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医療・製薬 2022.7.20 配信

世界的に進む不老の科学的アプローチに有名投資家が次々と出資

世界的に進む不老の科学的アプローチに有名投資家が次々と出資

ジェフ・ベゾスが若返り法発見企業に資金提供


Amazonの創業者ジェフ・ベゾス氏が、アルトス・ラボに出資をしたと2021年9月4日にMIT Technology Reviewが報じました。

アルトス・ラボは2021年に設立されたベンチャー企業で、生物学的なリプログラミング技術、つまり不老を研究しています。この研究の中心にはFacebookへの投資で財を成した富豪ユーリ・ミルナー氏の存在があります。豊富な資金力を手にし、著名人とのつながりも強いアルトス・ラボは、ノーベル賞を受賞した山中伸弥教授を上級科学者として科学諮問委員会の議長に招聘したと言われています。

 

20世紀まではSFの空想世界の出来事と言われていた不老不死の研究は、世界中のエリート研究者や大富豪、著名投資家を巻き込んで一大ビジネスへと成長しようとしています。

寿命を50年引き延ばすことができる?


アルトス・ラボにはカリフォルニア州ラホーヤのソーク研究所の人生物学者フアン・カルロス・イズピスア・ベルモンテ教授が参加しており、同教授はヒトとサルの胚を組み合わせる研究で有名。ヒトの寿命を50年伸ばせると主張しています。

フアン・カルロス・イズピスア・ベルモンテ教授は、遺伝子のスイッチをオンオフする決定因子「エピジェネティックマーカー」をリセットする方法を研究。この因子を消去すると、細胞が皮膚細胞や骨細胞ということを忘れ、原始的な初期胚の状態に戻ると言われています。

教授は老化が細胞レベルで起こる分子の異常以外の何物でもないと考えており、年を重ねるにつれて変化したエピジェネティック情報を刷新することにより、30~50年は寿命を伸ばせると考えています。

 

大掛かりな不老不死ビジネスは、アルトス・ラボが誕生する以前から注目されていました。2013年にGoogleの共同創業者であるラリー・ペイジ氏が老化の原因を突き止め、それを対処するための研究を行うカリコ(カリフォルニア・ライフ・カンパニー)に資金を投じるを発表したのです。

カリコが飼育するハダカデバネズミは、普通に飼育されているものよりも10倍長い30年という長寿命であることが知られています。

この研究所の中心人物であるシンシア・ケニオン氏は回虫のデオキシリボ核酸の文字情報を一つ書き換えることで、3週間の寿命を6週間になることを示したことで有名です。

カリコはGoogleの親会社Alphabetと製薬会社などから寄付を受け、15億ドル以上の資金を有していると見られています。カリコは極めて注目度の高い会社ですが、具体的な研究内容や成果は秘匿されており、情報はほとんど表に出てきません。

ヘルスケアは旬な投資テーマの一つ


海外の有名投資家が不老不死への出資を加速しているとはいえ、”普通の感覚”だとまだまだ荒唐無稽な投資テーマであることは間違いありません。しかし、日本の投資ファンドを中心にヘルスケア領域への投資を加速しているのは間違いありません。

日立製作所は2021年10月にヘルスケアを中心とする成長分野において、イノベーションをけん引する企業への戦略的投資を目的としたコーポレート・ベンチャー・キャピタル「HV Fund」の2号ファンドを設立しました。

1号ファンドは2019年6月に設立しており、ヘルスケア、ライフサイエンスなどの分野で活躍するスタートアップに出資をしてきました。

日立製作所は2017年1月に日本医療研究開発機構から「認知症の早期診断・早期治療のための医療機器開発プロジェクト」を受託。北海道大学と共同で研究開発を進めるなど、ヘルスケア領域のビジネスを拡大していました。

 

老いとともに進行しやすい認知症の治療に向けた研究開発ベンチャーは、国内外でも投資が加速している分野です。

認知症の治療薬は誕生するか?


トータルブレインケアは認知機能の測定やトレーニングができる「脳活バランサーCogEvo」を提供しているクラウドシステム開発企業。高次脳機能障害リハビリテーションから生まれた本格的な認知機能チェック、トレーニングを目的としたサービスが受けられます。

医療機関や高齢者施設、保険薬局などで活用されています。トータルブレインケアはクラウドファンディングを中心に個人投資家から資金を調達しています。2026年には売上高20億円、営業利益9.8億円を計画しています。医療系ベンチャーは収益性を確保するのが難しい分野の一つです。

ベンチャーキャピタルや投資ファンドから出資を受けた場合、出口戦略で不本意なM&AやIPOへと至るケースがないわけではありません。事業への賛同や理解が深い個人投資家を味方につけ、中長期的に事業を拡大する姿は、医療ベンチャーの新たな形と言えるのかもしれません。

 

脳ドック用ソフトウェア開発のCogSmartは、2022年1月にオムロンベンチャーズ、アイロムグループなどから3億5,000万円の資金を調達しました。この第三者割当増資により、累計調達額は4億円を超えました。

CogSmartは早期段階からの認知症予防の普及を目指す東北大学発のスタートアップ。30~70代を対象として頭部MRI画像をAIで解析。海馬の萎縮度を評価し、個別の予防行動を提示するシステム「BrainSuite」を提供しています。現在、首都圏の病院・医療施設を中心に導入が進んでいます。

 

認知症の中で最も多いと言われるアルツハイマー型認知症。その治療薬を開発するスターチアップAlector(アレクター)は、複数のベンチャーキャピタルから2018年7月に149億円を調達しました。出資者の中には旧グーグル・ベンチャーズのGVも含まれています。

Alectorが開発するアルツハイマーの治療薬は、アルツハイマーのリスク要因となるTREM2遺伝子とSIGLEC-3遺伝子を標的とするものです。

 

アルツハイマーの根本的な治療薬は誕生しておらず、2002年から2012年までのアメリカでの臨床試験の失敗率は99.6%にも上ると言われています。

 

日本では官民ファンドの産業革新機構が5億5,000万円出資した創薬ベンチャー、ファルマエイトが解散し、初めて投資損を出したことが知られています。ファルマエイトは京都大学発のバイオベンチャーで、アルツハイマー型認知症向け根本治療薬の開発を行っていました。

野心的な経営者や研究者、投資家が興味関心を持つ分野である一方、ビジネス展開が極めて難しいことを示した案件です。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。