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M&A一般 2024.8.2 配信

大統領選挙の行方で大きく変わる? アメリカのM&Aの特徴とトレンド

大統領選挙の行方で大きく変わる? アメリカのM&Aの特徴とトレンド

8兆円近い巨額買収を発表したシェブロン


2023年のアメリカのM&A実行額は前年比5.3%減の1兆3,668億ドル。150円換算で143兆5,140億円という巨大な市場を持っています。全世界の実行額は2兆9,114億ドルで、およそ半分をアメリカが占めていることになります。

なお、日本は1,056億ドルでした。

 

2023年10月に石油会社大手シェブロンが同業のヘスを530億ドル(150円換算で7兆9,500億円)で買収すると発表するなど、ダイナミックなM&Aが頻繁に行われています。

アメリカのM&Aの現状を知ることで、業界の行く末を占うヒントが得られます。

ゲーム会社を買収したマイクロソフト


アメリカのディールメーカーとなっているのがエネルギー業界。2023年はイスラエルのガザ地区への攻撃が激しさを増し、政学的なリスクが高まりました。それを受けて業界再編の機運が高まったのです。

 

シェブロンのM&Aとほぼ同じタイミングで、エクソンモービルはシェールガス大手パイオニア・ナチュラル・リソーシズとの間で買収の合意に至ったと発表しました。買収額は600億ドルにのぼると見られています。石油・ガスのデボン・エナジーは、国内シェール市場での規模拡大を目指し、マラソン・オイルを含む主要な買収先を検討しているとも報じられています。

 

アメリカはシェールガスが豊富な産油国。シェールガスは採掘コストが高いという特徴があります。景気が停滞して原油価格が落ちると採掘ペースは緩やかになります。しかし、現在はロシア産のエネルギーが停滞し、インフレ局面に入りました。原油価格は高騰して採掘も活発化しているのです。

M&Aも活況だということは、原油価格の高止まりが予想されているのでしょう。

 

ヘルスケア領域も好調。製薬会社ブリストル・マイヤーズスクイブはがん治療薬拡充を目指してバイオ企業ミラティ・セラピューティクスの買収で合意しました。最大58億ドルのM&Aです。

 

エネルギーとヘルスケアが取引額で大きなウエイトを占める状態は、20年以上続いています。

ただし、取引数においてはテクノロジー関連が圧倒的。活発な企業の一つがマイクロソフトで、2022年にゲーム会社のアクティビジョン・ブリザードを買収すると発表。一時は独占禁止法に抵触するとの懸念が出て調査が行われましたが、2023年10月に買収は成立しています。このM&Aは690億ドルというIT企業にしては珍しい大型の案件でした。

 

エネルギーやヘルスケア領域は再編を主軸とした巨額の案件が多く、IT企業は有望なベンチャー企業に資金を投じているために取引数が多く、取引額は少ない傾向にあるのです。

利上げストップでM&Aは更なる活発化の予感?


アメリカのM&Aが活況とはいえ、2023年の取引額は5.3%の減少でした。その背景の一つに、急激な金利の引き上げがあります。2023年7月の会合では、0.25%の利上げを決定。政策金利は5.25%から5.5%の幅となり、2001年以来で最も高い水準となりました。

巨額のM&Aを行えるのも、金融機関からの借入ができてこそ。多くはLBOローンと呼ばれる被買収企業のキャッシュフローを返済原資とした借入を活用します。政策金利が引き上げられれば、当然借入金利は高まります。結果的に借入額が少なくなるのです。

2022年から2023年は特にベンチャー投資が抑制され、2022年の投資額は前年の3割減となりました。急速な利上げはM&A業界に冷や水を浴びせたのです。

 

しかし、2023年12月の会合で3会合連続の利上げ見送りを決定。利上げ局面は終了したと見られています。

2024年1-3月のアメリカのM&A取引額は前年同期間比59%増の4,318億ドル。増加へと転じています。

M&Aの規制強化を図ったバイデン政権


2024年の世界的なビッグイベントと言えば、アメリカ大統領選挙。バイデン大統領が選挙戦を辞退することが正式に決定。民主党はハリス氏、共和党はトランプ氏を指名しての熱戦が繰り広げられています。

選挙の行方はM&A業界も大きな関心ごとの一つ。バイデン政権下では、大企業のM&Aによる寡占的状況にメスが入りました。

 

企業の強い支配力が、賃金上昇や賃金低下の原因と判断。寡占化が進んで格差の拡大など、不安定な社会になることに懸念を表明したのです。バイデン氏は「巨大企業に大きな力を与える40年間の実験は失敗した」と演説。ITやヘルスケア、運輸、通信、農業、銀行などの幅広い分野で具体的な是正策を示しました。

 

基本的には審査を厳しくするというもので、マイクロソフトのアクティビジョン・ブリザード買収が長期化したのもこの影響を受けたものと見られます。

 

M&Aの規制強化の背景には、巨大企業が力を持ちすぎると、消費者や労働者、中小企業などの力の弱い者にしわ寄せがくるとの認識があります。寡占化が進むことで値上げがしやすくなり、仕入先の価格交渉力も上げることができます。つまり、仕入価格を下げやすくなるということです。

その結果、中小企業の労働者は賃金上昇が見込めなくなります。そこに物価高が重なると、社会的な弱者の生活は苦しくなる一方だというのです。

 

自由の国アメリカでは、こうした考え方に対する反発が強いのも事実。ベンチャー企業の主要な出口戦略は巨大企業への売却であり、規制が厳しくなれば起業の機運が失われるとの意見も出ていました。

トランプ当選でもM&Aの審査は厳しくなる?


トランプ氏が当選しても、M&Aの審査は厳しくなるのではないかとブルームバーグが報じています。

これは副大統領にバンス上院議員を選んだため。バンス氏は独占禁止法に強硬な態度を見せており、大型合併の税優遇措置を廃止する法案に署名しています。

日本製鉄によるUSスチールの買収計画に懸念も示しました。過去にはメタによるインスタグラムの買収にも反発する姿勢を見せています。

 

ハリス氏もバイデン政権の金融規制政策を推進する可能性は高いでしょう。過去にはウォール街の銀行と対立したこともあります。

法規制という側面において、両者の方針が大きく変わることはないかもしれません。

 

ただし、トランプ氏は中国製品に対して高い関税を課すとの計画を示しています。更に不法移民を強制送還させるなどの強硬手段に出る可能性もあり、賃金が上昇してインフレ圧力が高まる可能性があるのです。

 

インフレが進行すると、金利が上昇する懸念があります。そうなれば、再びM&A業界は冷や水を浴びることになるでしょう。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。