M&Aで異業種から続々とバイオマス発電に参入、次世代エネルギー最前線
M&Aで異業種から続々とバイオマス発電に参入、次世代エネルギー最前線
不動産ディベロッパーのタカラレーベンが、2021年8月にバイオマス発電事業に参入すると発表しました。家畜の糞尿を発酵処理し、そのガスを燃料として発電するもの。年間発電量は693,792KWを想定しています。
タカラレーベンは事業をゼロから立ち上げたわけではありません。合同会社富士山朝霧Biomassへの出資を通してバイオマス発電事業に新規参入したのです。
数多くの企業がESGへの取り組みを求められており、脱炭素への取り組みは重要な領域の一つ。異業種からの参入が目立ちます。M&Aがその有効な手段として活用されています。
大林組が第2のバイオマス発電所を稼働開始
バイオマス発電とは、動植物などの生物資源を使って発電する方式です。生物資源を直接、またはガスに転換するなどして燃焼させ、電力を生み出します。バイオマス燃料には、木くずからできた木質ペレットや、家畜から発生するバイオガス、廃油を再活用するバイオディーゼル燃料などがあります。
建築業界は建築資材となる木材を仕入れていることから、木質ペレットによるバイオマス発電が進んでいる分野でした。
大林組は2015年6月に大月バイオマス発電の全株を取得しました。建設業界としては初めての木質バイオマス発電への参入でした。買収当時、大林組は2020年3月末までにバイオマス発電などの発電事業の目標を50MWと定めていました。
大月バイオマス発電所は2018年12月に稼働を開始。定格出力は14.5MWです。第2号となる大林神栖バイオマス発電所は2022年2月に稼働を開始しました。定格出力が51.5MW。初期投資額が300億円で、年間の売上高を85億円と想定しています。
※大林組「大林グループで2ヵ所目となる木質バイオマス発電所を茨城県神栖市に開業」より
収益が得られるモデルへと成長させることで、形だけのESGへの取り組みに留まらず、持続的な経営につながります。
大林組は太陽光発電所を28か所、陸上風力発電所を1か所、木質バイオマス発電所を2か所稼働させており、再生可能エネルギーの分野に積極的に取り組んでいます。総発電容量は205MWとなりました。大林組の取り組みは、業界の中でも注目されています。
長谷工コーポレーションが地産地消電力の供給プロジェクトに参画
マンション開発の長谷工コーポレーションは、奈良県生駒市の木質バイオマス発電事業に参画すると2022年6月29日に発表しました。このプロジェクトの中心にいる会社がBPSいこま。総事業費は70億円を見込んでおり、長谷工コーポレーションは匿名組合への出資者として名を連ねました。
発電規模は9,980KWで、稼働は2025年4月を予定しています。
このプロジェクトのポイントは、近接地域で発生する木質廃棄物や山林の未利用材で木質チップを生成している点。実は大林組の大林神栖バイオマス発電所は、輸入ペレットを使っています。これは採算に見合う木質廃棄物が得られないためと考えられます。
持続可能な社会を実現するという視点に立つと、近隣で発生する木材だけでそのエリアに必要な電力を供給するのが理想です。
いこまプロジェクトは期待度の高い事業の一つです。
投資会社も目をつけたバイオマス発電
もちろん、建築業界以外からの参入も活発です。
工業計器やプロセス制御システムを開発する横河電機は、2022年5月にデンマークのDublix Technology ApSを買収すると発表しました。Dublix Technology ApSは、バイオマス発電所向けのシステム開発などを行っており、発電所の最適制御ソリューションを提供しています。また、プラントの洗浄技術などにも長けており、ハードとソフトの両面から効率改善の提案ができます。
横河電機は、Dublix Technology ApSが持つ技術を国内外に提供できるようになりました。
燦キャピタルマネージメントは、2022年6月に山陽小野田バイオマス燃料供給の株式50.86%を取得し、子会社化しました。取得総額は100万円。山陽小野田バイオマス燃料供給は竹材、木材等のチップ製造、バイオマスエネルギーを利用した発電事業を行っています。
燦キャピタルマネージメントは取締役2名を派遣し、企業価値向上に努めます。バイオマス発電には投資会社も注目しています。
バイオマス発電事業はビジネスとして成立するのか?
バイオマス発電がどれほどの収益を生むのか見てみましょう。イーレックスは全国で5基のバイオマス発電所を稼働しています。
2022年3月期の売上高は前期比62.5%増の2,305億円、営業利益は同20.4%減の125億円でした。
※決算短信より筆者作成
中城バイオマス発電所を2021年7月に稼働開始。売上高の伸張に一役買いました。ただし、天然ガスや石炭などの価格が高騰し、電力調達コストが膨らみました。それが利益を圧迫しています。
バイオマス発電は脱炭素を代表するものですが、燃料の輸送などは化石燃料に頼らざるを得ません。そのため、資源価格高騰の影響を大きく受けているのが現実です。
新型コロナウイルス感染拡大や、ウクライナ危機という予期せぬ出来事を前に利益率は一時的に低下したものの、業績は極めて堅調に推移しています。2021年3月期は営業利益率が11%を超えていました。
イーレックスは中期経営計画(2019-2021年度)で掲げていた、経常利益100億円を2021年3月期に達成。前倒しでの目標達成となりました。
今後の成長戦略として、海外進出を計画しています。効率の良いバイオマス発電所は海外でも需要が旺盛です。今後は各プロジェクトの資金調達の多様化に向けた手法に磨きをかけるとしています。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。