M&A実話 COLUMN
2021.09.29 コラム

中国と韓国勢に押される造船業はM&Aによる再編が急ピッチで進む

※画像はイメージ

日本の世界造船量のシェアは50%から24%まで縮小

新興国の景気拡大を背景として、海上荷動き量は活発化しており、造船市場は中長期的な拡大が見込まれています。
高度経済成長期の日本の成長産業の一つが造船業でした。世界の造船量に占める日本の割合は50%を超えており、欧州としのぎを削っていた分野です。しかし、近年は中国・韓国勢の猛攻により、日本のシェアは24%にまで落ち込んでしまいました。
サノヤスホールディングスは2020年11月に100%子会社のサノヤス造船の全株式を新来島どっくに譲渡しました。単独での生き残りは困難と判断し、100万円という低価格での譲渡となりました。サノヤスホールディングスは赤字事業を切り離し、産業用機械装置や遊園地施設の建設など、稼げる事業に資源を集中します。また、2021年6月にも国内造船中堅の神田造船所が主力の船舶事業から撤退を表明しています。海外勢に押されて事業転換を決断する企業が相次いでいるのです。
この記事では、造船業の現状や問題点を解説し、事業再編やM&Aなどの最新動向を紹介します。

コンテナ船の運賃は長期的にも上昇している

コンテナ船の運賃が2021年に入って高騰しています。理由は大きく3つあります。1つ目は新型コロナウイルス感染拡大によって港湾作業が中断、コンテナ船が滞留したこと。2つ目はコロナ禍でコンテナそのものの生産量が落ちたこと。3つ目は中国経済の回復や、アメリカの8,500億ドルのコロナ対策支出など、一部の国でコンテナ船の需要が急増したことです。

※日本海事センター「北米往航・月別運賃の推移

コンテナ船の運賃は景気に敏感に反応することが知られており、人々の生活になくてはならないものです。普段の生活ではなかなか気づくことがありませんが、物流の要になっているといっても過言ではありません。当然、海運を支える造船業も極めて重要な産業です。
海運の荷動き量は1990年から右肩上がりの上昇を続けてきました。新型コロナウイルスでコンテナ船の需要が急増しましたが、中長期的にみても拡大傾向にあるのです。
世界の造船量は中国が爆発的に景気拡大した2011年がピークとなって縮小したものの、また緩やかな回復基調にあります。

※国土交通省「造船業の現状と課題

※国土交通省「造船業の現状と課題

日本の造船業は1960年代から1970年代にかけて急速に発展しました。1970年代は欧州勢との勢力争いを続けていましたが、1980年代に入って韓国が市場に本格参入し、1990年代に中国が勢力を伸ばしました。日本の生産量そのものは大きく変化していませんが、市場のシェア拡大ペースについていくことができていません。相対的にシェアが縮小しているのです。
日本が韓国や中国に押されている背景の一つが円高です。2013年以降は円安基調でしたが、2018年末ごろから円高基調が鮮明となり、韓国・中国が有利な状況が続きました。また、人件費も安く、製造コストを抑えることができたために造船業界でシェアを拡大することができました。日本の造船業界は外的な要因を強く受けたことになります。

再編が続く日本の造船業

※国土交通省「造船業の現状と課題

2019年の建造量を会社別にみると、韓国の大宇造船海洋、現代重工業が他社を圧倒しています。
実は2019年1月に現代重工業が大宇造船海洋を買収すると報じられました。韓国は政府主導による造船産業の強化を進めており、買収によって競争力を高める狙いがあります。ただし、この買収は独占禁止法に抵触する恐れがあるため、欧州連合と条件を巡って協議を進めています。もし、買収が成立して事業規模が拡大すれば、日本の造船業界にとって打撃となることは間違いありません。
こうした動きを受け、国内の造船会社は再編を進めています。

【定石造船による三井E&S造船への出資】
2018年5月に三井E&Sホールディングスと常石造船が資本業務提携契約を締結。常石造船が三井E&Sホールディングスの傘下でばら積み船やタンカーを手掛ける三井E&S造船に49%出資しました。三井E&Sホールディングスは護衛艦や巡視船などの官公庁船事業を三菱重工業に売却しており、建造から手を引いていました。三井E&Sホールディングスは大型船の設計やエンジニアリングに軸足を置き、事業の選択と集中を行っています。

デジタル化で造船技術も変革が求められる

造船会社を買収する買い手のメリットはどこにあるのでしょうか。以下のようなものが考えられます。

〇経営者やマネージャー、従業員の確保
〇技術力の獲得
〇営業先、取引先の獲得
〇事業規模の拡大
〇異業種への進出

M&Aは時間を買うと言われる通り、技術力や営業先など、事業を展開・拡大する上で最も重要な要素を素早く手に入れることができます。近年は船舶のデジタル化が進展し、膨大な運行管理機器のネットワーク化が進んでいます。これは特に欧州を中心に強みを発揮していた分野ですが、日本においてもシステム・インテグレーターを組成し、付加価値の高い造船技術を取り入れています。
他社の技術を取り込むことにより、効率的に技術力を高めることができます。

この記事の編集者

フジモト ヨシミチ コンサルタント/ライター

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。