなく周辺事業者も大打撃を受けています。
アイ・サンクは販路拡大など経営の立て直しを図るものの好転せず、事業継続を断念しました。
零細企業の場合、新たな取引先を見つけようにも、その手掛かりすらつかめないことが少なくありません。営業活動を行う体制が整っていないことが多いためです。社長自らが営業をかけ、断られ続けてモチベーションを失ってしまうことも、よく目にするパターンの一つです。
最盛期の売上高76億円の会社が倒産へ
2022年1月、村上給食が大阪地裁から特別清算の開始命令を受けています。
1965年の老舗で、東大阪市を中心に小中学校、一般企業などに向けて配送用弁当の製造を手掛けていました。2003年8月期の売上高は76億3000万円。順調に業容を拡大し、食材卸業者から食材を仕入れて自社工場で製造。産業給食や中学校給食弁当、幼稚園給食などを展開するようになります。食堂の受託事業も行っていました。
しかし、食材費や配送コストの高騰を販売価格に転嫁できず、収益性が悪化。工場や営業所を次々と閉鎖して立て直しを図りました。しかし、2019年7月に学校給食からの受注が途絶えたうえ、新型コロナウイルス感染拡大の影響で事業継続の見通しが立たなくなりました。
負債総額は31億5000万円。特別清算後は別途設立された村上給食が承継しており、現在も営業を続けています。
障がい者雇用で社会貢献度の高い会社も大口顧客の離反に耐えられず…
2022年8月には鎌倉市や逗子市などで「手づくり弁当バニー」を展開していたバニーフーズが破産しています。
バニーフーズは1983年創業で、弁当・総菜・オードブルを手がけていました。学校や役所、法人向けのデリバリー販売を主体とし、店舗販売も行っていました。
特徴として、障がい者雇用に力を入れていたことがあります。就労支援事業所と組んで製造を行っており、社会貢献にも熱心な会社でした。得意先の要望にきめ細やかに対応していたことでも有名でした。2015年10月期の売上高は3億1300万円だったといいます。
しかし、大口取引先との取引縮小、競合の台頭によって売上は減少。2020年10月期の売上高は1億6400万円でした。更に固定費や配送コストの増加で利益が圧迫されました。
会社としての志や社会貢献度は高かったものの、生産性を高めることができなかった事例の一つだと言えます。
コロナ融資の返済が始まっても売上が回復しない
食品製造業の平均一人当たりの付加価値額は763万円で、全製造業の平均1211万円に遠く及ばないという現実があります。
これは、多品種少量生産であることや、工場の規模、自動化への遅れが背景にあるとされています。また、作業が個人完結型であること、清掃・洗浄・殺菌を徹底する必要があること、食を扱うために衛生上のリスクが多少でも生じると生産ラインを停止しなければならないなど、業界特有の課題もあります。
価格交渉力も弱く、原材料や人件費高を価格転嫁しづらい業種でもあります。そのため、弁当製造を行う会社は薄利であることが多く、設備投資に十分な資金を回すことができません。
更に、多くの企業がコロナ禍でゼロゼロ融資に頼りました。借入によって、売上が減少する中でも資金繰りには一定の目処がついていました。しかし、返済が始まる段階になっても売上が回復しない中小企業は数多くあります。
弁当などの中食を取り巻く環境は、コロナを経て大きく変わったためです。それは上の事例でも見てきた通りでした。
廃業や破産を選択する前にM&Aの検討を
キャッシュフローの悪化で廃業を選択せずとも、事業を継続する方法はあります。その一つがM&Aです。
M&Aというと、会社の売却(株式の譲渡)をイメージしがち。しかし、事業売却など会社の一部を譲渡することも可能です。
よくあるパターンの一つが製造部門の売却。工場や生産拠点などを他社に譲渡する方法です。
規模の大きい会社を中心に、弁当などの食品工場を手にして生産数を上げたいというニーズは多くあります。販売エリア拡大を計画していることもあり、地方にある工場でもM&Aの対象に十分なりえます。
製造部門のM&Aに成功した事例をこちらで紹介しています。
事業譲渡は従業員一人ひとりを説得し、雇用契約を変更するなど手続きが面倒だと考える人がいるかもしれません。しかし、現在はM&Aの仲介会社がサポートを行い、迅速に譲渡できるようになっています。
譲渡益によって事業再生の道筋を見出すことができるでしょう。
私的整理などの方法により、再建を図ることも可能です。廃業や破産を決断する前に、工場や生産拠点などの資産の整理を検討しましょう。
金融機関や税理士などに相談するのも方法の一つですが、M&Aの仲介会社であれば、より良い条件での提案を受けられる可能性があります。複数の窓口で相談することをおすすめします。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。