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不動産 2022.10.19 配信

先行き不透明な環境で事業会社の不動産投資は盛り上がりを見せるか

先行き不透明な環境で事業会社の不動産投資は盛り上がりを見せるか

飲食専門企業が不動産投資を強化


コロナ禍で大打撃を受けた飲食業界。「ハードロックカフェ」や「カプリチョーザ」を運営するWDIも例外ではありませんでした。

2021年3月期は14億2,300万円、2022年3月期は8億3,600万円の営業損失をそれぞれ計上しています。2023年3月期第1四半期で1億500万円の営業利益を出しましたが、業績の完全回復は道半ば。中長期的な苦戦が予想されます。

 

コロナ禍をきっかけとしてWDIに変化が起こりました。次々と不動産を取得したのです。2021年11月に文京区のSENDAGI RESIDENCEを13億7,000万円で、同年12月に新宿区のパークアクシス市谷加賀町を21億2,000万円で取得しました。どちらも賃貸レジデンスで、家賃収入を目的としたもの。飲食店の出店を狙ったものではありません。

 

都市部の不動産は高止まりが続いており、事業会社による収益物件の取得は活発化するかもしれません。

凋落したフジテレビの業績を支える不動産


事業会社が不動産を所有し、家賃収入を収益基盤とすることは珍しくありません。

 

フジテレビのフジ・メディア・ホールディングスは、2012年3月に不動産会社サンケイビルをTOBで連結子会社化。不動産事業を本格化しました。2015年4月にはグランビスタホテル&リゾートも取得しています。

かつてフジテレビは視聴率でトップの座に留まり、高収益企業として有名でした。しかし、近年はキー局の中で視聴率が最下位へと転落し、テレビ事業の収益性を落としています。

会社の業績は不動産事業に救われることになりました。

 

2022年3月期の不動産事業の営業利益は111億5,300万円で、営業利益率は10.6%。メディア事業の営業利益率は5.6%でした。不動産事業が稼ぐ力はメディア事業を圧倒しています。

決算説明資料より

 

フジ・メディア・ホールディングスはグランビスタホテル&リゾートを傘下に収めているため、ホテルの収益性が低下しています。インバウンドの回復や、GoToトラベル開始による国内旅行の盛り上がりにより、稼ぐ力は更に高まる可能性があります。コロナ前の2019年3月期の不動産事業の営業利益率は13.1%でした。

 

メディア事業の再建目処はたっておらず、今後も不動産事業が業績をけん引することになるでしょう。

 

大赤字の穴埋めに一役買った朝日新聞の不動産事業


本業の不調を不動産事業が補う構図は、朝日新聞も同じです。

 

朝日新聞のメディア事業は、2020年3月期に49億9,900万円、2021年3月期に120億2,500万円という2期連続の大赤字に見舞われました。しかし、不動産事業は2020年3月期に74億700万円、2021年3月期に52億5,400万円の営業利益を出しています。

 

メディア事業は2022年3月期に44億6,600万円の営業利益を出しますが、営業利益率はわずか1.9%。不動産事業の営業利益率は16.5%と高収益体質を維持しています。

朝日新聞は年を重ねるごとに発行部数を落としており、メディア事業はジリ貧の状態。しかし、不動産事業があるため、収益基盤の安定化が図れています。

都市部の不動産は高止まりの状態が続くか?


コロナ禍で大手企業を中心にオフィス面積を減らす動きが加速しました。リモートワークも進み、都市部のマンションから郊外の物件に移り住む人も多く見かけます。

気になるのは、不動産を取得した後の資産価値の減少や、家賃収入が得られなくなる可能性があるのではないかということ。

しかし今のところ、不動産市況は活況で、表面利回りも安定しています。

 

下のグラフは不動産投資に関する考え方を、不動産投資家に聞いた結果。「新規投資を積極的に行う」との回答は94%で新型コロナウイルス感染拡大後も横這いで推移しています。

 

■今後1年間の不動産投資に対する考え方

※日本不動産研究所「不動産投資家調査」より

 

投資意欲は衰えておらず、既存所有物件を手放そうとする動きもこれまでとほとんど変化がありません。

その背景として、物件価格が堅調に推移していることがあります。都市部の一棟マンションの価格は2022年に再び2億円台に突入しました。

 

■一棟マンションの価格と表面利回り

※楽待「全物件種別で価格上昇、一棟アパートは過去最高額を更新」より

 

表面利回りも横這い。物件価格は2022年1-3月に1億8,860万円まで落ちましたが、そのときと利回りはほとんど変わらないことを示しています。

 

オフィスビルにおいては、確かに新型コロナウイルス感染拡大をきっかけとして、空室率が上昇しました。その傾向が顕著なのは東京都です。

※ビルディング グループ「全国6大都市圏 オフィスビル市況調査」より

 

コロナ前の東京のオフィスビルの空室率は2%前後という低水準で推移していましたが、コロナ後は7%前後となりました。

2021年に入ってからは空室率が加速することはなく、数字は落ち着いています。日常を取り戻しつつある中、これ以上空室率が上がる可能性は低いでしょう。

 

都市部の不動産はコロナ禍の異変を乗り越え、安定しはじめています。その一方で、飲食やホテル、旅行業界を中心として一部の会社では本業は回復しきっていません。事業会社が収益を安定させる目的で、物件を取得する動きは今後も加速するかもしれません。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。