M&Aで活用できる補助金はある?NG事例も紹介
M&Aで活用できる事業再構築補助金とは?NG事例も紹介
「事業承継・引継ぎ補助金」「事業再構築補助金」とは?
M&Aで活用できる補助金として、主に「事業承継・引継ぎ補助金」と「事業再構築補助金」の2つが挙げられます。どちらもM&Aを契機として経営革新等を行うことを目的としています。
前者は事業承継を主な対象としており、後者は業態転換や新規事業への進出を行うのであれば、事業承継に限らずM&Aに活用することができます。
M&Aで活用しやすい2つの補助金の特徴と注意点、NG事例を紹介します。
事業承継の費用負担を軽減して中小企業の活性化を
「事業承継・引継ぎ補助金」は、日本の中小企業の事業承継問題を解決するために作られたものです。
日本は高度経済成長期に数多くの会社が設立され、国の繁栄を支えました。しかし、中小企業を中心として経営者の跡取り候補を見つけることができず、廃業や倒産を余儀なくされる会社も少なくありません。2022年の後継者不足による倒産は過去最高の487件に達しました。
M&Aは事業承継問題を解決する手っ取り早い方法の一つです。しかし、買い手側にとっては巨額の出費を伴うことがあり、簡単に買収の意思決定はできません。この補助金は、後継者不足に悩む企業をサポートしたいと考える企業オーナーの背中を後押しするものです。
類型が2つに分かれています。
1.経営革新
2.専門家活用
経営革新は事業や経営資源を引き継いだ後、その会社を成長させるために改革や新規事業推進などを促進するものです。
主に中小企業や小規模事業者を対象としており、個人事業主にも適用できます。承継した会社のノウハウを活用し、新たなサービスを生み出したい、別の業種に参入したい、新商品を生み出したいなどのチャレンジが可能です。
経営革新は補助上限が600万円、補助対象経費の2/3と定められています。上限額は廃業費として、プラス150万円が認められています。
専門家活用は、売り手と買い手の両方が支援対象となります。ただし、業歴が短い会社は対象になりません。
買い手はM&Aでシナジー効果が認められる、経営革新を行うことができるなどの要件を満たさなければなりません。売り手は地域の雇用を担っているなど一定の条件を満たすことが必要です。
この補助金は専門家等との補助対象経費にかかる費用に充当できます。買い手は外注費、システム利用料などが含まれ、売り手は廃業に必要な解体費、原状回復費などが当てはまります。
補助額は経営革新と同じです。
「事業承継・引継ぎ補助金」のNG事例は?
以下のようなパターンは補助の対象外となります。
●事業承継対象期間内に創業・事業の引継ぎを行っていない
●建物や設備のみを譲り受けた
●承継者が引き継いだ事業に必要な資格・実務経験を持っていない
この補助金は、事業承継対象期間内に創業しているか、事業を引き継ぐ必要があります。2023年3月20日から5月12日までに申請受付したものは、2017年4月1日から2024年1月22日までに創業・引継ぎを完了させていなければなりません。
資産のみを引き継いだ場合は資格要件を満たしません。事業所、店舗、重機などを譲り受けた場合は対象外です。
事業の承継者が、その事業を行うのに必要な資格を持っていない場合も補助の対象とはなりません。
コロナ禍で打撃を受けた会社の救世主
「事業再構築補助金」は、新分野展開、業態転換、事業再編など、思い切った事業再構築をしたい経営者を支援する目的で設立されました。
新型コロナウイルス感染拡大以降、飲食店、宿泊施設、旅行、結婚式場、小売店など、集客力が著しく低下した業態があります。日常を取り戻したことで、回復する事業者も少なくありませんが、一部の会社は完全回復はしきっていません。
この補助金は、従来のビジネスを見直し、新常態に適応するのに最適なものです。例えば、居酒屋店を展開している会社が、設備投資の重い焼肉店に業態転換するといった使い方ができます。
M&Aにも活用できます。この補助金には事業再編の支援を目的としたものがあります。事業再編は、合併や株式交換、株式移転を伴う組織再編を行うことが要件に含まれています。組織再編を実施し、新分野展開を行うのであれば、補助金の活用が可能です。
補助額は細かく分類されてます。従業員20人以下の中小企業の場合、補助上限は2,000万円。補助率は1/2に設定されています。
支援される額は大きいものですが、ハードルが高いのも事実です。事業計画書が認定経営革新等支援機関の確認を受けることや、5年を目処に付加価値額を向上していることなどが求められます。
事業再構築補助金はおすすめしない?
事業再構築補助金は支援額が大きく、経営者にとってメリットが大きいように見えます。しかし、あまり積極的に推薦しないという声も聞かれます。
理由は他の補助金などと比べて認められるハードルが高く、経営者は申請書類の作成で時間がとられ、本業がおろそかになるためです。この補助金を活用する人は補助金獲得のための専門家に支援を仰ぐケースがほとんど。それでも、時間がとられます。
M&Aは一期一会とも言われ、良質な案件を取り逃がしたら二度と手に入りません。また、企業を譲受した後も統合するためのエネルギーを使います。
補助金の申請どころではない、というのが実情です。
本業に余裕ができ、補助金を活用しつつ新規事業を始めるなど、事業計画を立てるのに十分な時間が割ける経営者には向いています。コロナ禍でビジネスが行き詰まっており、補助金を活用してM&Aをしたいと考えているのであれば、おすすめはできません。
吸収合併などの事業再編を行い、経営効率の最適化を図りたい場合は、大いに活用すべきでしょう。コロナ禍をきっかけとして中食市場をターゲットとし、テイクアウト分野開拓を目的とした吸収合併において、補助金を活用した事例があります。吸収合併は経営資源の最適化を図る手段になります。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。