キュレーションからオウンドメディアへ!加速するWebメディアのM&A
キュレーションからオウンドメディアへ!加速するWebメディアのM&A
手軽に売買しやすいWebメディアの特性
Webメディアは活発にM&Aが行われている領域の一つです。サイトのみの譲渡、編集者やライターを含む事業部の譲渡、会社の移転を伴う株式譲渡など、売り手と買い手の意向に合わせて柔軟に売買しやすいためです。
サイトだけであれば、安価で買い付けることもできるため、手軽に手を出しやすいという特徴もあります。
かつてディー・エヌ・エーはWebメディアMERYとiemoの運営2社を50億円で買収しました。キュレーションメディア全盛期の時代です。今では時代が変わり、オウンドメディアが主流となっています。
Webメディアの変遷とM&Aについて解説します。
創業者の考え方がそのままアルゴリズムに反映された時代
WebメディアはGoogleの精度向上に寄り添って成長してきました。現在はGoogleの脅威として、Microsoftが開発したオープンAIのChatGPTが注目を集めていますが、Google検索が消滅するとは考えづらく、今後もWebメディアとGoogleの依存関係は続くでしょう。
2000年代前半、Googleは検索結果のアルゴリズムにおいて、被リンクを重視していました。これは価値の高い論文は引用される数も多いという理論に基づいたもので、Webの記事においても人からの共感を得てリンクされたものは評価が高いはずだと考えたためです。
やがて、この仕組みが悪用されます。読む価値のない被リンク専用のサイトが発生し、上位に表示したい記事をリンクする事例が出てきたのです。その結果、詐欺に近いサイトが上位に表示されたり、意味不明な記事を掲載する被リンク用サイトが、ユーザーの目につくようになってしまいました。
ビッグワードの検索意図を汲んだ記事が上位に
当時、検索エンジンは様々な会社が参入するレッドオーシャンで、Googleが最も恐れていたのはユーザーが離れてしまうことでした。急いでアルゴリズムの精度を向上しなければならなかったのです。
Googleは記事の質に着目します。しかし、ロボットが記事を読んで良し悪しを簡単に判断できるものではありません。そこで、ユーザーの検索意図を汲むことに力を入れます。それがキュレーションメディアの成長を後押ししました。
検索意図とは、ユーザーが求めていた情報を提供することです。例えば、結婚式場を探す際に「エリア+結婚式場」などと入力した人は多いはず。これは飲食店やホテル、美容室などでも同じです。また、化粧品であれば「おすすめ 化粧品」と検索した人もいるでしょう。
これはビッグワードと呼ばれるもので、ニーズは顕在化しているものの、具体的な商品・サービスのイメージがつかめていないため、できるだけ多くのものを比較したいという検索意図があります。
Googleはその検索意図を読み取りました。多くの商品や場所を紹介している記事を上位に表示し始めたのです。
ビッグワードは月間の検索数が数千、数百とあります。できるだけ多くのキーワードで上位に上げることで、大量のPV数を稼ぐことができました。当時、メディアによっては数億PVを稼いでいたと言います。
記事の質の劣化が招いた最悪の事態
Googleは更新頻度が高く、記事数が多いメディアの評価を高める傾向もありました。それも手伝って、各メディアは大量の記事を投稿するようになります。
そして、広告単価の高い医療や金融メディアにも侵食しました。健康やお金は人の生活に直結するものでしたが、メディアは記事数を重視するあまり、質の追求を怠っていました。それがディー・エヌ・エーの大炎上したWELQ問題へと繋がります。
WELQは健康を扱うメディアでありながら、極めて質が低く、デタラメな記事ばかりだったことが明らかになります。当時、ディー・エヌ・エーは10サイトを運営していましたが、すべて閉鎖に追い込まれました。MERYとiemoを50億円で買収してから、わずか2年後の出来事です。
この出来事以降、Googleは専門性に目をつけました。ライターや監修者の専門性が高い記事ほど評価を高くする傾向が強まりました。また、専門性の高い記事が多いメディアほど、高評価となる傾向が強まります。
オウンドメディアを運用する難しさも露呈
それがオウンドメディア誕生の背景にあります。オウンドメディアは特定の目的を果たすため、専門特化した記事を投稿するメディアです。
採用、事業承継、相続、資産形成など、様々なテーマが設けられています。
採用であれば自社の求人への応募、資産形成であれば証券会社の口座開設などがゴール(目的)に設定されています。
オウンドメディアはサイト構築の難易度が下がったこともあり、様々な企業が手を出しました。しかし、ライター集めや記事管理、テーマ設定が難しく、志半ばで運用を諦めてしまうケースが後を絶ちませんでした。
また、アクセス数が集まるものの期待する成果が出ない、マネタイズに失敗したなどの理由で手を引くこともあります。
しかし、編集やライターチームを十分に抱えている会社にとって、事業の幅を広げられるメディアの譲受は魅力的。ダブついているライターの活用もできます。Webメディアが活発に売買される背景には、このような事情があります。
朝日新聞もWebメディアに乗り出す時代へ
次々とメディアを買収している会社の一つがイード。イードはもともと日産自動車の100%子会社として設立され、マーケティングリサーチを行うことが目的でした。やがて総合自動車ニュースサイトの運営に乗り出し、次々とWebメディアの運用を行うようになります。
現在では、アニメ情報サイト「アニメ!アニメ!」、資産形成の「マネーの達人」、教育業界向けニュース「ReseEd」などを運用しています。
買収事例は極めて多く、2023年3月にIPO情報サイト「庶民のIPO」のカブスルを買収。2022年8月には個人が運営していたビジネスメディア「決算が読めるようになるノート」「Web3事例データベース」「KPIデータベース」を取得しました。
2021年6月には自動車ニュースサイト「レスポンス」を運営するNHN SAVAWAYを5,000万円で買収しました。
朝日新聞もオウンドメディアに本格進出した企業の一つ。M&Aを活用してきました。2015年4月にオウンドメディアの運用支援を行うサムライトを買収。Webメディアの運用ノウハウを吸収しました。
朝日新聞は、ペット情報「sippo」や書評の「好書好日」、新たな切り口でニュースを伝える「GLOBE+」などのメディアを運用しています。
朝日新聞は新聞の部数の伸び悩みを経営課題と捉えており、その打開策の一つとしてWebメディアに可能性を見出しています。
専門性の高いオウンドメディアの隆盛は、欲しい情報が手軽に入るWebならではのものであり、一連のブームはしばらく続くものと予想できます。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。