投資ファンドとは何か?国内外の買収事例も併せて紹介
投資ファンドとは何か?国内外の買収事例も併せて紹介
220兆円を運用する国内最大の投資ファンドGPIF
投資ファンドは、世界中の投資家から資金を預かり、資産を運用してリターンを出す基金や会社のことを指します。国内最大の投資ファンドがGPIFで、2023年度は220兆円もの資産を運用しています。このファンドの原資は国民が収めた年金保険料です。
投資ファンドが投資対象とするものは様々で、株式や債券、不動産、金属、穀物などがあります。GPIFは国内外の株式と債券にバランスよく投資をしています。
名前はよく聞く投資ファンドですが、実際に何をしているのか今一つピンとこない人がいるかもしれません。この記事では、M&Aでよく登場するPEファンドに焦点を当てて説明します。
PEファンドの種類
投資ファンドは、投資信託の運用を行うアセットマネジメント会社や、デリバティブなどを駆使して高いリターンを得るヘッジファンド、特定の会社の株式の一部を取得して株主還元を要求するアクティビストファンド、スタートアップに投資をするベンチャーキャピタルなど、様々な形態があります。
PEファンドはプライベート・エクイティ・ファンドのことで、未公開株を主として投資をする投資ファンドのことです。ベンチャーキャピタルは広義のPEファンドに入ります。
PEファンドには、バイアウトファンドと企業再生ファンドの2つがあります。企業再生ファンドは、倒産や業績が悪化した企業を再生させます。投資ファンドのインテグラルは、2015年1月に倒産したスカイマークのスポンサーとなりました。スカイマークは2022年12月に再上場しています。
企業再生ファンドは債務の圧縮を図って資金を注入し、ハンズオン型で経営を立て直すケースがほとんどです。
中堅企業を投資対象に選ぶケースが多い
バイアウトファンドは非上場の会社の株式を買い付け、企業価値を高めて上場や売却によってエグジットを行います。
日本の代表的なバイアウトファンドに、アドバンテッジパートナーズ、ユニゾンキャピタル、J-STAR、ポラリス・キャピタル・グループなどがあります。先ほどのインテグラルもバイアウトファンドの一つです。
バイアウトファンドは、企業再生ファンドの性格も併せ持つケースが多くあります。
上に挙げた投資ファンドは独立系ですが、三菱グループの丸の内キャピタルや、丸紅系のアイ・シグマ・キャピタルなど大手企業の傘下にあるものもあります。
また、東芝の非上場化に成功した日本産業パートナーズや、海外需要開拓支援機構(クールジャパンファンド)などの官民一体型、東京大学協創プラットフォーム開発などの大学が主体となって運用する投資ファンドもあります。
日本の独立系投資ファンドが対象とするのは、出資総額が200億円程度までの中堅企業が中心です。大企業でも非中核事業のカーブアウト(事業を切り出して独立した会社として存続させること)を扱うケースが目立ちます。
投資対象は利益を出している会社です。PEファンドはベンチャーキャピタルのように、赤字でも伸びしろがあるようなスタートアップにはあまり出資をしません。手堅く利益を出している会社に好んで出資をします。
日本産業パートナーズはTOBで東芝を非上場化しましたが、買い付け金額は2兆円と言われています。このサイズを扱えるのは、日本では官民ファンドくらいでしょう。
巨額買収を行う海外のPEファンド
ただし、海外のPEファンドは巨額のM&Aを行うケースが少なくありません。
世界で1,600億ドルもの資産を運用するベインキャピタルは、2022年10月に日立金属を買収しました。総額8,000億円もの大型のM&Aです。
ベインキャピタルは2018年に東芝がメモリ事業を売却する際にも活躍しました。東芝メモリはキオクシアとして生まれ変わり、上場時期を見極めています。上場すれば時価総額は2兆円にもなると言われています。
1,100億ドルを運用するCVCキャピタル・パートナーズは、2021年に資生堂のヘアケア商品「TSUBAKI」の関連事業を1,600億円で買収しています。
CVCは東芝に対して2兆円を超える金額で買収提案していたことが明らかになっています。
PEファンドが買収するとなぜ会社の業績が好転する?
日本においては、大型のM&Aはあまり多くは行われず、中小企業の案件がほとんどです。業績が急悪化するなどの特殊なケースを除き、非上場企業のオーナーが投資ファンドに株式を売却する目的は大きく二つに分かれます。
一つは後継者不足で悩んでいるケース。もう一つは業績が思うように伸びないケースです。
PEファンドが会社を取得すると、ハンズオン型の経営に乗り出すことがほとんどです。プロ経営者を外部から招聘したり、出資したPEファンドに在籍する人物が取締役などに就任します。
これらの人々は、経営管理体制を一変させ、徹底的に利益が出る体制を作り上げます。中小企業の場合、昔ながらの付き合いがある取引先とは、多少利益率が悪くても継続して取引しているケースが見られます。こうした商取引を徹底的に見直し、企業価値を高める事業や取引先に経営資源を集中させて利益が出るようにします。
企業価値を上げると、上場または売却によって利益を出します。PEファンドは後継者問題を解決し、業績拡大にも寄与します。
PEファンドは出資からエグジットまでの期間がおよそ5年です。これは投資家から集めた資金を返還しなければならないためです。
東芝はなぜ買収されたのか?
2023年の投資ファンドによるM&Aと言えば東芝が代表的なものとなるでしょう。
東芝は、2006年1月に原子炉装置を開発するウェスティングハウスを54億ドルで買収しました。これが転落のきっかけとなります。
2011年に福島第一発電所の事故が起こると、各国がプロジェクトの見直しを行いました。ウェスティングハウスは工事を進められなくなってしまいます。収入源を失い、2017年3月に倒産しました。
東芝は買収によって生じたのれんの減損損失の計上が避けられなくなり、2017年3月期に1兆円近い赤字を出しました。これが原因で債務超過に陥ってしまいます。
メディカル事業やメモリー事業の売却、増資によって債務超過を回避しますが、上場維持が仇となってアクティビストとの対立に苦心するようになりました。2015年には不正会計も発覚しています。
救世主となったのが、官民ファンドの日本産業パートナーズでした。ロームやオリックスなど17社と徒党を組んで買収額の2兆円を集め、非上場化にこぎつけました。
東芝は3年後に再上場する計画をまとめているとも言われています。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。