半導体製造装置・検査装置の業界動向とM&A
半導体製造装置・検査装置の業界動向とM&A
半導体製造装置や検査装置では他国の追随を許さない日本
経済産業省によると、半導体は1988年に日本が50.3%のシェアを握り、他国と圧倒的な差をつけていました。しかし、日米半導体協定などで地位が急速に低下し、2019年には10.0%までシェアを落としています。しかも、日本は先端半導体を作る技術がありません。政府主導による国内3社を統合したエルピーダメモリは2012年に経営破綻しており、官民共同プロジェクトも失敗しました。
ただし、日本の半導体製造装置や検査装置の技術は現在も生き残っており、半導体業界で注目の領域となっています。半導体製造装置世界3位の東京エレクトロン、マスクブランクスの検査装置でシェア100%のレーザーテック、半導体ウェアの切断・研削・研磨装置で世界トップのディスコなど、優良企業が数多く存在します。
90%超のシェアを握る半導体領域も
2021年の世界半導体市場規模は5,529億6,100万米ドルに達し、2018年の4,687億7,800万米ドルを大幅に上回りました。極めて規模の大きな産業です。半導体のビジネスモデルは大きく2つに分かれています。「ファブレス」と「ファウンドリ」です。
ファブレスは自社で工場を持たずに製造業としての活動を行うビジネスモデルです。製品の設計、マーケティング、販売に特化しており、設備投資や固定費を低く抑えることができます。顧客の要望に沿った製品を開発できるなど、小回りを利かせた経営ができます。代表的な企業に米クアルコムやブロードコム、エヌビディアなどがあります。
ファウンドリは他社からの委託生産を専門に手掛けるビジネスモデルです。半導体メーカーやファブレスからの委託を受けて半導体チップの製造を行います。大量生産が可能で生産コストを低く抑えることができます。台湾のTSMCやUMC、韓国のサムスン電子などが得意とするビジネスモデルです。
日本企業はこのファブレス、ファウンドリで後れをとりました。しかし、各工程を細分化するとその見え方は変わってきます。
半導体は上の画像のプロセスフローのように工程が大きく3つに分かれています。「設計」「前工程」「後工程」です。工程別の市場規模を見ると、製造を行う前工程が521憶ドル、検査などを行う後工程が94億ドルと決してその規模が小さくないことがわかります。
日本の半導体の凋落ばかりが注目されますが、半導体製造装置のシェアは世界的に見て決して低いものではありません。前工程である熱処理装置では93%、感光剤の塗布と現像を行うコータ・デベロッパでは92%、バッチ式洗浄装置では86%のシェアを日本が握っています。
複雑な処理が必要なものを得意とする日本の技術力
日本企業が得意とする半導体製造装置には、液体、流体、粉体を使いものが多いと言われています。これらは形が決まっておらず、装置の稼働に複雑な計算や概念を必要とします。簡単にはマニュアル化できず、数字を使ったマネジメントが得意な外国企業が不得意とする分野です。日本は職人気質な部分があり、現場の改良や改善を重ねてノウハウを積み上げた結果だと言われています。日本企業がシェアを高めた半導体の分野には、長年積み上げられてきた町工場文化が息づいているのです。
後工程においても、日本のシェアは高いことが特徴です。前工程終了後のウェハを古語のペレットに分割するダイサーは90%、テストは55%のシェアを握っています。
日本企業はある材料や装置に特化し、その分野で圧倒的なシェアを握るというのが成功パターンの一つです。これも、生産性を重視して視野を広げようとする海外型の経営スタイルにはあまり見られず、現場目線の日本企業らしさが目立ちます。半導体製造の前工程、後工程を担う企業の注目度は高まっており、M&Aも活発な分野です。
東レエンジニアリングが半導体検査装置事業のNGRを買収
東レの子会社でファクトリーオートメーションなどを提供する東レエンジニアリングが、2017年6月に半導体検査装置メーカーのNGRを子会社化しました。NGRは電子ビーム技術を用いた半導体検査装置を開発しています。
半導体デバイス製造においては、微細化・複雑化するにしたがって従来の手法では歩留まり管理が困難になっていました。NGRの検査技術は世界最先端半導体メーカーに認められており、東レエンジニアリングは2014年8月に出資をしていました。その後出資比率を高めて子会社化しています。
東レエンジニアリングは、後工程向けウェハ外観検査装置を1990年から事業化。車載用半導体検査分野で高いシェアを持っていました。半導体検査事業を強化するため、2019年12月に半導体検査装置事業を会社分割し、子会社であるNGRが承継。東レエンジニアグループの半導体検査・計測装置事業を担う会社としてスタートしました。
【主な半導体製造・検査装置のM&A】
〇あいホールディングスがナノ・ソルテックを子会社化
セキュリティ機器、事務用機器などの製造販売をするあいホールディングスは、2022年2月にナノ・ソルテックを子会社化しました。ナノ・ソルテックは半導体製造・検査装置の中古装置を買い取り、新品時のスペックまで修復して販売する事業を展開しています。あいホールディングスは今回の買収によって半導体装置産業へと本格参入することとなりました。
〇FUJIがファスフォードテクノロジを完全子会社化
電子部品向け自動装着装置トップのFUJIが、2018年8月に半導体製造装置メーカーのファスフォードテクノロジの全株式を取得して完全子会社化しました。ファスフォードテクノロジは後工程のダイボンディング装置を主力とする会社。半導体後工程受託生産会社に対して豊富な納入実績を持っていました。FUJIは買収で半導体関連技術を取り込み、ロボット分野との連携による事業領域拡大につなげます。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。