力強く成長するインドのM&A最新事情! 取引額は20兆円を超えて需要は拡大
力強く成長するインドのM&A最新事情! 取引額は20兆円を超えて需要は拡大
インドはアジア経済をけん引する存在に
14.4億もの人々が暮らす人口世界一の国インド。2024年から2025年にかけての実質GDP成長率は平均で6.2%と予測されており、中国の4%台と比べると成長の力強さが際立ちます。エネルギーや鉄道建設などの巨大インフラプロジェクトによって公共設備投資は拡大し、旺盛な内需が成長をけん引すると見られています。
中国の景気減速が鮮明になる中、インドはアメリカや日本をはじめとした先進国の有望な投資先と見られています。M&Aやスタートアップへの投資も積極的に行われている国の一つ。インドのM&A最新事情を解説します。
交渉力が強くスマートな経営者が多いインド
デロイトによると、2023年のインドにおけるM&A取引件数は1,271件。取引金額は1,360億ドルでした。この数字はコロナ前の2019年と比較すると、どちらも2倍に拡大したことになります。
インドには3つの巨大財閥があります。タタ、ビルラ、リライアンスです。この中でもインド最大のコングロマリットであるタタ・グループはM&Aによって事業を拡大してきました。
2007年に世界第8位の鉄鋼メーカーだったイギリス・オランダのコーラス社を買収。これによって世界第5位の規模に成長しました。
2008年には高級自動車メーカーのジャガーとランドローバーをフォード・モーターから取得。韓国の大宇、スペインのバス車体メーカーであるイスパノ・カロセーラを傘下に収めています。合弁事業にも積極的で、フィアット、日立製作所、マルコポーロなどと共同で建設機器、エンジニアリング・ソリューション、ソフトウェア業なども手掛けています。
Microsoftの現在のCEO・サティア・ナデラ氏、Alphabet(Google)のスンダー・ピチャイ氏、IBMのアルビンド・クリシュナ氏は皆インド系アメリカ人。インド人は優秀な経営者が多いことで知られています。これは英語を扱えることやタフな交渉術を持っていること、理系教育に熱心なことなどが背景にあります。
そのため、若くて野心的な起業家が多いことでも有名。ユニコーン企業として、教育サービスのBYJU’s、宿泊事業のOYO Rooms、フードデリバリーのSwiggyなど、すぐれたスタートアップが存在します。
こうした企業には中国のテンセントや日本のソフトバンクなども出資しており、世界中から注目を集めていると言えるでしょう。
M&Aで現地製造に切り替えたヤンマー
インド進出に弾みをつけるため、日本企業のM&Aも活発化しています。
日本通運などを子会社に持つNIPPON EXPRESSホールディングスは、2028年12月期までで海外M&Aに1,000億円を投じる計画を立てています。重点エリアとして挙げている国がインド。内需のポテンシャルが大きく、半導体や医薬品などの重点産業のネットワークを構築するとしています。
インドの貨物・流通の市場規模は2029年に4,844億ドルと、2024年比で1.5倍に拡大すると予想されています。M&Aは旺盛な成長力を取り込むのに極めて有用な手段となります。
ヤンマーホールディングスは、2024年8月26日にインドのコンバイン製造会社クラースインディアの全株を取得すると発表しました。ヤンマーはインドの国外からコンバインを輸入して販売していましたが、現地製造へと切り替えることになります。
産業用ネジの大手、日東精工は自動車向け金属ボルトなどを製造するインドのバルカンフォージを買収すると2024年2月22日に発表しています。このM&Aでインドの初拠点を手にしました。
インドの自動車需要は今後更に膨らむと見られており、更なる成長の足掛かりを築きました。
インドでのM&Aの注意点は?
インド企業のM&Aは難易度が高いことで有名。これはタフな交渉力を持つ国民性や、基本合意を交わした後も条件変更をする、ちゃぶ台返しが頻繁に起こるためです。
また、デューデリジェンスにおいて、欲しい情報がすぐに出てこないことも頻発すると言われています。これは経営管理に関する情報管理が甘いことが多く、出したくないというよりも、情報がない、または統合されていないなどの理由によるものです。
許認可が必要な事業については、インド当局の対応が遅く、なかなか進まないこともあるようです。
インド企業のM&Aや出資を検討しているのであれば、根気強く交渉に望み、長い時間がかかることを覚悟した方が良いでしょう。
仮に買収が完了しても、ビジネス環境は厳しいのが現実。国内需要が旺盛なために価格競争に陥りやすく、当初見込んでいた利益水準をキープできないことがあります。また、インドは品質への要求レベルが高く、ハイクオリティなサービスが求められます。
地域による賃金格差も大きいため、国内の経済事情に精通した人物が必要になるでしょう。
M&A実務上のポイント
M&Aの実行フェーズにおいても、いくつかのポイントがあります。
【企業価値】
外資系企業がインドでM&Aを行う場合、インド準備銀行が定めた価格ガイドラインに準拠しなければならず、インド準備銀行の事前承認も必要になります。
また、特定のライセンスを持つ専門家が証明する価格以上で取引をしなければなりません。日本企業をインド居住者に譲渡する場合も、一定の価格以下で売却しなければなりません。
【法規制】
インドの上場企業からカーブアウトで一部の事業を取得する場合、インド裁判所の許可が必要です。
株式の取得完了前に株式の譲渡対価を支払わなければなりません。これは、名義書換にあたって着金確認が必要なためです。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。