トップページ
案件情報
M&Aとは
M&Aオールが選ばれる理由
業界特化M&A
ご相談の流れ・料金
M&Aの実例・インタビュー M&Aコラム よくあるご質問
まずはお気軽にご相談ください
半導体・製造 2022.10.26 配信

大手企業の再編が進む鉄鋼業界、業界の課題やM&Aの最新動向を紹介

大手企業の再編が進む鉄鋼業界、業界の課題やM&Aの最新動向を紹介

東京製綱の態度に業を煮やした日本製鉄


2020年3月、日本製鉄がワイヤー大手の東京製綱に対し、敵対的TOBを仕掛けたことが話題となりました。TOB価格は前日終値の36.5%プレミアムをのせた1,500円。日本製鉄は東京製綱の株式7%を保有する筆頭株主であり、材料を提供する取引先でもあります。

パートナーという位置づけが一転。高いプレミアムをのせた敵対的TOBを仕掛けてまで、支配力を強めました。その背景には、経営改善を促してきたものの、危機意識もなくやり過ごしていたことがあったと言われています。

日本の鉄鋼産業はピークを過ぎ、経営の効率化を進めなければ生き残れない時代となりました。日本製鉄のTOBはその焦りをよく表しています。

技術開発を推し進めても新興国に進出しづらいというジレンマ


日本の鉄鋼需要は縮小しています。

1990年のピーク時は9,400万トンの需要がありましたが、コロナ前の2019年で5,900万トンまで37.3%減少しました。輸出量は1,700万トンから3,500万トンまで増加していますが、内需の穴埋めをするまでには至っていません。

※経済産業省「日本鉄鋼業と日本製鉄の概況について」より

 

2000年に入り、建設ブームに沸いた中国は、日本やインドとはけた違いの勢いで粗鋼生産を続けました。2021年には10億3,300万トンを生産しています。日本は9,600万トン、インドが1億1,800万トンでした。

日本は海外に活路を求めることがビジネス拡大の近道。しかし、そこには課題も潜んでいます。

 

日本の大手メーカーは製鉄技術の向上を図るため、巨額の投資を行っています。日本製鉄は2012年以降、約6兆円を国内製鉄所の老朽防止や戦略商品開発に投じました。日本製鉄は上工程からの一貫製造を担い、品質向上に努めてきました。

日本製鉄は技術力を磨いてきたにも関わらず、需要が旺盛な海外への投資額は1兆円未満に留まっています。

鉄は産業の基礎と位置付けられており、新興国では国産化するのが一般的。日本がどれだけ優れた製鉄技術を持っていたとしても、海外メーカーへの許認可が下りることはほとんどありません。新興国での一貫製鉄所の建設は事実上不可能だと言えます。

 

そのため、日本製鉄では国内での一貫生産体制を築くことを重視しており、目下CO2削減という最先端技術に磨きをかけています。

製鉄所は石炭を使って鉄鉱石を還元しています。大量のCO2が排出されるのです。日本製鉄などの日本メーカーは水素を利用した水素還元技術を開発中。環境負荷の低い製品が世界的に求められる中、水素還元技術で大幅にCO2削減に成功すれば、製鉄所の建設は歓迎される可能性もあります。

大手メーカーの技術開発力には期待がかかっています。

鉄鋼業界の中小企業が抱える問題点


中小の鉄鋼卸売業は、取引先が限定的になるという特徴を持っています。

鉄鋼は原料調達から製造・加工、金属卸、製品、リサイクルというプロセスを形成しています。鉄鋼製品は建設、自動車、飛行機、船へと使われることがほとんど。この中でも建設業界の消費が激しく、多くの中小企業が建設業と密接な関係があります。

日本は都市部を中心に再開発が活発であり、住宅、インフラ補修なども含めて建設業界は活況と言えます。しかし、日本銀行が金利を引き上げて住宅ローン金利が上がると、住宅需要は急速に冷え込むこともあり得ます。

一つの業種への依存度が高い場合、ひとたび景気が悪化すれば、取引量の急減・売掛金の未回収リスクが高まるなど、打撃を受ける可能性があります。

 

また、ウクライナ危機によってエネルギー価格が高騰し、多くの企業の原料の調達費や輸送コストが利益を圧迫しています。一般的に中小企業は価格交渉力が弱く、原価の上昇を卸価格に転嫁することができません。

取引先の数が限られているため、薄利でも特定の取引先との関係を継続しなければならない点も課題の一つです。

主な鉄鋼業のM&A


ここでは主に大手企業の再編について解説します。

 

【NKKと川崎製鉄が経営統合してJFE HDが誕生】

2001年4月、NKKと川崎製鉄が経営統合に合意しました。統合によって粗鋼生産量は新日鉄住金に次ぐ国内2位、世界5位の規模へと拡大しました。

経営統合した背景には、1999年に日産の最高執行責任者としてルノーから送り込まれたカルロス・ゴーン氏の存在がありました。業績の悪化が深刻化していた日産の立て直し策の一つが、大幅なコストカット。ゴーン氏は着任してすぐに鉄鋼資材の調達先を集約すると公言しました。

当時の日産の鋼板使用料は月間8~9万トンで、トヨタ自動車に次ぐ大口取引先。NKKは25%、川崎製鉄は26%程度でシェアを分け合っていました。ゴーン氏はこうした日本らしい商習慣を是正し、価格競争力を強めようとしたのです。

結果として価格が割高だったNKKは仕入先から外され、川崎製鉄への合併へと繋がります。

 

【新日鉄住金が日新製鋼を完全子会社化】

新日鉄住金は2019年1月に日新製鋼を完全子会社化しました。新日鉄住金は同年4月に日本製鉄に社名変更。そのタイミングで日新製鋼のステンレス鋼板事業を統合しました。ステンレスは利益率が高く、日新製鋼の製品群を取り込んで収益基盤を広げる狙いがありました。

新日鉄住金はヨーロッパのアセロール・ミタルや中国勢などと比べると、生産規模で勝ち目はありません。しかし、日新製鋼を買収することで製品を多角化。品揃えで差別化を図る日新製鋼のノウハウは何としてでも欲しいものでした。

 

【日本製鉄が日鉄日新製鋼を吸収合併】

日本製鉄は2020年4月に日鉄日新製鋼を吸収合併しました。日本製鉄を存続会社とする簡易合併で、日鉄日新製鋼は解散しました。経営資源を相互活用し、経営の合理化を進めるもの。災害や新型コロナウイルス感染拡大などの影響を受け、日本製鉄、日鉄日新製鋼ともに業績が悪化。一体運営が必要との判断へと至りました。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。