簡単に調理ができる冷凍食品は市場が拡大中だが大手の寡占化で中小企業は苦戦も?
簡単に調理ができる冷凍食品は市場が拡大中だが大手の寡占化で中小企業は苦戦も?
工場の大型化が進む冷凍食品業界
富士経済によると、2024年の冷凍食品市場規模は1兆2,909億円で、2022年比で5.0%高まる予想となっています。コロナ禍で居酒屋を中心とした外食需要が低迷。簡単に調理ができる冷凍食品のニーズが高まっているのです。
ただし、冷凍食品は大手企業の寡占化が進んでいる業界の一つ。商品開発のスピードが速く、新規設備投資や工場建設が積極的に進んでいます。
冷凍食品の加工などを行う中小企業は、居酒屋などの業務用需要の縮小や、大手企業のシェア拡大を前に苦戦する可能性があります。
冷凍食品の人気ジャンルは?
冷凍食品は巣ごもり需要が発生した後も、旺盛な勢いで市場を拡大しています。背景として、単身世帯に向けた個食商品の強化や、名店・有名シェフなどが監修した商品など、消費者のニーズに沿った開発が進んでいることが挙げられます。
冷凍食品は原材料高や水道光熱費の高騰によって値上げを余儀なくされましたが、買い控えのマイナス要因をカバーしたのです。
業務用はやや苦戦していますが、個人向けが市場をけん引しています。
伸びが著しいのが「めん類」。食品産業センターによると、2021年の「めん類」の冷凍食品の出荷額は、2000年比で2倍となりました。ラーメン、うどん、スパゲッティともに好調で、焼きそばもニチレイの新商品である「香ばし麺の五目あんかけ焼そば」やマルハニチロの「新中華街 五目あんかけ焼そば」がヒットしたことで、市場の伸長に一役買っています。
業務用が弱含んでいるため、大手各社は個人向け商品の開発に邁進中。プロモーションも積極化しており、冷凍食品市場は盛り上がっています。
相次ぐ中小企業の倒産
ニチレイは研究開発費に年間20億円を投じています。また、2023年4月には福岡県宗像市に冷凍米飯の工場を新設。既存工場と合わせて生産能力を5割増やしました。ニチレイはこの工場に115億円を投じています。
冷凍食品工場は、生産ラインやミキサーの大型化が進んでいます。それによって野菜や肉などの加工時間を短縮。生産性を引き上げるためです。加工工場は大規模化しています。大手企業は商品開発力が強いうえに、生産能力が日ごとに高まっているのです。
飲食店などの業務用需要が縮小していることと、市場拡大で大手企業が勢いづき、生産数を上げていることで、冷凍食品の製造を行う中小企業の中期的な苦戦が予想されます。
事実、倒産も目立つようになりました。
2023年4月に冷凍食品の製造、卸売などを行う大水と関連会社のカシマ冷食が東京地裁から特別清算開始決定を受けました。
創業は1963年6月で、低価格の自社開発商品を展開しながら、大手商社に販路を築いた会社。最盛期の売上高は80億円近くあったと言われています。
しかし、取引先の倒産などで不良債権が発生。カシマ冷食は債務超過が拡大し、工場の売却などを進めて休眠状態が続いていました。
消費意欲がコロナ禍から回復してもなお、業績は戻らずに破産となりました。
2023年10月にはワールドファームとその関連会社であるONLY JAPAN、つくば低温サービスが東京地裁から破産手続き開始決定を受けています。
ワールドファームは農産物の生産から加工、販売までを手掛けており、契約農家が栽培した農産物を自社工場で加工・包装して食品卸会社やメーカーなどに販売していました。
ONLY JAPANは冷凍野菜の卸売業者で、主にワールドファームが加工した野菜を仕入れ、食品会社や商社などに販売していました。
ワールドファームはコロナ禍で外食産業が営業自粛に追い込まれたことで売上が急減。グループ会社を巻き込んでの倒産となりました。
同じく2023年には冷凍食品の加工などを行うハトヤ食品も倒産しています。食品スーパーや小売店、食品製造業者などに販路を形成し、4億円の売上があった時期もありました。
しかし、競争激化で売上は縮小。コロナ禍で著しい売上減となり、食材価格とエネルギー価格高騰の影響を受けました。
中小企業の中にはコロナ融資を受けた事業者も多く、2023年から本格的な返済が始まりました。しかし、消費が回復してもキャッシュフローに余裕がある会社ばかりではありません。
返済に窮した会社の多くが、事業の継続を諦めるのではないかとも言われています。
外食チェーンが冷凍食品の開発を積極化
冷凍食品を製造する会社は、M&A市場において人気の業種の一つです。同業であれば物流や食材の調達などを効率化して生産性を上げることができるためであり、別業界も旺盛に拡大する市場でチャンスをつかもうとしているためです。
別業界から冷凍食品製造に参入する会社に、外食チェーンやスーパー、食品卸などがあります。特にコロナ禍で事業の多角化を進める外食チェーンは、冷凍食品に力を入れています。
リンガーハットは主力の長崎ちゃんぽんや皿うどん、餃子などを24時間販売する自動販売機を設置しました。デニーズも冷凍食品の新ブランド「Denny’s Table」を立ち上げています。
ホテルオークラは、子会社を通して洋食や中国料理の冷凍食品を開発。レストランの売上減を補う取り組みを強化しました。
M&Aはビジネス拡大のきっかけになります。廃業の前に売却を検討してください。
工場などの設備の一部を売却する、事業売却も可能です。生産設備を必要としている会社も多く、まとまった資金を得ることができます。
金融機関からの借入が困難になった場合も、工場を売却することで運転資金を獲得できる可能性があります。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。