原材料高の影響で厳しさ増す菓子製造業界、工場の売却で再起を図るケースも
原材料高の影響で厳しさ増す菓子製造業界、工場の売却で再起を図るケースも
食品製造業の中でも菓子・パン製造の倒産件数はトップ
カカオや卵、小麦、オリーブオイルなど菓子製造に必要な原材料が高騰し、菓子製造業界に打撃を与えています。大手企業は価格転嫁に成功して逆に収益性を高めていますが、中小企業は取引先や消費者からの理解が得られず、値上げができないことも少なくありません。
食品製造業の中でも、菓子・パン製造業の倒産も目立つようになりました。
しかし、コロナ禍からの回復で消費活動は戻っており、土産物や贈答用、オフィス向けなどの菓子需要の回復が見込まれています。資金繰りに窮している菓子製造会社は、工場などを売却することによってキャッシュフローの安定化を図ることができ、事業活動を継続できる可能性があります。
カカオの価格は4か月で2倍以上に
※東京商工リサーチ「「食品業」倒産 2年連続増加の653件 原材料やエネルギー価格、人件費上昇が負担」より
東京商工リサーチは、2023年度(4-3月)の食品業の倒産(負債総額1,000万円以上)を調査しています。2019年度の食品業の倒産件数は779件。2020年度は550件、2021年度は441件まで減少しました。多くの企業が助成金やコロナ融資で資金を得ることができたためです。
しかし、2022年度は561件、2023年度は653件と増加に転じました。2023年7月にコロナ融資(ゼロゼロ融資)の返済が本格化しており、借入をしたものの、事業活動に遅れが出たままの会社は返済に窮するようになったと言われています。
2023年度の菓子・パン製造業の倒産件数は22件。食品製造業の中ではトップとなりました。2022年度は水産食料品製造業の倒産件数が最も多くなっていました。これは宴会の消失によって打撃を受ける会社が多かったためでしょう。その後、インバウンド需要が急回復したことにより、飲食店・宿泊施設を中心に水産食料品の調子は戻りました。
菓子やパンの製造に必要な価格の高騰が止まりません。
カカオは2023年末のニューヨーク市場の先物価格が1トンあたり4,162ドルでした。しかし、2024年4月には1万120ドルをつけています。4か月ほどで価格は2倍以上に高騰したのです。
アフリカやアジア、南アメリカは干ばつ、猛暑、洪水、豪雨などの異常気象に見舞われており、カカオ豆は歴史的な不作に陥りました。これはコーヒーやオレンジ果汁も同様の影響を受けています。
更にコロナ禍からの需要の急回復で需給バランスが悪化。価格が高騰しました。
中小企業の多くは交渉力が弱く、契約上の縛りがあることもあり、積極的に値上げができないという厳しい現実があります。
創業126年の歴史的な菓子メーカーも事業継続を断念
2024年8月29日に菓子製造販売の丸峰庵が地裁会津若松支部から民事再生手続きの廃止決定と破産開始決定を受けました。
同社は2006年2月に丸峰観光ホテルの関連会社として設立。「丸峰黒糖まんじゅう」が人気となり、年商は5億円をこえていました。しかし、近年は販売量が低迷。債務超過となって資金繰りが悪化していました。
2023年に丸峰観光ホテルは民事再生法の適用申請を行っており、事業再生を図っています。丸峰庵は破産となり、事業を別会社に譲渡する方法をとりました。
2023年11月には創業126年の老舗菓子製造会社である、やまは製菓が岡山地裁津山支部に破産申請をしています。
1897年に創業した歴史ある会社で、かりんとうを主体にせんべい、おかきの製造などを行っていました。バブル期には5億円を超える売上があったものの、少しずつ人気を失って赤字経営が続いていました。
債務超過に陥っていたうえに後継者が見つからず、事業停止を決めています。
工場の売却で販売に専念できた会社も
菓子製造会社は、工場を売却することによってまとまった資金を得ることができ、それを運転資金や借入金の返済に回して事業活動を継続できる可能性があります。
1986年にパンの移動販売業を始めたパントーネ・システムは、全国のパン店やレストラン、ホテル、病院などの販売網を構築。2018年にかりんとう工場を新設するなど、事業の拡大を進めていました。
しかし、コロナ禍で一時的にキャッシュフローが悪化。金融機関が資金の貸出に難色を示すようになりました。そこで、3つの工場を大手菓子メーカーに売却し、運転資金を確保しました。
詳細はこちらの記事にあります。
生産拠点を売却することになりましたが、これまでに構築した販売ネットワークは残っており、事業は安定的して継続できています。
破産や廃業を選択する前に、M&Aを検討しましょう。
工場売却には注意すべきポイントが
菓子製造工場は大手メーカーを中心に需要があり、高値で売却できる可能性があります。一方、経営者が気づいていない問題を抱えている工場も少なくありません。
M&Aで稀に見受けられるのが、建築確認申請時の内容(図面)と、現状が大きくことなるため、検査済証が発行されていないもの。工場は生産効率を高める目的で、現場レベルで設備の一部を変更することがあります。2つの工場の壁を取り払って1つにまとめ、製造プロセスを集約していたケースもあります。こうなると、耐火基準を満たさないなどの問題が出てきます。
工場の規模に関わらず取得が義務付けられているHACCP(ハサップ)が未取得である。古い工場で建築確認申請がなされていないといったこともあります。
問題を抱えている工場は、M&Aの障害となるケースがほとんどで、場合によっては破談になってしまいます。そのようなことにならないためにも、M&Aのプロフェッショナルに相談し、然るべき対応・準備を進めておきましょう。知識やノウハウのないM&Aコンサルタントの場合、プロジェクトを前に進めることができなくなってしまいます。
M&Aを相談する際、事前に気になるポイントをまとめて話すことも効果的です。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。