トップページ
案件情報
M&Aとは
M&Aオールが選ばれる理由
業界特化M&A
ご相談の流れ・料金
M&Aの実例・インタビュー M&Aコラム よくあるご質問
まずはお気軽にご相談ください
医療・製薬 2021.9.1 配信

クリニック(個人診療所・医療法人)はM&Aできる? その方法をご紹介

クリニック(個人診療所・医療法人)はM&Aできる? その方法をご紹介

クリニック(個人診療所・医療法人)はM&Aできる? その方法をご紹介


国内有数の投資ファンドであるユニゾン・キャピタルは、2019年7月に医療法人同愛会、2020年9月に社会医療法人熊谷総合病院に出資して経営支援に乗り出すと発表しました。国内の投資ファンドが、医療法人の価値向上に努めるのはこのケースが初めてです。病院という非営利組織が売買の対象になることは、あまりイメージができません。しかし、医師や看護師の不足や跡継ぎ問題を背景として、病院の売却を望むケースは増加しています。また、病床数を増やしたいと考える医療法人も多く、買い手の需要も旺盛です。
この記事では、医療法人や診療所がどのようにして売買されるのか解説します。

2019年の医療機関の倒産は過去3番目に多い45件


病院と診療所の違いは病床数の数です。病院は病床の数が20以上のものを指します。病院は国立、公的医療機関、社会保険関係機関、そして医療法人などに分類されます。厚生労働省の調査によると、2018年10月の段階で全国の医療施設は179,090。前の年に比べて598施設増加しました。病院は8,372施設で40施設減少しました。一般診療所は102,105施設で634施設の増加、歯科診療所は68,613施設で4施設増加しています。
現在は病院よりも診療所の数が増加しています。

※厚生労働省「医療施設調査」より抜粋

日本医師会の調査によると、日本の人口1,000人当たりの病床数は13.0で、アメリカの2.9やドイツの8.0、フランスの5.9などと比較すると極めて多くなっています。日本は医療制度が手厚くなっているのです。
これは国の制度や国民性、高齢化など様々な背景があります。しかし何よりも、人々の健康を守り、命を救うという使命を持った医師や看護師に、手厚い医療体制が支えられていることは間違いありません。
法律上、病院の経営は医師以外でもできますが、実際に非医師が病院の開設を行うケースはごく稀です。病院経営者は医師としての責任感だけでなく、経営という重責も負うことになります。しかも医療機器には多額の設備投資費用がかかり、個人保証で借入金が必要になるケースもあります。

■医療機関の倒産件数推移

※帝国データバンク「医療機関の倒産、過去10年間で最多」より抜粋

2019年の医療機関の倒産件数は45件となり、2009年の52件、2007年の48件に次ぐ過去3番目水準となりました。病院経営にも当然リスクがあるのです。
医師が医療に集中できず、借金を負うことにもなる経営に尻込みし、次の世代に病院を引き継げないという悩みが多くなっています。そのために病院のM&Aが活発になっているのです。
株式会社は事業や規模拡大を目的としてM&Aを行いますが、病院はこれまで築き上げた医療制度を確保するために実施します。地域の医療を存続させる社会的意義の高いものです。

病院のM&Aのメリット


売手は後継者不足の解消ができます。小さな診療所の場合、規模の大きい医療法人に買収されることで、高額な医療機器の相互利用などが進んで、医療の質が上がります。医師や看護師の雇用を守ることもできます。
買手は病床数を増やすことができます。これが最大のメリットです。病床の総数は地域ごとに上限が決められており、自由に増やせるものではありません。M&Aによって病床数が拡大でき、同時に受け入れ患者数を増やすことができるのです。病院の種類によっては診察領域を拡大することができ、専門性の高い医師や看護師などのスタッフを獲得することもできます。特に有資格者の確保は病院経営の継続にとって有利に働きます。

医療法人はどのようにして売却するのか?


医療法人は大きく2つに分かれます。「持分あり医療法人」と「持分なし医療法人」です。医療法が改正されたことにより、2007年4月1日以降に設立された医療法人は持分なし医療法人となりました。
持分ありの医療法人は、医療法人設立時に出資者が財産権や払戻請求権を持っています。そのため、M&Aで医療法人を引き継ぐときに出資した割合に応じて出資持分の払い戻しを受けることができます。
医療法人は利益剰余金を配当として分配することが禁止されているため、評価額が極めて高くなる傾向があります。ただし、出資持分譲渡価格から当初出資額と必要経費を引いた額に20.315%の税金がかかります。譲渡額は純資産にのれん代を加算して算出します。のれん代はカルテ情報などの病院経営に必要不可欠な無形資産が含まれます。
利益が蓄積されて純資産が膨らみ、評価額が高くなるのは売り手側にとってメリットが高いですが、一方で高額なことが災いして買い手がなかなか見つからないこともあります。利益率の高い病院やクリニックを経営している場合は注意が必要です。
医療法人は出資持分譲渡の他に、事業譲渡や合併も選択できます。事業譲渡は契約で決めた財産を移転します。契約に含めない限り売手に債務は移転しません。
持分なし医療法人は、M&Aによる出資者への出資持分払い戻しは行われません。2017年3月の段階で持分ありの医療法人は、医療法人全体(財団医療法人を除く)のうち76%を占めています。持分ありの医療法人が圧倒的に多く、M&Aの中心を占めています。

個人診療所のM&Aは?


個人開業の診療所のM&Aの場合、施設や医療機器を引き渡すことはできますが、負債や従業員の雇用契約を引き継ぐことはできません。雇用契約を引き継ぐ場合は、買い手側と新たに雇用契約を結ぶことになります。カルテの情報も引き継ぐことは可能です。もし、カルテ情報を引き継がない場合は、建物や医療機器を時価額で譲渡する居抜きと同じ扱いになります。
個人診療所の医師は高齢化が進んでいます。日本医師会総合政策研究機構の調査によると、2012年の段階で70歳以上の診療所の医師は5人に1人。地域によっては診療所医師の4人に1人が70歳以上となっています。高齢化とともに診療所の承継も活発になっています。

主なクリニックのM&A


【埼玉医療生活協同組合の譲渡】
病床数311の羽生総合病院や病床数150の皆野病院などを運営する埼玉医療生活協同組合は、運営主体を医療法人徳洲会に移すことを決議したと、2021年6月に発表しました。毎日新聞は譲渡額を23億円と報じています。
ただし、このM&Aは難航が予想されます。埼玉医療生活協同組合は解散するとされていますが、その場合は持分ありの医療法人として、残余財産を出資持分に応じて分配することになります。組合員の資産額は159億円になりますが、引き継ぎ後の医療活動に必要な経費として133億円を計上しました。それによって組合の残余財産が23億円にまで目減りしているのです。出資金は1口46,000円となってしまします。組合員からすれば納得しがたい状況と言えます。病院の設立に多くの人の資金が入っている場合、こうしたトラブルが発生する可能性があります。

【東芝病院の譲渡】
東芝は2018年4月に東芝病院の事業の全部を、カマチグループに所属する医療法人社団緑野会に譲渡しました。東芝は社員の健康を守るために病院を設立していました。一般の人々にも開放して医療活動を行っていました。
東芝は巨額買収した原子力発電事業のウェスティングハウスが倒産したことにより、業績が急悪化して2017年3月期に債務超過に陥りました。経営再建のために東芝メディカルをキヤノンに譲渡。同時に病院も売却することとなったのです。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。