中小しょうゆ・みそ製造業の市場動向と経営課題、M&Aの実情は?
中小しょうゆ・みそ製造業の市場動向と経営課題、M&Aの実情は?
飲食店や給食への依存度が高い地方中堅みそ製造業者
新型コロナウイルス感染拡大が意外なところに影響を与えています。みそ製造業者です。
2021年のみその生産量は46万トン。2019年比で4.0%減少しました。これは主に飲食店での需要が縮小したためです。
地方のみそ製造業者は、地域に根付く飲食店や学校給食に販路が限定されています。時短営業や観光需要、遠隔授業の影響を間接的に受けました。
学校の授業は再開され、飲食店やホテル・旅館は観光需要の回復に期待を高めていますが、完全回復には時間がかかるのが実情です。
みその消費トレンドにも変化が生じる
日本食がユネスコの無形文化遺産に登録されたのが2013年12月。その影響は目覚ましく、みその生産量は2014年に前年比8.3%も多い46万トンとなりました。その後も底堅く推移していましたが、コロナで段階的な縮小を余儀なくされました。
外食が控えられたことにより、家庭用のみその需要は堅調に推移しています。しかし、テレワークが進んだことで、手軽に消費できる液状みそ、顆粒みそへとトレンドが変化しています。みそ業界大手のマルコメは、2020年6月に液状みそシリーズが累計出荷数5,000万本を突破したと発表しました。
マルコメの調査によると、一般家庭において生みそと液状みそを併用している割合は89.9%にも上っています。
液状みそは2008年にマルコメが消費者調査を実施し、生みそは溶くのに時間がかかるという声を拾い上げて商品化したもの。2009年3月に液状みそを業界に先駆けて発売しました。
調味料はライフスタイルの変化とともに進化しなければなりません。
地方の中堅みそ製造会社は製造技術が高い一方、消費者の調査や商品企画、ブランド認知までを行うマーケティング部門をほとんどの会社が持っていません。仮に新商品を生み出したとしても、十分な販路拡大までは行きつかないケースがほとんどです。
中期的に飲食店の需要縮小の影響を受け続けるでしょう。
ダウントレンドに拍車がかかったしょうゆ業界
※しょうゆ情報センター「醤油の統計資料」
しょうゆはみそよりも更に深刻。長期的なダウントレンドでしたが、コロナ禍をきっかけとして急減しました。2021年の生産量は70万キロリットル。2019年と比較して5.4%減少しています。
しょうゆ業界もコロナ禍による飲食店の一時的な時短営業、客離れの影響を受けました。それと同時に、日本人の食の変化に打撃を受けています。洋食文化の浸透で家庭でのしょうゆの消費が限られているのです。
また、固形のみそは液状化、顆粒化などの加工をしやすい側面がありますが、液体のしょうゆは形を変えることが難しく、競合との差別化を図りづらいという特徴があります。
そのため、キッコーマン食品などの大手メーカーは、開封後も新鮮さを保てる特殊容器を開発して差別化を図りました。しょうゆの形を変えるのではなく、容器に注目したのです。
特殊容器は容器メーカーが他のしょうゆ製造会社との販路を開拓したため、大手から中堅会社まで幅広く採用されるようになりました。しかし、広く浸透したことで差別化を図りづらくなりつつあります。
そもそも、中堅のしょうゆ製造会社は容器までを開発する力はありません。原材料となる大豆の価格は高止まりが続き、円安が進行したことで原料の調達価格は上がっています。キッコーマンは2023年4月からの値上げを決定しました。
多くの会社がコスト高と販売価格の調整に悩んでいます。
人材獲得と育成にも苦心
※政策金融公庫「食品産業動向調査」
日本政策金融公庫は「食品産業動向調査」にて、食品産業に関わる会社が何に課題を感じているかをヒアリングしています。食品加工、卸売、小売、飲食すべてで急上昇しているのが、人材確保と育成。これまでは販路開拓や商品開発に目が向いていましたが、人材への課題が目立つようになりました。
もともと、食品加工業は小規模事業者が多く、少ない社員とアルバイトで運営しています。古くからいる社員や経営者は高齢化し、その事業や技術を引き継ぐ若手が見つかりません。
コロナ禍で働き方が多様化し、若者は都市部の会社に出社することなく、自宅で仕事ができるようになりました。地方や郊外の自宅で過ごしながら業務を進められるようになったのです。
みそやしょうゆなどの地場産業は地域の雇用を支えていましたが、その常識が崩れました。
これはアルバイトも同様です。優秀な学生は大手企業やベンチャー企業の仕事を自宅でこなし、高い時給を得ているケースがよく見られます。
この傾向はコロナが収束した後も続くでしょう。
みそ・しょうゆのM&Aは?
エバラ食品は、2022年5月に静岡県焼津市のしょうゆ・液体調味料製造のヤマキンの全株を取得しました。ヤマキンは小容量の生産に強みを持つ会社で、エバラ食品は高齢化や世帯人数の減少を背景に小容量製品の需要が拡大することを見越して買収しました。
ヤマキンは従業員数24人の大きい会社ではありません。しかし、オーダーメードで質の高い製品を作ることに強みを持っています。
地方に拠点を構える調味料メーカーの大部分は中小企業。後継者がいない事業承継問題に悩みを抱えている人が少なくありません。M&Aがその解決法となるにも関わらず、小規模であることや一時的に業績が悪化していることなどを理由に、しり込みする経営者をよく見かけます。
大手企業の傘下に入れば、開発した商品を大手スーパーに流通させることができます。会社のブランド力が強まることで、人材不足も解消されるかもしれません。何より、後継者問題は解決すると考えて間違いありません。
M&Aは会社を成長させる有効な手段になります。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。