製造業と建設業も好調! インドの経済成長を支える業界は?

製造業と建設業も好調! インドの経済成長を支える業界は?
予想を上回る勢いで成長を続けるインド
インド政府が2024年5月31日に発表した2023年度の実質国内総生産の成長率は8.2%。政府による事前予測は7.6%で、旺盛に成長していることが改めて浮き彫りになりました。
製造業が特に好調で、2022年度の成長率である7%を上回りました。建設業の伸びも著しく、産業部門別に2023年度の成長率を見ると、製造業と建設業がともに9.9%伸びています。
もともと強みを持っていたITに加え、製造業や建設業の伸びも目立ってきました。

ソフトウェア産業の売上高を130億ドルから300億ドルへ
国際通貨基金は2025年の名目GDPでインドが日本を抜き、世界4位になると予測しています。人口増加を背景に、内需の拡大が続く見通しです。
なお、インドは人口が14.2億人で、労働人口(15歳から64歳)は9.6億人。平均年齢は28.2歳であり、人口が多く若いのが特徴。一方、中国は人口が14.3億人。労働人口は8億人で、平均年齢は38.5歳。人口の分布からも、インドには成長余力が残されている様子が見て取れます。
インドはIT産業が力強い点に最大の特徴があります。これは英語でのコミュニケーションが行えるためにアメリカをはじめとした大手IT企業がオフショア開発を依頼。プログラミングなどの高度なIT技術を持つ人材を輩出するきっかけとなりました。
もともとインドは数学が得意な人が多く、国全体で理系に特化した教育に力を入れていたため、IT人材を育てる素地も整っていました。
インドのITのトップは、タタ・コンサルタンシー・サービシズ。タタ・グループのITサービス企業で、コンサルティングを基盤としつつ、エンジニアリングやIoT、ITインフラの構築、BPOなど、幅広いシステム開発に携わっています。
ゼネラル・エレクトリックやシティグループ、ボーイングなどとも取引があり、世界的に活動している会社の一つです。
2022年度で、61万人を超える従業員を抱えています。
インフォシスはインドIT業界2位。大規模なシステム開発を得意としており、インド企業として初めてナスダック市場に上場しました。
日本でも活動しており、富士通やNEC、日立製作所、NTTデータの下請けに入ることもあります。
インドは国家ソフトウェア製品政策を進めており、2021年に130億ドルの産業売上を2026年までに300億ドルまで引き上げる計画を立てています。
複雑化するインドのフィンテック業界
インドのIT系スタートアップへの投資も旺盛。2022年が182億ドルで、2023年は60億ドルでした。2023年はアメリカを中心とした急速な利上げにより投資意欲が減退したため、スタートアップ投資も弱含んだものの、投資額が大きいのは事実。
2023年におけるベンチャーキャピタルの日本のスタートアップへの投資額は12.8億ドル。インドのスタートアップには日本の4.7倍もの資金が投じられているのです。
セクター別で見ると、ユニコーンで最も数が多いのは「EC&D2C」。インターネットを通した取引を行う事業です。
有名な会社がOfBusinessで、製造業向けに工業製品の販売を行っています。ソフトバンクからの出資も受けています。
次いで盛り上がっているセクターは「フィンテック」。インドは若者が多いために、インターネットを通した取引が活発に行われています。また、クレジット(貸付)や支払いに限らず、投資、保険、信用評価、個人間取引など、複雑な市場が形成されているのも特徴です。
インドは所得水準が高い人ばかりではないため、信用力が不十分でクレジットカードやローンの審査に通らない人が少なくありません。
人々の不便を解消するための各種サービスが台頭しているのです。
Razorpayはインド最大のフィンテック企業。決済処理や支払い、クレジットカードの発行などを行うほか、納税手続きの支援、決済リンクの作成、サブスクリプションビジネス向けの決済サービスの提供など、多角的に展開しています。
2021年の年間取扱高は600億ドル(150円換算で9兆円)を超えていると言われています。PayPayの2021年度の取扱高は5.4兆円。インドの市場は勢いがあると言えるでしょう。

脱中国化を進める各メーカー
2014年に発足したモディ政権は、製造業の振興策である「メーク・イン・インディア」を掲げてきました。投資環境を整備し、直接投資誘致を促進。GDPに占める製造業の割合を15%から25%に引き上げるというものです。
しかし、製造業比率は20%を下回る状態が続いており、目標はクリアできていません。
ただし、今年に入って風向きが変わってきました。各社が地政学的な緊張が高まる中国依存から脱却し、生産拠点の拡大に動き始めたのです。
Appleはインドでのスマートフォン生産額が2024年3月期に140億ドルとなり、昨年と比較して2倍に拡大しました。現在、14%程度をインドで生産しているといいます。
Appleの組立工場建設に力を貸しているのがタタ・グループ。南部タミルナド州ホスールでの工場建設を目指しており、5万人を雇用する計画。
タタが狙っているのはAppleとの連携。ビジネスパートナーとしての協力関係の強化を目的としていると言われています。
半導体業界もインドへの進出が活発化しています。台湾PSMCとタタ・グループ傘下企業がグジャラート州に回路形成工場を建設。投資額は1兆7,000億円規模にのぼります。
マイクロン・テクノロジーも同じくグジャラート州に組立工場を建設しました。
2024年9月にインドで半導体業界の大規模な展示会が初めて開催されました。日本勢は東京エレクトロン、キヤノン、ディスコ、東京精密などが出展。半導体業界が脱中国に向けて生産拠点をインドに移す中、製造に必要な装置を開発する企業も顧客開拓に動いています。

6%で成長を続ける建設業界
経済発展が著しいインドは、インフラの構築や住宅の整備、街づくりが急ピッチで進められています。2023年のインド建設市場の規模は、約6,390億ドル。2029年までの年平均成長率は6%を超えると見られています。
建設や不動産開発においては、日本企業も進出しています。
住友不動産は2023年10月に総事業費5,000億円を投じてインドでの不動産開発を進めると発表しました。
クボタや神戸製鋼はインドに子会社を設立。建設機械の販売を強化しています。日立はタタ・グループと協業し、タタ日立コンストラクションマシナリーを通してシェア拡大を図っています。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。