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産業廃棄物・環境 2022.2.9 配信

SDGsを背景に産業廃棄物事業者のM&Aが活発化

SDGsを背景に産業廃棄物事業者のM&Aが活発化

ミダックホールディングスが産業廃棄物中間処理事業の柳産業を子会社化


製造業の産業廃棄物処理を行うミダックホールディングスが、2021年10月に産業廃棄物中間処理事業の柳産業の全株式を取得して完全子会社化しました。柳産業は産業廃棄物を選別し、焼却・粉砕する中間処理を主力事業としています。ミダックは処理工程の幅を広げ、コスト削減につなげる狙いがあります。2021年11月には北日本紡績が産業廃棄物、リサイクルの金井産業を子会社化してます。近年、産業廃棄物処理事業者のM&Aが目立つようになりました。
持続可能な開発目標(SDGs)の中に廃棄物の処理や管理、削減が内容に盛り込まれており、”作る”ことに集中していた企業も”廃棄”や”リサイクル”へと目を向ける時代になりました。

産業廃棄物処理業の基本情報


環境省は日本の産業廃棄物処理業界全体の推定市場規模は5.3兆円と推定しています。アパレルの5.2兆円、OA機器の5.3兆円、飲食の4.9兆円に匹敵する規模であり、非常に大きなマーケットであることがわかります。

産業廃棄物処理業の振興方策に関する提言

一口に産業廃棄物処理といっても業種は大きく3つ(収集運搬・中間処理・最終処分)に分かれており、それぞれの分野で強みを持つ事業者が存在します。業種を跨いでトータルで請け負う事業者もいます。

マーケットは大きいものの、産業廃棄物処理業は中小企業が大きなウェイトを占めています。会社の規模を従業員数別に見ると、100人以上を占める割合はわずか2.1%。10人以上29人以下の会社が32.6%を占めています。平均従業員数は処分場が大規模になりがちな業種である「中間処理・最終処分」においても29人に留まっています。
売上規模で見ても、1億円から10億円未満の会社が全体の46.7%と圧倒的です。
廃棄物処理は人材の確保が難しく、技術力を維持・承継することが困難になりつつあります。経営者の高齢化が進行するにつれ、再編を促すM&Aが起きやすいと予想できます。

業界の特徴と課題


廃棄物処理業は運搬から最終処分まで各都道府県での認可が必要です。認可を受けた事業者が別の都道府県に進出する場合も、事業を行う場所で再び認可を得る必要があります。多くの場合処理物の量はほぼ一定であり、自治体が新たな処分場の建設を認めることは稀です。
廃棄物処理業の多くは中小企業でしたが、理由はここにあります。多くの会社は認可に守られた既得権を有しており、家族経営の会社が自然と多くなります。別エリアに進出するモチベーションを失い、変化を嫌う事業者が増えた場合、「ゆでがえる理論(長く現状肯定の状態にあって緩慢な死を迎えること)」が進行することを懸念する声も聞こえます(産業廃棄物処理業の振興方策に関する検討会)。

M&Aにおける注意点


認可を得て事業エリアを拡大したり、廃棄物処理の工程を広げるためにもM&Aは有効な手段になります。産業廃棄物処理業は、再資源化率向上・低炭素化、シルバー・障害者雇用の促進、ブランド力の向上など、ポテンシャルを持っている業界でもあり、M&Aを活用して新規参入した会社が台風の目になる可能性もあります。
ただし、M&Aには知っておくべきポイントがあります。

〇固定費や有利子負債、減価償却費が大きくなりやすい
運搬車両や処理施設は廃棄物の飛散や悪臭の発生を抑える機能・設備が備わっており、非常に特殊な構造をしています。そのため、固定費が高くなりやすい傾向があります。有利子負債や減価償却費が大きくなりやすく、利益が出にくい可能性があります。
しかし、廃棄物処理業においては特殊な設備を有していることが競争力を持っていることであり、有利子負債の比率が高くても多くのM&Aは成立しています。特殊な設備が手にできることは、買い手にとってむしろ有利な条件です。売り手も負債額に気後れする必要はありません。

〇裁判に発展するリスクがある
土地の汚染や不法投棄、臭気の発生など、土地の所有者や住民からの訴訟リスクがあります。事業を適正に行うためには、法令順守はもちろんのこと、近隣住民の理解を得るための活動が必要になります。

〇法改正の影響がある
2020年4月に廃棄物処理法が改正されました。主な改正点は一部の事業者に電子マニフェストを義務付けるというものです。これは2016年に起こった、廃棄物処理業者による食品の不正な転売を受けて改正されたものです。紙マニフェスト(産業廃棄物管理票)を電子マニフェストにし、厳しく管理されることとなりました。このように、廃棄物処理法に従って事業を推進しなければなりません。

産業廃棄物処理業の主なM&A


〇北日本紡績が金井産業を子会社化
2021年11月ポリエステル紡績に強みを持つ北日本紡績が、産業廃棄物リサイクルの金井産業を子会社化しました。北日本紡績は2021年からリサイクル事業に本格参入。M&Aによって認可と処理設備を獲得しました。金井産業は500万円の営業損失を計上している赤字会社で純資産額は9,200万円ですが、取得価額は1億2,500万円となりました。

〇ミダックホールディングスが柳産業を子会社化
2021年10月ミダックホールディングスが中間処理を得意とする柳産業を買収しました。東海エリアでの業容拡大と同時に、処理工程を広げてコストを圧縮する狙いがあります。

〇ヤマダホールディングスが三久の全株式を取得
家電大手のヤマダホールディングスは2020年3月にヤマダ環境資源開発ホールディングスを設立し、家電製品のリユースやリサイクル、再資源化事業を本格化していました。2021年4月に建築系廃棄物のリサイクル・再資源化の中間処理を行う三久を完全子会社化しています。小売り事業者がリサイクル事業へと本格進出し、M&Aによって事業強化を行った事例です。SDGsへの取り組みを示す好例とも言えます。

〇タケエイとリバーホールディングスが経営統合
廃棄物処理の大手タケエイとリバーホールディングスが2021年10月に共同持ち株会社を設立し、タケエイとリバーホールディングスを傘下に置きました。持株会社の会長にリバーホールディングスの松岡直人氏、社長にタケエイの阿部光男氏が就任しています。売上規模は700億円で、1,000億円規模を目指すとしています。産業廃棄物処理事業者の大規模な事業再編です。海外進出も視野に入れており、新たな動きとして注目を集めています。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。