中小企業を狙った悪質な事業承継に注意!現金流出を狙ったケースが散見

中小企業を狙った悪質な事業承継に注意!現金流出を狙ったケースが散見
信頼できる仲介会社で誠実なM&Aを
中小企業のひっ迫した事業承継問題を逆手に取った、悪質なM&Aが表面化しています。
M&Aを行った後に多額の役員報酬の要求やグループ内の循環取引への加担、元役員の連帯保証を解除せずに会社の現金だけを抜き取って姿を消す、従業員から運転資金を借りて連絡を絶つなど、数多くの信じがたい事例が明るみになってきたのです。
買収された会社は倒産を余儀なくされ、多数の従業員が職を失う事態にまで発展しているケースもあります。こうしたM&Aは仲介会社を通して行われているものが多く、事業者の質が問われる時代になりました。

役員に就任するも連帯保証人を切り替えることなく姿をくらます
現在、問題となっているのがルシアンホールディングス。東京都千代田区に本社がある投資会社で、2021年から2023年にかけて37社が被害にあいました。
飲食店、建設、電気工事、システム開発会社など、買収した会社の業種は多岐にわたります。この会社の手口は悪質そのもの。買収した会社の役員にルシアンの役員が就任する一方で、会社の債務の連帯保証人の切り替えには応じませんでした。1000万円の役員報酬を得たほか、従業員から1000万円を借り入れて返済することもなく、消息と絶ちました。
しかも、この会社の従業員の2か月分の給与が支払われませんでした。
それ以外にも、会社の資金1000万円を抜き取って連絡がなくなるケースもありました。ここでも連帯保証人を切り替えていなかったため、前経営者は6億円もの債務を抱える事態に発展しました。家と預金の口座を差し押さえられるという最悪の事態に陥りました。
ルシアンホールディングスの役員は、「資金繰りの悪化した会社を立て直すのが得意」などと言い、事業承継や会社の経営状態に悩んでいた経営者は相手を信頼して譲渡していました。
30億円もの資金を流出させる
同様の問題は、以前からありました。
2021年9月にサンフェニックスという会社が民事再生法の適用を申請して開始決定を受けています。
この会社は2016年4月に個人が買収して理事長に就任していました。しかし、メインの介護施設が経営不振に陥り、資金繰りが悪化。同じ人物が経営を支配するグループ会社同士が循環取引を行うようになり、サンフェニックスもいつしかそれに参加。買収時に手元にあった30億円の現預金がグループ内の企業に流出しました。
サンフェニックスの倒産後、医療法人や一般法人が相次いで破綻。連鎖倒産が起こっています。
このケースでは、理事長が株主やファンドのオーナーとして企業を買収する一方で、代表などの役員には就いていませんでした。代表であれば、契約書や登記などから与信管理を行うことができます。しかし、実質的に会社を支配する人物として表に出なければ、把握することが難しくなります。
こうした問題を受け、金融庁は金融機関などに対して法人の実質的支配者の把握を求めています。

交渉力や力関係で下になりがちな中小企業経営者
中小企業がM&Aのトラブルに巻き込まれやすいのはなぜでしょうか?
事業承継や資金繰りの悪化を背景とするM&Aの場合、売却側の交渉力が弱くなりがちで相手の言いなりになりやすいことが要因として挙げられます。M&Aの経験も薄く、情報量が少ないことも重なって諸条件を鵜呑みにしてしまうのです。また立場上、強く言えないということもあります。資金繰りに困っている場合はなおさらでしょう。
事業承継を検討している中小企業経営者で、豊富な現預金を保有している場合は、食い物にされやすいので特に注意が必要です。
真っ当なM&Aの場合、買い手はシナジー効果を期待して両社がともに成長することを望んでいます。何らかの理由によって買収した子会社が倒産の危機を迎えたとしても、資金援助や事業再生プランの構築を行って共に手を取るのがあるべき姿でしょう。
前経営者の連帯保証を切り替えない、多額の役員報酬を要求する、従業員から借り入れを行うなど、ステークホルダーの不義理になるような行いは許されません。
M&Aの交渉を行う際、買収を希望する経営者が信頼できる人物なのかどうかの見極めは重要です。
悪質な仲介会社にも注意を
こうした悪質なケースに巻き込まれないためにも、M&Aの仲介会社は慎重に選びましょう。
朝日新聞は某大手企業のグループ傘下にあるM&A仲介会社が、買収後にトラブルにあったとして9,000万円超の損害賠償を求める訴訟を起こされていると報じています。大手企業の傘下にある仲介会社だからといって、良質な買い手と結びつけるわけではありません。
悪質な仲介会社は、高額な手数料を取ることだけを目的にしていることがあります。そのため、早期に取引を成立させることや、クロージングにのみ注力しており、扱う会社の将来を気に掛けることがありません。会社を売却した後のシナジー効果を気にすることなく、手っ取り早く契約してくれる相手を探すのです。
本来、M&Aの仲介会社はマッチングサービスではありません。売り手、買い手双方が持つ課題解決を目的とした、コンサルティングサービスのはずです。コンサルタントも各業界の知識を持ち、最適な相手と結びつけようと最大限の努力を行います。
M&Aの仲介会社を探す際、どうしても着手金や手数料などに目が行ってしまいます。もちろん料金の比較を行うのも一つの方法ですが、それよりも真剣に会社のことを考え、M&Aに取り組む事業者を選ぶべきでしょう。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。