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医療・製薬 2021.8.24 配信

コロナワクチンで存在感を発揮した製薬会社、旺盛なM&Aで成長産業に

コロナワクチンで存在感を発揮した製薬会社、旺盛なM&Aで成長産業に

コロナワクチンで存在感を発揮した製薬会社、旺盛なM&Aで成長産業に


2021年7月5日時点での国内新型コロナワクチン接種数は、1回目が3,255万165人で全人口の25.6%、2回目が1,832万798人で14.4%の接種率となりました。コロナワクチンの開発については従来の開発スピードより速く、早期実用化が推し進められました。日本ではファイザーのワクチンが2021年2月14日に薬事承認、モデルナとアストラゼネカが同5月21日に承認されました。ファイザーは2月17日から、モデルナは5月24日から接種が開始されています。アストラゼネカのワクチンは接種の進め方などについて審議を継続中です(2021年7月6日現在)。

6兆2,000億円の巨額買収に踏み切った武田薬品工業


ワクチンの接種により、アメリカの一部地域では、飲食店やテーマパークなどへの入場規制が少しずつ解除されるなど、日常を取り戻しつつあります。ワクチンは新型コロナウイルスで傷ついた経済を立て直す救世主とみられています。
製薬業界の2019年の市場規模は1兆2,504億ドル(約138兆円)と、非常にマーケットの大きい業界です。その中で日本の市場は7.0%(9.6兆円)です(第一三共「世界の医薬品市場」より)。
2019年1月に武田薬品工業が、アイルランドの製薬大手シャイアーを買収しました。驚くべきはその金額です。6兆2,000億円の巨額買収となりました。この金額は国内の過去のM&Aを振り返ってもダントツのトップです。シャイアーは2017年の売上高が1兆6,200億円で当時の武田薬品と同規模の会社。免疫系疾患、血友病、神経系疾患の3領域が主軸となっており、親和性の高い企業でした。

なぜ、製薬会社のM&Aは活発なのか?


薬の開発には多額の資金と時間がかかります。厚生労働省の「臨床研究に関する現状と最近の動向について」によると、医薬品の開発と承認には9年から17年かかり、成功確率はわずか0.0040%とされています。それだけの投資と労力をかけたとしても、成功する確率が極めて低いのです。

※キャプション:厚生労働省「臨床研究に関する現状と最近の動向について

それならば、M&Aで製薬会社や研究機関を買収した方が大幅なコスト削減に繋がり、成功確率も上げることができます。
買収額が大きくなりがちなため、買い手は資本力のある大手企業が多くなります。ロート製薬は2021年8月に「ボラギノール」の天藤製薬の株式67.19%を取得し、子会社化すると発表しました。買収額は90億円程度とみられています。アステラス製薬は体内埋め込み型医療機器を開発するアメリカのスタートアップiota Biosciences,Inc.を2020年10月に134億円で買収しています。
製薬業界は老舗の製薬会社や、創薬や医療機器の開発に取り組むスタートアップなど、活発なM&Aが繰り返されています。また、2019年5月に小林製薬が「梅丹」の梅丹本舗の全株を取得するなど、食品などの周辺事業強化を目的とした買収もあります。

国内抗がん剤市場の伸びが鮮明に


市場調査を行うReport Oceanは、世界の抗がん剤市場は2019年に1,054億ドルとなり、2020年から2027年にわたって6.7%を超えて成長するとの予測を出しました。富士経済は、国内の抗がん剤市場が2021年に最大市場を形成している生活習慣病薬市場を抜いて1位になるとのレポートをまとめています。抗がん剤に対する期待が高まっているのです。
医薬品大手のエーザイは2021年6月18日に、がんを狙い撃ちする抗体薬物複合体の共同商業化に向けて、アメリカの製薬大手ブリストルマイヤーズスクイブと戦略的提携契約を締結すると発表しました。ブリストルマイヤーズスクイブは、契約金として680億円をエーザイに支払い、更に開発や販売が計画通りに進めば最大で2,560億円を追加で支払うという内容です。
エーザイは日本・中国・アジア・欧州とロシアの売上収益を計上し、米国とカナダの売上収益はブリストルマイヤーズスクイブが計上することになります。このニュースにより、エーザイの株価は6月17日の終値11,400円から翌日の終値12,075円まで5.9%跳ね上がりました。抗がん剤は提携においても巨額の費用が絡むものであり、それによって株価が大きく変動することを示した事例です。

抗がん剤は製薬会社だけでなく、投資ファンドも注目している領域です。国内有数の投資ファンドであるアドバンテッジ・パートナーズは、2019年10月にキャンバスの新株予約権を引き受けました。キャンバスは抗がん剤の基礎研究に取り組むマザーズ上場企業です。キャンバスはアドバンテッジ・パートナーズの100%子会社である経営コンサルティング会社アドバンテッジ・アドバイザーズの支援のもと、組織体制の強化を図ることとなります。
研究開発企業は資金調達が困難で、製薬会社との提携や組織マネジメントなど事業推進力にも欠けるケースが目立ちます。投資ファンドや大手製薬会社の傘下に入ることにより、安定的に研究開発に打ち込めるようになります。
製薬会社や研究機関のM&Aは、買い手にとってはコストの大幅な削減、リスク回避、将来の収益性の確保によるメリットが生じ、売り手にとっては資金難の回避、提携先の拡大、研究開発へ集中できるメリットがあります。

主な製薬会社のM&A


【アステラス製薬が感染症治療薬などをドイツの製薬会社に売却】
アステラス製薬は、2021年6月16日に欧州やロシアなどで販売している感染症治療薬など5製品を、ドイツの製薬会社Cheplapharm Arzneimittel GmbHに9,500万ユーロ(126億円)で売却すると発表しました。譲渡実行日は9月以降。アステラス製薬は遺伝子治療薬などへの最先端医療に経営資源を集中しており、非中核事業を切り離しました。

【新日本製薬が食品輸入のフラット・クラフトの全株を取得】
新日本製薬は、MCTオイルやGHEEオイル、バターコーヒーなどの食材の輸入・製造・販売を行うフラット・クラフトの全株式を2021年6月に取得しました。新日本製薬は医薬品や健康食品に留まらず、ヘルス&ビューティー事業の領域拡大を目指しています。フラット・クラフトの健康効果の高い商品と事業の親和性が高いとして、買収を決めました。

【大日本住友製薬がイギリスのバイオ医薬品企業から中国での開発・販売権を取得】
住友化学の子会社、大日本住友製薬は、2021年6月に英国Roivant Science Ltd.傘下でバイオ医薬品企業Sinovantが持つ一部技術の中国での独占的な開発・販売権を取得しました。日本よりも市場の大きい中国での事業拡大を狙います。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。