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IT・通信・システム開発 2024.7.3 配信

江崎グリコがシステムトラブルで売上高150億円の下方修正…業界を取り巻く問題点が表面化

江崎グリコがシステムトラブルで売上高150億円の下方修正…業界を取り巻く問題点が表面化

グリコは2か月経過しても完全復旧しないという異常事態に


人々の生活に関わるインフラがすべてIT化されるようになり、システム開発は健全な社会を構築する上で必要不可欠なものとなりました。

システムの重要性が高まる一方で、システム開発を支える業界は多くの課題を抱えています。江崎グリコはシステムトラブルによって一部商品が出荷停止となりました。2024年4月初めに障害が発生し、6月に入っても完全復旧しないという異例の事態に陥っています。

グリコは2024年12月期の売上高を従来予想の3,510億円から3,360億円に修正。150億円の下方修正を行いました。

 

システム開発業界はどのような課題を抱えているのでしょうか?

当初の計画から1年延期された巨大プロジェクト


グリコはほぼすべてのチルド食品がシステム障害で出荷停止となりました。主力の「プッチンプリン」や「カフェオーレ」、「アーモンド効果」、「BifiXヨーグルト」など、商品は多岐にわたります。食品メーカーは、スーパーマーケットなどの購買担当者と売場の良好な棚の確保を目的として、激しい交渉を繰り広げています。

システム障害の影響は一時的だったとしても、バイヤーと再び交渉して棚を確保する必要があり、この問題は長期化も予想されます。

 

グリコはこれまで、生産や営業、会計などのシステムが部門ごとに分かれていました。これを統合するという大がかりなプロジェクトだったのです。新たに導入するシステムはドイツのSAPだったと言われています。この会社は会計、人事、配送、販売、在庫などと統合管理するためのERP(統合基幹業務システム)を提供しています。

一次請けとなっていたのが大手コンサルティング会社。このプロジェクトはスムーズに進んでいたわけではなく、当初の計画から1年以上延長していました。どのような意思決定が働いて切り替えを決断したのかは不明ですが、被害の大きさから十分なトラブル対策がとられないまま、切り替えをしてしまったものと想定されます。

 

部門ごとに切り分けていたシステムを、SAPのパッケージソフトを使って一つに統合するというのは、極めて難易度が高いもの。段階的に新システムに移行する措置もとれたはずですが、それがなされませんでした。

関係者の視点が噛み合わないシステム開発特有のプロジェクト


システム開発は要件定義という重要な工程を経て進められます。これはシステムの設計図に近いもので、要件として何を盛り込むのか顧客と協議することを指します。何を作るべきなのかを明確にし、顧客とそれに齟齬が生じていないかすり合わせを行います。

 

一見すると単純なようにも見えますが、最も難易度の高いものだと言われています。

その理由として、以下の3つが挙げられるでしょう。

 

1.顧客のITへの理解不足
2.相互理解の難しさ
3.関係者の視点の違い

 

ベンダーはITのスペシャリストですが、顧客のプロジェクト担当者がそうとは限りません。そもそも意思疎通が難しいという問題点があります。ITの用語に対する専門家の理解と、一般人の理解には乖離があります。そのため、お互いのイメージに齟齬が生じてしまいやすいのです。

 

その反対もあります。グリコであれば、顧客(プロジェクト担当者)は食品の製造や流通、販売のプロフェッショナルです。業界の商習慣には馴染んでおり、相手は当然知っていると考えていることもあるでしょう。しかし、開発側はその理解が不足しています。相互理解がしづらいのです。

 

また、システム開発は巨額の投資で取締役などの重役や各事業部長などが要件定義に参加することもあります。そうなると、経営者の視点(キャッシュフローや将来的なビジョン)、事業部長の視点(事業運営効率や事業の業績)、各担当者(販売成績や業務のしやすさ)など、複合的な視点で語られます。

システムは何もかも実現できるものではありません。時間や金額に制限があるためです。各ポジションから出た意見や要望、要件を整理して提案し、取りまとめを行わなければならないのです。

 

合意がとれて要件が定義されると、設計・開発へと着手します。やっかいなのは、要件定義を終えた後になっても、それを覆すような要望が次から次へと出ること。常識的に考えれば、それはでないはずです。ところが、実際の現場ではそれが繰り返されているのです。

これはお金を払う側の発注者が上、受注した受注者が下、という構図になっているためです。

 

数億、数十億円規模のシステム開発プロジェクトを担い、要件定義を終えた後の顧客の追加の要望に対して、「この段階でそれを盛り込むことはできません」ときっぱり言える人がどれだけいるでしょうか?

この構造こそが、システム開発の現場の負担を重くしている一番の要因なのです。

 

グリコにおいては、訴訟が視野に入っていると考えられますが、裁判で重視されるのが要件定義。要件定義通りにプロジェクトが進行し、システムが組み上げられていれば、開発業者への責任は軽くなるでしょう。

野村ホールディングスに勝訴した日本IBM


発注者が上という立場を利用し、不当に開発事業者に圧力をかけることに対しては、是正する動きも出てきました。

 

2013年に野村ホールディングスは、日本IBMを相手取って36億円の損害賠償を求めました。投資一任口座サービスに関するシステム開発を委託したところ、スケジュール通りに進捗せず、稼働を予定していた時点でシステムの出来があまりに不十分だったというものです。

この訴訟は、野村ホールディングスの敗訴が確定しています。2019年3月に一審では日本IBMに16億円に支払いを命じたものの、2021年4月の控訴審では野村ホールディングスの請求を棄却。東京高裁は仕様変更を何度も要求した野村側に非があると結論づけました。

野村側のプロジェクト担当者が、途中で攻撃的発言で追加要件を繰り返した事実が明るみになっています。

 

システム開発は、プロジェクト終了後の稼働において人々の生活や企業活動に多大な影響を与えます。そのため、現在ではITだけでなく、法律や労務、資金繰りなど様々な観点で管理されるようになっています。

M&AでDXコンサルティングの第一線を駆け抜けるアクセンチュア


システム開発は、ベンダーやコンサルティング会社などの一次請け、設計・開発などを行う二次請け、プログラミングを行う三次請け、そのサポートを行う四次請けなどと多層構造しているのが一般的です。

二次請けや三次請けの技術レベルが低く、プロジェクトが失敗するというケースもあります。

そのため、一次請けがM&Aによってその活動を支える会社を傘下に入れることが少なくありません。意志疎通を取りやすくし、技術レベルの向上を図るのです。

 

先陣を切っているのがDXコンサルティングのアクセンチュア。2024年5月に流通・小売業界に強いクラウドシステムを開発するオープンストリームホールディングスを買収。同年4月には金融業界や行政機関向けシステムの保守管理を行うクライムを取得しています。

 

アクセンチュアは上質な人材の獲得にも積極的。2022年11月にAIデータ分析などを行うALBERTをTOBで子会社化しました。これはアクハイアーと呼ばれる、人材獲得型のM&Aだと言われています。

 

社会的な重要性が高まるシステム開発会社は、その複雑な構造からM&Aが進みやすい業界の一つだと言われています。特に人材不足に陥りがちな中小企業において、加速するでしょう。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。