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飲食・食品 2022.5.11 配信

事業再生案件が加速するか? コロナ禍で激変した飲食業界のM&A

事業再生案件が加速するか? コロナ禍で激変した飲食業界のM&A

宴会、インバウンド需要が消失して大打撃


飲食業界は新型コロナウイルス感染拡大の影響を真正面から受けた業界の一つです。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置により、飲食店の営業は制限されました。2022年3月21日にまん延防止等重点措置は終了し、飲食店は営業時間を気にする必要はなく、もとどおりの営業活動ができるようになりました。

すかいらーくグループは2022年4月から「ガスト」「バーミヤン」などのレストランに設置されたアクリル板を順次撤去する方針を示しています。飲食店はコロナ前の日常を取り戻そうとしています。

しかし、かつて居酒屋を賑わせていた宴会やインバウンド需要は依然として消失したまま。協力金を失った企業の倒産も目立つようになりました。

350店舗を運営するアンドモワが倒産


2022年3月31日「柚柚~yuyu」「竹取御殿」などの居酒屋を中心に全国350店舗を展開するアンドモワが東京地裁へ自己破産申請をしました。アンドモワの2019年8月期の売上高は181億円。宴会需要をとらえるマーケティングを行っており、事業環境の急激な変化に対応しきれませんでした。負債総額は80億円とみられています。

3月23日には中国四国地方に「GLEAM」などを出店していたApeXが大阪地裁より破産開始決定を受けました。ApeXの負債総額は55億円ですが、負債の大半はアンドモワの債務保証。ApeXは連鎖倒産したのです。

飲食店は時短協力金で救済されていた側面があります。援助が絶たれた直後の倒産が相次いでいます。

3月16日にはラーメン店経営の勝本が東京地裁から破産手続きの開始決定を受けました。勝本は「中華そば勝本」の名で複数店舗運営しており、行列の絶えない店で知られていました。

3月29には人形町のから揚げ弁当店「からっ鳥」を運営するいなきんが倒産しています。

コロナ前の6割に届かない居酒屋業態


コロナ後の飲食店のポイントは、業態によって需要の回復が全く異なることです。

下のグラフは業態別飲食店の売上高の推移です。2020年、2021年、2022年2月までの各月を、売上高が安定していたコロナ前である2019年、2020年2月までの各月で比較したものです。

居酒屋は他の業態と比較して極めて低い水準に留まっています。政府がバックアップしたGo To Eatの時期でさえも6割の水準です。

日本フードサービス協会のデータより筆者作成

 

 

倒産したアンドモワは空中階と呼ばれる、ビルの2階以上、または地下を中心に出店していました。実はこのビジネスモデルを踏襲している企業は多く、ワタミやチムニー、大庄も同様のスタイルです。集客手法は比較的似通っており、ぐるなびなどのグルメメディアに広告を大量に出稿し、宴会を中心に獲得するというものでした。

空中階は路面店よりも家賃が安く、物件を見つけやすい特徴がありました。宴会が生命線だったのです。特に苦戦をしているのがこのビジネスモデルで経営していた企業です。

ワタミの2022年3月期第3四半期外食事業の売上高は前期比17.7%減の112億6,700万円、47億1,400万円のセグメント損失(前年同期は71億2,500万円の損失)を計上しています。

ワタミは会社全体で2022年3月期第3四半期に28億5,200万円の営業損失を出していますが、時短協力金33億8,100万円を得ており、7億8,100万円の経常利益を出しています。

需要が6割も回復しない状況が続き、協力金の助けを失くせばたちまち赤字に転落します。

コロナ後でも集客できる業態にシフト


居酒屋企業各社がこの状況に手をこまねいているわけではありません。次の一手を打っています。

ワタミは2021年5月に日本政策投資銀行から120億円を調達しました。その資金で居酒屋を焼肉店に転換しています。2021年12月には初の寿司店となる「すしの和」を錦糸町にオープンしています。焼肉店や寿司店はコロナ禍でも好調が続いていました。

