深刻化する人手不足を解決するには何をすればいい? M&Aも有効な施策に
深刻化する人手不足を解決するには何をすればいい? M&Aも有効な施策に
急回復する経済に悲鳴も上がる
人手不足が深刻化しています。
コロナ禍の収束を迎えて経済が回復。宿泊施設、飲食店、公共交通機関、テーマパークなど、一時的に需要が蒸発した業種が反動増に見舞われています。デジタル化が進行したことにより、システム需要も急増しました。
需要の急増が望ましいものであることは間違いありません。しかし、回復スピードについてこられずに人手不足に苦しんでいる経営者が少なくありません。
DX化の進行によってデジタル人材に注目が集まる
帝国データバンクによると、2023年の人手不足を要因とした倒産件数は260。過去最多を大幅に更新しました。
企業の人手不足の状況を調査した結果(「人手不足に対する企業の動向調査」)によると、2024年1月に正社員が足りないと感じている企業は52.6%。2018年11月に人手不足割合は53.9%の過去最高に達していましたが、それに迫る勢いとなりました。
非正社員は29.9%。2018年12月に34.9%の過去最高を更新していました。
非正社員よりも、正社員の不足感を強く感じている企業が多いことがわかります。
※帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」より
正社員の不足割合を業種別にみると、情報サービスが77.0%でトップ。15か月連続で7割以上という高水準が続いています。
背景には、コロナ禍でデジタル化が中小企業にも進行。システムの導入や刷新が相次いでデジタル人材の需要が急増していることがあります。システム構築を行う会社の中には、受注しても受けられる人材が不足しているため、適切な営業活動を進められないケースがあるほど。
IT人材は豊富な知識と経験が必要なため、簡単に獲得・育成できるものではないという特徴もあります。生産効率を上げるためにデジタル化は必須のものであり、DX化が産業を促進させるのは間違いありません。今は成長痛にも似た状況に見舞われているのです。
人手不足に追い討ちをかける2024年問題とは?
正社員の人手不足割合で2位の業種が建設。65.6%から69.2%まで増加して限りなく7割に近づきました。
医療は58.5%から66.2%に急増しています。運輸・倉庫は62.2%から65.3%に増加しました。
これらの業種には共通しているものがあります。2024年問題です。
政府は労働環境を整備するため、「働き方改革関連法」を2019年4月1日から順次施行しました。この法律によって、残業時間の上限は原則として月45時間、年360時間と定められました。
もし、特別な事情でこれを超える場合でも、年720時間以内で複数月平均80時間以内、月100時間未満を超えることができません。
しかし、建設や医療、物流などの一部の業種では準備期間が設けられました。長時間労働が常態化しており、法規制を無理に導入すると現場が混乱する可能性があったためです。その猶予期間が終わりを迎え、本格導入されたのが2024年4月1日。特例が設けられていた業種にも働き方改革が導入されたのです。
各企業は人員を確保して時間外労働を削減するか、ITを活用して生産性を上げるなどの取り組みが必要になりました。特に建設業界ではIT化が進行しています。これが需要増の要因ともなり、システム会社の人手不足を生んでもいるのです。
労働力不足を解消するにはどうすればいい?
人手不足の解消に向けた取り組みとして、3つの方法があります。
1.業務フローの見直し
2.従業員のスキルアップ
3.人材の獲得
業務フローの見直しは組織を活性化させ、生産性を向上させるためにも重要です。勤怠管理や経費計算、経理処理などの一部をデジタル化するケースがありますが、それよりも会社全体のワークフローを見直した方が良いでしょう。
受発注や請求書の発行、顧客管理、営業管理などをすべて一貫したシステムで管理することにより、バックオフィス業務が効率的に動かせるだけでなく、営業やマーケティング部門もデータを活用して効果的にアプローチすることができます。
休眠顧客や営業アプローチが止まっているステータスを迅速に把握でき、部門をまたいで施策を行えるためです。
リスキリングという言葉をよく耳にするようになりましたが、従業員の技術の習得も重要。企業側はそれをバックアップしなければなりません。デジタル人材の不足は、従業員の学び直しによって補うことも可能です。
リスキリングには補助金や助成金も用意されており、資金的なサポートも受けられます。
人材の獲得は雇用だけでなく、アウトソースの活用など様々な方法があります。手法の一つとして、M&Aが使われることもあります。
人材獲得を目的としたアクハイヤーの選択肢に
優秀な人材を獲得することを目的として行われるM&Aをアクハイヤーと呼びます。高度なIT人材や経営者を獲得することを狙ったものが多く、買収対象の多くはスタートアップです。
中小企業に限らず、大企業でも経営を担う人材や、AIなどの高度な技術力が必要な技術者を育てるのは容易ではありません。迅速に獲得する手段として、M&Aを選択するのです。
ソニーは、アメリカのゲーム開発会社バンジーを5,000億円という巨額資金を投じて買収しました。バンジーは「デスティニー」という大人気ゲームソフトを開発している会社で、IPの獲得という側面が強いものです。
ただし、ソニーはバンジーに対して、買収後も一部の従業員が会社に残ることを契約に盛り込んでいるようで、継続雇用を条件とした報酬36億ドルを費用として計上しています。
ゲームを開発するのは優れた人材が不可欠。バンジーの買収は、ゲームソフトを開発する技術者の獲得を目的とした、アクハイヤーだということもできます。
中小企業においても、職人などの技術者や生産に必要な従業員の獲得を目的とし、老舗の飲食店・工場などを買収するケースもあります。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。