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産業廃棄物・環境 2023.10.4 配信

ウクライナ危機で急転換を迫られた世界のエネルギー事情

ウクライナ危機で急転換を迫られた世界のエネルギー事情

原油産出国と協調姿勢をとるロシア


ロシア軍によるウクライナ侵攻により、ロシア産の天然ガス供給が滞り、エネルギー価格の高騰を引き起こしました。その影響は未だ後を引いています。

サウジアラビアは2023年9月5日に原油の自主減産を年末まで継続する意向を示しました。原油価格は10カ月ぶりの高値をつけています。サウジアラビアとロシアは協調して原油価格を下支えしており、価格の高止まりは長期化する見込みとなりました。

 

原油価格の高騰は世界中に大きな影響を与え、再生可能エネルギーを推進していたヨーロッパは急転換を迫られています。

再生エネルギー優等生ドイツの敗北


世界中を驚かせたのが、再生エネルギー先進国ドイツの動き。ドイツはロシア産の天然ガスへの依存度が高く、深刻なエネルギー不足に陥りました。ドイツの電気料金は、2カ月ほどで2倍に跳ね上がってしまいます。

2022年のドイツの電気料金は、1年前と比較して1.6倍に上昇しました。

 

エネルギー不足はドイツの産業界にも暗い影を落とします。ドイツの主力産業の一つが製造業。その活動を維持するには莫大なエネルギーが必要です。エネルギー価格が短期的に急騰しているため、専門家は企業が拠点を国外に移す可能性を示唆していました。

 

そこで、白羽の矢が立ったのが石炭火力でした。ショルツ政権は2030年に石炭火力を廃止すると宣言。メルケル政権の目標を8年前倒しするものでした。しかし、背に腹は代えられず、2022年8月に予備電源となっていたドイツ北部ニーダーザクセン州にある石炭火力発電所3号機を再稼働したのです。

 

2021年上半期のドイツの火力発電の割合は27.1%。しかし、2022年上半期は31.4%まで高まりました。再生エネルギーの優等生と呼ばれたドイツが、まさかの大転換を迫られたのです。

ヨーロッパ各国もドイツに追随


石炭火力の再稼働は、ドイツだけではありません。2022年11月にフランス政府は北東部サンタボルドの石炭火力発電所を再稼働しています。この発電所は同年3月に閉鎖を決定しており、従業員を一部解雇していました。

オランダ、オーストリアも、制限をかけていた石炭火力発電所のフル稼働させる方針を示しました。深刻なエネルギー不足にあえぐヨーロッパ各国が、相次いで環境負荷の高い石炭火力に頼る結果となりました。

 

これらは期限付きの場当たり的な処置ではありますが、ロシアはエネルギー産出国を巻き込み、意図的に価格を維持しようとしています。今年の冬もヨーロッパはエネルギー不足に陥る可能性が高く、再び価格は上昇する可能性があります。

粛々と自国の太陽光パネル生産力を上げるアメリカ


アメリカは2022年3月8日にロシア産天然ガスの輸入を禁止しています。もともと、ロシア産のエネルギー依存度は8%程度と高くなく、アメリカに混乱は起こりませんでした。

むしろ、エネルギー政策を見直すきっかけとなりました。国内のエネルギー生産を高めようという機運が強くなったのです。

 

アメリカでは、太陽光発電を含めた再生可能エネルギーの貯蔵技術の開発、導入を奨励して国内での製造を促しています。米国太陽エネルギー産業協会は、連邦議会に太陽光発電の支援措置拡大を呼びかけました。

米国太陽エネルギー産業協会は、2030年までに年間50GWの国内太陽光パネル生産能力を達成するという目標を掲げています。2021年3月時点で太陽光パネルを生産する能力は7.7GWほど。アメリカは生産能力を大幅に引き上げて輸入に頼らない、自前の供給体制を確立しようとしているのです。

 

アメリカが国内での生産能力を高めているのは、別の理由もあります。中国の存在です。太陽光パネルのサプライチェーンは中国に集中しています。アメリカは将来的に、人権保護などを目的とした輸入制限措置を取ることも考えられます。

 

中長期的に再生可能エネルギーの需要が高まることは確実であり、太陽光パネルはその中核にある重要な産業の一つ。サプライチェーンの分断を招くことなく、スムーズに供給する体制を築こうとしているのです。

電力の在り方を見直すきっかけとなったエネルギーの高騰


ヨーロッパの国々と同じく、日本もエネルギー価格の高騰に苦しみました。特に電気代の値上げは家計や産業を直撃しました。

 

東京電力は2023年4-6月に1,362億円もの純利益を出しました。電力大手各社は電気代の値上げを実施しており、「市民がインフレで苦しむ中、電気代を上げて電力会社が大儲けするのはけしからん」といった意見がSNSで散見されました。

しかし、これは正しくありません。

 

東京電力は2023年3月期の売上高が前年同期と比べて1.5倍となる8兆1,122億円となりましたが、1,000億円超の純損失を出しています。

売上高が急増した主要因は、燃料調整額と呼ばれる燃料高を電気料金に反映する仕組み(簡単に言うと電気代の値上げ)が働いたため。売上高は1.5倍も膨らんでいるにも関わらず、燃料価格を吸収できずに巨額の赤字を出しているのです。

 

翌期の第1四半期で出した利益は、東京電力が価格転嫁できなかった燃料高の影響を、タイミングをずらして回収したに過ぎません。また、東京電力は電気代を自由に上げ下げできるわけではなく、取引監視等委員会の厳しいチェックを通して行われます。

実際、東京電力は29.31%の値上げをしようとしましたが、最終的には15.90%で受理されました。

 

東京電力は2023年6月末時点の自己資本比率23.8%であり、決して財務状況が良好なわけではありません。儲けすぎというのは単なるイメージで、むしろエネルギー価格高騰という難局を何とか乗り切ろうと努力しているというのが、正しい姿だと言えるでしょう。

 

関西電力は2023年3月期に176億円の純利益を出しています。東京電力は巨額の赤字を出しましたが、関西電力は黒字でした。

その要因の一つが、原子力発電。関西電力は電源の2割を原子力に頼っています。東京電力は柏崎刈羽原発の再稼働ができておらず、原子力はゼロ。7割以上を火力が占めています。

コストの安い原子力発電所は電源効率が良いのです。

 

エネルギー高は、日本の発電の在り方を見直すきっかけになったとも言えるでしょう。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。