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半導体・製造 2022.10.12 配信

M&Aによる再編が進む電線・ケーブル業界の現状

M&Aによる再編が進む電線・ケーブル業界の現状

2020年4月に古河電気工業と昭和電線ホールディングスが、建設・電販市場向け汎用電線を扱うSFCCを設立しました。これにより、建設・電販分野は従来の5社から、矢崎エナジーシステム、住電日立ケーブル、フジクラ・ダイヤケーブル、SFCCの4社に集約されました。

SFCCは、代理店事業を主とする昭和電線ケーブルシステムと、直販の古河エレコムの強みを活かした経営体制をとります。

電線・ケーブル業界はM&Aによる再編が急ピッチで進んでいる分野。その背景には、電線の出荷量が縮小していることがあります。

出荷量は60万トン台の横ばいで推移


銅電線出荷総量のうち、建設・電販部門の構成比率は40%台後半。電気機械(20%後半)、自動車(10%台)、電力(10%以下)などと比較して高いという特徴があります。

しかし、肝心の銅の電線の出荷量はバブル崩壊をきっかけとして減少に転じました。2009年以降は60万トン台で推移しています。

※経済産業省「非鉄金属産業の現状と課題」より

 

1978年に受給不均衡を是正するための特定産業構造改善臨時措置法が交付されると、電線業界は需要が伸び悩んだことから、指定対象業種の適用を要請します。特定産業構造改善臨時措置法は過剰設備の処理に必要なコストを一部政府が負担するというものでした。

1984年に適用の指定を受けると、ケーブル製造業界は大再編が起こります。

そのときに誕生したのが、古河グループ、大日グループ(旧:三菱電線)、住友グループ、昭和グループ、藤倉グループ(現:フジクラ)、日立グループ、タツタグループ、矢崎グループの8グループでした。

 

その後も再編は続きます。2013年に古河エレコムが新満電を吸収合併。住友電工と日立電線、タツタ電線によって住電日立ケーブル(HS&T)が誕生し、2003年から事業を開始。2014年には住友電工が増資によって56%の株式を取得してHS&Tの支配力を強めます。

矢崎エナジーシステムと昭和電線、古河電工・古河エレコムは独自に事業を展開していました。そうした背景からも、古河電気工業と昭和電線ホールディングスが新会社SFCCを立ち上げて新たにスタートを切ったことは大きな意味を持ちました。

ゴムシール製造を完全自動化した三菱電線


建設・電販向けの電線は、日本独自の物流慣行があるため、海外企業などは参入しづらいというメリットがあります。その一方で競合同士の激しい価格競争があり、儲けが出づらいというデメリットもあります。

企業同士の再編が進んでいるのは、出荷量の減少とともに過当競争業界になっていることがあります。

 

大手企業は安全重視の姿勢は崩さず、AIによる自動検査や生産の完全自動化を進め、生産性の向上を図っています。三菱電線工業では、自動外観検査システムを導入。検査員の検査技能による不良抽出のバラつきや連続検査に対する疲労を原因とした見逃しをなくし、検査品質の安定化に努めています。

また、ゴムシール製造を完全自動化し、人の手に頼らない生産体制を築きました。経営の合理化が進めば進むほど、技術力を持つ大手企業が生産面で有利になります。今後もグループ内外の再編は続くでしょう。

ニッチ産業では中堅企業がM&Aを成長の原動力に


電線・ケーブル業界のニッチ分野で注目すべき会社があります。OKI電線(旧:沖電線)です。OKI電線は産業用ロボットや製造装置向けのケーブル事業を展開しています。OKI電線はOKIの持分法適用会社でしたが、2017年11月のOKIのTOBによって完全子会社となりました。

OKIは主力のプリンター事業が業績不振となり、電子機器の製造受託サービスを主力事業に育てようとしていました。その中核会社の一つにすべくM&Aを実施したのです。

OKI電線は2022年3月期の売上高が前期比33.6%増の137億2,200万円、営業利益が同131.9%増の7億400万円と好調。無線通信技術が発展する中でも有線ケーブル事業は堅調に拡大しています。

OKI電線は2015年1月にハイエンドオーディオケーブルを扱うモガミ電線を買収しています。無線通信技術が隆盛となる中でも、良質な音を届けるには電線が欠かせません。OKI電線はニッチ分野を見極めて上手く事業を展開している印象を受けます。

 

銅価格の上昇や人材不足により、中小のケーブル製造会社は収益性が悪化しています。また、事業承継問題も表面化しています。電線・ケーブル業界のニッチ分野においても、今後はM&Aによる再編が進むものと予想されます。

SDGsにも貢献する電線・ケーブル業界


電線・ケーブル産業を語る上で外せないキーワードがあります。カーボンニュートラルです。

現在、世界中で脱炭素への取り組みが加速しています。それは日本も例外ではなく、再生可能エネルギーの導入に伴う洋上風力発電や太陽光発電の送電線設備、電気自動車の導入などによって銅の需要の増加が見込まれます。

日本の電線・ケーブル会社は、電力会社や大手機械製造メーカー、自動車メーカーからの厳しい要求に応え、質の高い製品を作り続けてきた経緯があります。

将来的な需要の高まりにより、技術力を必要とする電気自動車メーカーや発電所の運営会社が出てくるでしょう。価格競争で疲弊していた業界にも光がさしました。M&Aは技術力を承継し、新たな産業を盛り上げる手段でもあります。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。