植物性代替肉やキノコを使ったスーパーフードに投資が集中する理由
植物性代替肉やキノコを使ったスーパーフードに投資が集中する理由
日清食品が大豆を使った代替肉のDAIZに出資
日清食品ホールディングスが2022年1月に、大豆由来の植物性代替肉の研究開発を行うDAIZに出資しました。DAIZは大豆の発芽の過程における生理現象を利用した「落合式ハイプレッシャー法」をコア技術として、植物肉「ミラクルミート」を生産しています。
「カップヌードル」を主力商品とする日清食品は、植物由来の原材料だけを利用した即席めんの開発、植物性タンパク質の利用拡大により、新たな食の創造と環境問題の解決に取り組むとしています。
代替肉やスーパーフードはスタートアップを中心に投資が加速している分野であり、今後の注目テーマとなる可能性が高い分野です。その最前線の情報を伝えます。
日清が出資した目的には、代替肉やスーパーフードに注目が集まる理由の2つが凝縮されています。
1つは、低カロリーで健康志向の食品を提供でき、菜食主義者や宗教上の理由で特定の食品が食べられない人などへの多様性に配慮した食が提供できること。もう1つは、環境負荷を抑えた食品を提供できることです。
この2つの要素は「個人」と「法人」という観点で切り分けることも可能です。
肉を口にしない人は様々な理由を持っています。高カロリーを敬遠している人もいれば、動物愛護の観点から口にしない人もいます。ヒンドゥー教徒は牛、イスラム教徒は豚を食べません。家畜の飼育がしづらく、肉が貴重な国の人もいます。
18~64歳の男性は1日65g、女性は50gのタンパク質の摂取が必要だと言われています。
タンパク質は体を作る材料であり、極めて重要度の高いものです。しかし、肉、魚、大豆製品、乳製品などに含まれるだけで食材は限定されます。代替肉は様々な理由で肉を口にできない人に、食の楽しさを提供することができます。
代替肉が提供される「個人」は、多様性が認められる居心地の良い社会で暮らすことが可能となります。
温室効果ガス総排出量のうちで畜産業が占める割合は14%
火力発電所から太陽光、風力発電へ、ガソリン車から電気自動車への転換が進んでいます。温室効果ガスを削減する取り組みです。発電所や自動車のCO2排出はイメージしやすいですが、実は畜産業も温室効果ガスを大量に出していることで知られています。国連食糧農業機関2013年の報告で、温室効果ガス排出量全体の14%を畜産業が占めていることが明らかにされたのです。
牛は牧草を食べて胃から口に戻しながら反芻していますが、この際にゲップをしてメタンを発生させることが知られています。
その他、エサの生産や輸入、糞尿の処理、流通過程でもCO2が排出されます。
農林水産省の食糧需給表によると、日本人1人当たりの肉の年間消費量は豚肉が12キロ、牛肉が6キロ、鶏肉が13キロです。これを東京新聞が独自にガソリンへと換算した数値を出しています。それによると、豚肉は40リットル、牛肉が60リットル、鶏肉が20リットルに相当するとしています。
この試算は流通過程で排出されるCO2は加味されておらず、数値は増加する見込みです。
日本人1人当たりの消費量だけでも、相当な温室効果ガスを出していることがわかります。
代替肉に取り組むことにより、「法人」は環境負荷を下げた食材の提供を可能にするのです。
SDGsには17の目標が掲げられていますが、代替肉は「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」「気候変動に具体的な対策を」これらの要素を満たすことができると考えられます。
持続可能な社会への貢献が企業に求められています。代替肉に取り組む企業への出資やM&Aにより、社会貢献につなげられることは大きなメリットです。
一人焼肉の有名店が代替肉を導入
代替肉を扱う日本企業は日清が出資したDAIZのほかに、ネクストミーツがあります。
ネクストミーツは2021年4月に製薬会社などから10億円の資金調達を行いました。代替肉の大量生産化に向けて設備投資を強化しています。
ネクストミーツは2017年に共同創業者2名が研究を始め、2020年6月に法人化。2021年1月に米国市場にSPACを活用してOTCBB市場に上場しました。SPACとは空箱上場とも呼ばれるもので、未公開会社の買収を目的とした特別買収目的会社のことを指します。成長性や事業の拡大には期待できるものの、成長資金が十分ではないスタートアップなどに活用されています。
ネクストミーツとタッグを組んで代替肉の普及に一役買っているのが、一人焼肉という新たな食文化を作った焼肉ライク。焼肉ライクは2020年10月に一部店舗で販売した代替焼肉「NEXTカルビ」をバージョンアップし、2022年1月に「NEXT大判カルビ2.0」の提供を開始しました。
日常食に利用されることで、代替肉の普及は加速する可能性があります。
キノコを使ったスーパーフードに3億円超を出資
アメリカの食品大手ゼネラル・ミルズは、2017年4月に食関連のスタートアップ、ピュアリー・エリザベスに300万ドル(当時の為替相場で3億3,000万円)を出資すると報じられました。ピュアリー・エリザベスはオーガニック・グラノーラの製造販売をする企業。グルテンフリー、ビーガン、非遺伝子組み換え、オーガニック食品に特化した製品の製造販売をしています。
ピュアリー・エリザベスは資金調達のタイミングで、医療用のキノコを粉末状にして固めたスーパーフードの「ウェルネスバー」を開発しました。有機栽培された医療キノコのみを使うもので、健康的かつカロリーの高いスーパーフードです。
大手企業の場合、大型の設備投資を行い、効率的に食材を仕入れ、製品化しなければなりません。その過程において、消費者の嗜好から外れる選択をせざるを得ないことがあります。例えば、何らかの健康食品を提供しても、無農薬の野菜だけを使うのは簡単ではありません。
しかし、スタートアップは小回りを利かせることができ、消費者のニーズや嗜好を取り込んで商品化することができます。
大手企業はスタートアップへの投資やM&Aを通して、新たな食を消費者に提供することができるのです。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。