これは会社での飲み会がなくなった代わりに、家族で食事をする機会が増えたためと考えられます。

焼肉店は排煙装置やグリルなどの多額な設備投資が必要な上、ビルオーナーが火災を嫌って出店しづらいという特徴があります。

そのため、コロナ禍で焼肉店のM&Aは活発化しました。2021年1月にしゃぶしゃぶ店を運営する木曽路が、郊外型焼肉店の大将軍を完全子会社化しました。木曽路も宴会需要が蒸発して苦戦している企業です。

2021年9月には金融サービスを提供するGFAが焼肉「まっしぐら」事業を黒沼畜産から取得しています。GFAは宿泊施設やカフェなども運営している企業です。

2021年10月には「築地銀だこ」のホットランドが、エムファクトリー、い志井からもつやき専門店「日本再生酒場」や「もつやき処い志井」など11店舗の「もつやき、ホルモン、焼肉」事業を取得しています。

その他、「塚田農場」を運営するエー・ピーホールディングスや「はなの舞」のチムニーは、居酒屋を定食を提供する店に転換。昼はランチ需要を本格的に獲得し、夜はアルコール需要を抑えるという二毛作化を進めています。

鳥貴族は2021年8月にハンバーガーショップ「TORIKI BURGER」をオープンしています。

コロナで打撃を受けた飲食企業が、事業を強化するために別業態を買収する動きは加速するでしょう。

事業承継が進むきっかけとなったコロナ


新型コロナウイルス感染拡大は、事業承継を促進するきっかけにもなりました。商環境が激変する中、事業の継続を断念するオーナーが出たためです。

「カレーハウスCoCo壱番屋」を運営する壱番屋は、2020年12月に旭川市内のジンギスカン店「成吉思汗(ジンギスカン)大黒屋」を運営する大黒商事を買収しました。大黒商事が運営するのは1店舗のみ。売却したオーナーは多店舗展開を目指していたものの、飲食店を取り巻く環境が激変したことで、その夢を壱番屋に託したといいます。

「成吉思汗(ジンギスカン)大黒屋」は、観光客や地元客に支えられてコロナ前は行列ができる店として有名でした。壱番屋はブランド力のある店舗を手にしたことになります。

「ハードロックカフェ」を運営するWDIは、明治13年創業の老舗すき焼き店「ちんや」のブランドを2021年8月に承継しました。「ちんや」は観光客を中心に人気を集めていた店。建物の老朽化が進み、コロナが長期化する状況を悲観して2021年8月に閉店しました。WDIはブランドを守るためにブランドを承継し、店主の住吉史彦氏を継続して店舗に引き留めて味やサービスを引き継ぎました。

WDIは海外ブランドを日本で展開することに強みがありますが、今後は日本ブランドを世界に展開するとしています。

大手企業は、ブランドを育てたり、常連客との関係を構築するのが得意ではありません。手間がかかるからです。個人店はむしろそこに強みがあり、大手企業が買収する理由でもあります。

協力金を失って廃業を検討するオーナーも出ると予想できますが、M&Aを検討することをおすすめします。

飲食店のM&Aのポイント


飲食店は居抜き物件の売却が活発に行われている業界です。居抜きは手間がかからず、スムーズに売却できる点がメリットです。

しかし、M&Aの方が高いメリットが得られることがあります。居抜きとの違いに以下のようなものがあります。

 

・条件によっては居抜きよりも高値で売却できる
・オーナーの個人保証が外れる
・負債を引き継ぐことができる
・従業員の雇用が継続できる
・取引先との関係が継続できる
・常連客と店の関係が継続できる

 

特に路面店の店舗を多く展開している会社や、重飲食店と呼ばれる焼肉・中華料理の店を経営する会社は高く売却できる可能性があります。

飲食店のオーナーは横のつながりが強く、仲間内で売却先を見つけるケースもありますが、M&A仲介会社は資本力のある会社とのネットワークが豊富で、売却後の会社の発展を考えれば専門家に相談することをおすすめします。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。