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IT・通信・システム開発 2022.7.13 配信

スタートアップへの出資が加速するアグリテックの最新事情

スタートアップへの出資が加速するアグリテックの最新事情

井関農機が自動抑草ロボットの開発会社に出資


農機具の製造販売を行う井関農機が、2022年6月10日に有機農業向け水稲用自動抑草ロボット「アイガモロボ」を開発する有機米デザインに出資をしたと発表しました。有機農業は除草作業の労働時間が慣行栽培と比較して5倍かかることが大きな課題となっていました。

「アイガモロボ」は田植え後の水田を自律航行して水中を撹拌。泥を巻き上げて光を遮り、雑草が生えにくい状態を維持するものです。

 

井関農機は環境保全型スマート農業に取り組んでおり、持続可能な農業の普及に向けたビジネスを構築しようとしています。

 

自然相手の農業はIT、IoT、AIの活用が難しく、生産性を高める取り組みにおいて後れをとっていました。しかし、近年は持続可能な社会の実現や農業従事者の高齢化を背景として、新技術の導入が進んでいます。農業にITを活用することをアグリテックと呼びます。

 

この記事では、アグリテックの最新事情を紹介します。

農業就業人口の6割以上が65歳以上


農業の一番の課題と言われているのが、担い手の減少と高齢化の進行です。農林水産省によると、農業就業人口210万人に対して65歳以上は133万人。63.5%が高齢者です。50歳未満は全体の12.0%しかありません。働き盛りの農業従事者は1割程度なのです。

※農林水産省「スマート農業の展開について

 

高齢化に伴い、農業就業人口も減少しているため、1経営体当たりの平均経営耕地面積が年々拡大しています。1995年は1.6haでしたが、2015年は2.5haまで広がりました。

※農林水産省「スマート農業の展開について

 

農業はいかに生産性を高めるかがポイントであり、IT化による自動化、省人化が必要不可欠な分野となりました。

また、農業は人の勘や経験が質の高い作物を生み出す原動力になっていました。農機具は体力や熟練の技も必要とされます。こうした属人性の高さは参入障壁を上げて、新規事業者を排除することにもなりかねません。今後は若者や女性でも取り組みやすい仕組みの構築が必要です。

アグリテックが解決する3つの分野とは?


多くのスタートアップがアグリテックの分野に進出し、資金調達を重ねています。

イチゴ栽培にICT(情報通信技術)を導入して栽培農家の暗黙知と経験をデータ化し、高品質な商品を栽培・供給するGRAは、2022年6月に官民ファンド産業革新機構の子会社INCJなどから3億3,000万円を調達しました。

 

名古屋大学発のスタートアップTOWINGは、2021年12月にベンチャーキャピタルのBeyond Next Venturesなどから1億4,000万円を調達しています。TOWINGは植物残渣(しょくぶつざんさ)を材料とした高機能の土を開発している会社。通常、作物を育てる上で良質な土壌となるまでには3年から5年かかると言われていますが、TOWINGの土は1か月ほどに短縮できるといいます。

 

農業のIT活用領域は多岐にわたっており、それがどのような目的を持っているのか、何の課題を解決するのかが今一つわかりづらくなっています。次の3つの領域のどれに当てはまるのかを把握すると、理解しやすくなります。

 

①作業の自動化・効率化
②情報共有の簡易化
③データの活用

 

GRAは情報共有の簡易化とデータの活用によって属人性を排し、高品質(=高価格)のイチゴを生産することに成功しています。TOWINGは土を開発することで作業の効率化を図ることに寄与しています。

作業の自動化で進んでいるのが、トラクターなどの農業用機械のロボット化です。

ロボット田植機や直進アシストトラクタを重点商品にする井関農機


スマート農機の導入を進めているのが井関農機。井関農機は日本だけでなく、北米、欧州、アジアを中心に農機具の販売、メンテナンスを行っています。

 

2020年12月期は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて営業活動が制限され、売上高は前期比0.4%減の1,493億400万円、営業利益は同24.1%減の20億8,400万円となりました。しかし、2021年12月期からは増収増益へと反転。売上高は前期比5.9%増の1,581億9,200万円、営業利益は前期のおよそ2倍となる41億4,700万円となりました。

 

2022年12月期は前期比5.3%増の1,665億円、営業利益は13.3%増の47億円を予想しています。予想通り着地をすると、営業利益率は2.8%となり、コロナ前の2018年12月期の2.0%を0.8ポイント上回る見込みです。もともと業績は安定している企業でしたが、近年は成長軌道に乗せてきました。

決算短信より

 

井関農機のフラッグシップモデルは大型農機「All Japanシリーズ」ですが、重点商品をスマート農機に移しています。

燃油削減量を従来比13%削減した直進アシスト仕様の田植機などです。2022年2月にはロボット田植機、3月には直進アシスト中型トラクタを市場投入しました。

決算説明会より

 

井関農機は2015年に夢ある農業総合研究所を設立しました。行政や研究機関、大学、企業、JAの関係者と連携し、多収栽培技術、省力栽培技術、先端農機、機械化支援などの取り組みを行っています。

「アイガモロボ」の有機米デザインに出資をした通り、今後はアグリテックの分野への出資やM&Aにも力を入れる可能性があります。

 

アグリテック市場は競合が少ないブルーオーシャンの1つ。その分、投資家の注目を集めやすい領域だと言えます。資金調達やM&Aが活発化する土壌は整い始めており、今後は有力な起業家を輩出するかもしれません。注目度の高い分野です。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。