【証券会社 M&A】手数料の引き下げ合戦が加速するスマホ証券に再編の波
【証券会社 M&A】手数料の引き下げ合戦が加速するスマホ証券に再編の波
日本証券業協会によると、2020年度末の(日本証券業協会に加入する)証券会社数は268社となりました。4社増加、4社減少しており、2019年と同水準となっています。証券会社数は、2008年世界金融危機の321社を境に緩やかに減少。2015年から増加に転じ、2017年からほぼ横ばいで推移する状態が続いています。新規参入と脱退が拮抗しています。
■証券会社数推移
※日本証券業協会「FACT BOOK 2021」より
新規参入の後押しをしているのが、スマートフォンで手軽に投資ができるスマホ証券の人気です。2019年8月にサービスを開始したLINE証券は2年で80万口座を突破、2018年8月に丸井グループが始めたtsumiki証券は2028年までに預かり資産残高1兆円を目指しています。スマホ証券の人気はどこまで続くのでしょうか。
この記事では、証券会社の現状や課題、最新のM&Aの事例について解説します。
インターネット証券の誕生で格安手数料化が進む
証券会社は株式や債券、投資信託の売買を手掛けている会社です。企業や国、自治体が発行する証券や債券を、投資家が購入できるよう仲介する仕事です。形態は大きく3つに分かれています。1つ目は販売員を抱え、拠点を設けて顧客に金融商品を販売する総合証券会社です。野村證券、大和証券などがこれに当たります。2つ目は三菱UFJモルガン・スタンレー証券、みずほ証券、SMBC日興証券などの銀行系証券会社です。3つ目はインターネット上で取引を仲介するインターネット証券です。SBI証券、楽天証券、マネックス証券などがこれに当たります。
1996年から2001年にかけて行われた大規模な金融制度改革である金融ビッグバンにより、証券会社の新規参入が自由化されました。SBIホールディングスがソフトバンク・フロンティア証券を立ち上げ、インターネットによる取引を開始したのが、1999年10月。楽天証券の前身となるディーエルジェイディレクト・エスエフジー証券が設立され、オンライントレーディングソフト「マーケットスピードVer.1」の提供を開始したのが、2000年5月でした。金融ビッグバンはインターネット証券を誕生を後押ししました。
インターネット証券は、株式を売買する際の手数料を極限まで低く抑え込みました。プランにもよりますが、SBI証券、楽天証券は100万円までの取引の手数料を無料としています。対面型の野村證券は100万円までの取引で1,048円、大和証券は3,795円かかります。
インターネット証券の登場は、個人投資家が手軽に株式投資ができる体制を築きました。大手証券会社は経営者などの大口顧客を得意先としており、上手くすみ分けができるようになったのです。
スマホ証券は業界図を塗り替えるか?
インターネット証券の中から派生したのがスマホ証券です。スマホ証券の特徴は、1株単位で売買する単元未満株の需要に特化している点です。通常、株式の売買は100株単位で行われます。ユニクロを運営するファーストリテイリングの2021年9月22日の株価終値は75,960円でした。通常は759万6,000円の資金を持っていなければ投資することができません。しかし、単元未満株で購入できる口座であれば、1株(75,960円)から買うことができます。
インターネット証券で購入する場合、単元未満株の最低手数料は52円でした。例えば、総合商社の丸紅の9月22日の株価終値は885円でした。これを1株買う場合でも手数料は52円かかってしまいます。この割高感に目をつけたのがスマホ証券です。証券会社によって異なりますが、単元未満株の手数料は0.5%程度に設定されています。
スマホ証券は、インターネット証券よりも手軽に少額で投資したい層の取り込みに注力しています。
しかし、この市場は過熱気味です。しかも手数料を低額に抑えているために収益性に乏しく、事業継続のために資金調達を重ねているスタートアップが多いことが特徴的でした。そして今、巨大企業に買収されるケースが目立っています。
【One Tap BUY】
2013年10月創業でスマホ証券の嚆矢となったOne Tap BUYは、2020年6月19日にソフトバンクとみずほ証券を割当先とした第三者割当増資を実施し、両社による共同経営体制を構築しました。One Tap BUYは2017年11月にソフトバンクやみずほ証券、ヤフーなどから25億円の出資を受けており、資金面でのバックアップが続いていました。One Tap BUYは2021年1月にPayPay証券へと社名変更しています。
【FOLIO】
2015年12月に創業で「京都」「コスプレ」など変わった切り口でテーマ株に投資できたFOLIOを、2021年8月31日にSBIホールディングスが買収したと発表しました。SBIホールディングスの子会社SBIファイナンシャルサービシーズが、FOLIOの親会社であるFOLIOホールディングスの株式を取得、連結子会社化しました。FOLIOは2018年1月にゴールドマン・サックス、電通ベンチャーズ、LINEなどから70億円の資金調達をしていました。このとき、LINEと資本業務提携契約を締結しており、SBIホールディングスの子会社となった後もLINE Financialが主要株主として残ります。
スマホ証券はスタートアップに代わり、大手企業が事業展開する例が目立つようになりました。
【SBIホールディングスと三井住友フィナンシャルグループの資本業務提携】
SBIホールディングスと三井住友フィナンシャルグループは2020年4月に資本業務提携契約を締結。SBI証券とSBIネオモバイル証券、三井住友銀行の間でスマートフォンと利用して証券などの紹介をするサービスを開始します。
【大和証券のCONNECT】
大和証券は2019年4月に新会社CONNECTを設立。スマートフォン専用アプリをリリースし、1株単位で取引ができるサービスを開始しました。投資家のすそ野を広げる狙いがあります。
今後、様々な会社が立ち上げたスマホ証券のM&Aは加速する可能性があります。FOLIOのように一定の口座数を獲得しても赤字となるケースが後を絶たないためです。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。