日本がロジック半導体で存在感を高める千載一遇のチャンスが到来!
日本がロジック半導体で存在感を高める千載一遇のチャンスが到来!
最先端技術に挑戦する会社ラピダスの誕生
日本の半導体産業に変化が訪れました。これまでアメリカや韓国、台湾などに水をあけられていたロジック半導体の分野で、技術開発や工場の新設などが進んでいるのです。シェアを高められるかどうかの瀬戸際に立っています。
TSMCの熊本工場の新設や新会社ラピダスの設立。そしてルネサスエレクトロニクスが9000億円もの巨額買収を決めるなど、日本の半導体業界全体がダイナミックに変革しています。
半導体は主にスマートフォンの普及とともに成長してきましたが、DXやAI時代の到来でデータセンターが市場のけん引役になるとも見られています。旺盛な需要が見込まれるタイミングで、日本にチャンスがやってきたのです。
CPUの脅威となったGPU
まずは世界の半導体業界全体を概観します。
2020年の半導体の市場規模は4,736億ドルでした。2019年から2020年にかけて伸びがやや鈍化したのは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で生産や出荷が制限されていたことが大きく、2021年には前年比23.2%増の5,836億ドルまで拡大しています。2025年には7,235億ドルまで拡大すると予想されています。
※経済産業省「令和3年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備」より
半導体の製品別シェアを見ると、ロジック半導体が19%でトップ。DRAMが14%、Microprocesssorが14%、NANDが12%となっています。日本企業が強みを持っているのがNAND。ロジック半導体はアメリカ、DRAMは韓国系のシェアが高いのが特徴です。
ロジック半導体とは、PCやスマートフォン、タブレット端末などの頭脳となるもので、CPU(中央演算処理装置)として搭載されています。CPUといえばインテルが有名。最近ではAMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)の「Ryzen」にも人気が集まっています。将棋で有名な藤井聡太さんがAMDユーザーで、ブランド広告にも出演したことから日本でもよく知られるようになりました。
ロジック半導体はゲームなどの画像処理にも使われます。この分野で強みを持っているのがNVIDIAです。ソニーのPlayStationやNintendo Switchにも同社の半導体が使われています。
NVIDIAが開発しているのはGPUというもので、CPUとは少し違いがあります。CPUは連続的な演算処理を行いますが、GPUは並列処理を行うために処理スピードがCPUよりも速いのです。AIの開発においては、並列で処理する計算能力が高いGPUの方が適していることが少しずつ明らかになっています。
NVIDIAはAI関連銘柄として株価が高騰していますが、その背景には半導体の中でもGPUの開発に強いことがあります。
未知の領域である2nmのロジック半導体の量産化を手掛ける
2020年の段階で、ロジック半導体のシェアトップはブロードコムとインテルで両社ともに11.9%。次いでクアルコムが11.4%、NVIDIAが10.8%と続きます。アメリカ勢が大部分を占めています。
※経済産業省「令和3年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備」より
この市場に本格参入しようとしているのが、日本勢なのです。
最も大きな動きと言えるのが、ラピダスの設立でしょう。ラピダスはIBMからの技術供与を受け、ロジック半導体の製造を担います。トヨタ自動車やソニーグループ、NTT、NECなど8社が共同で出資。政府が累計で9,200億円もの巨額支援を行っています。
2nm世代プロセスの量産化を目指しています。この技術はいまだ確立されておらず、ファウンドリー最大手のTSMCが2025年の量産化を行うと発表しています。
IBMは2021年5月に世界初となる2nmのテストチップ作成に成功したと発表していました。IBMは量産を行うパートナーを探しており、地政学的なリスクがある台湾を避け、日本を選択したのです。
ラピダスは2027年度に量産化を行うと発表しています。最先端技術が要求されますが、それを成し遂げた意味は大きいものとなるでしょう。
ただし、量産化はTSMCが先行する見込みです。TSMCがスマートフォンなどへの供給元となる可能性は高く、ラピダスは大量生産化を成功させた後の販路の開拓など、ビジネスモデルそのものも構築しなければなりません。
TSMCの工場建設がこれほど騒がれている理由は?
TSMCが熊本県に建設する半導体工場も見逃すことができません。
2024年2月24日に第1工場の開所式を執り行っています。この工場にもソニーなどが出資をしています。第2工場の建設も決定しており、政府は最大で1兆2,900億円の支援を行う見込みです。
第1工場は22/28nm世代及び12/16nm世代プロセスで生産。第2工場はより微細な6nm世代と12nm世代プロセスを使い、一部40nm世代プロセスも利用します。
TSMCが国内に工場を建設することで、ソニーやトヨタ自動車などの主要な会社に安定的な供給が行えるようになります。そしてこれだけ注目されているのは、製造プロセスの管理や開発に日本人が関われること。日本においてロジック半導体の製造におけるノウハウを持った人材は薄く、将来の担い手がいません。現場で最先端技術に触れる人材を育てることができるのです。
ルネサスが毛色違いの買収に巨額を投じた理由
国内の半導体産業が大変革を起こす中、大胆な一手を繰り出した会社があります。ルネサスエレクトロニクスです。
同社は2024年2月、電子回路の設計ツールPCBの開発を手掛けるアルティウムを買収すると発表しました。買収額は8900億円。アルティウムはオーストラリア証券取引所に上場しており、TOBによる大がかりな取得となります。
アルティウムは半導体などの電子部品の組み合わせを、ソフトウェア上で仮想シミュレーションするツールを提供しています。試作品を組み上げる前にテストできるため、コスト削減を図れるのです。顧客にはテスラやロッキードなどがいます。
ルネサスは半導体メーカーを数百億円から数千億円かけて次々と買収していました。そういう意味では、アルティウムの買収は異質です。
買収の意図は産業構造の変化にあると見られています。現在はAIやソフトウェアを扱う企業が製品を企画し、製造を担う企業が大量生産化を行います。そのため、ファブレス企業は企画段階で試作品のシミュレーションを行うことが必要になります。自動運転やロボットなど、製品が複雑化すればその傾向は更に強まるでしょう。
ルネサスはパワー半導体に強みを持っており、ロジック半導体が主流になる中で存在感を発揮しきることができません。製品企画という上流工程に入り込むことにより、半導体産業での生き残りをかけたのです。
日本の半導体産業は今が正念場。スマートフォンからAIなどのデータセンターへと需要が変化する中で、いかに発展できるかが注目されています。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。