コロナ禍からの回復が鮮明になった鉄道会社がベンチャー企業への出資を積極化
コロナ禍からの回復が鮮明になった鉄道会社がベンチャー企業への出資を積極化
本州3社が稼いでローカル線を支える構図
国鉄が民営化されて35年が経過しました。民営化でJRの旅客と貨物7社が発足。新幹線は北海道から九州を繋ぐまでになりました。2029年以降に開業を予定するリニアモーターカーの工事も進んでおり、JRの更なる収益化にも期待が集まります。
その一方で、JRもJR東日本やJR東海など本州3社が稼ぎ、JR北海道などのローカル線は苦戦しています。JRはコロナ禍で収益性を大きく落としました。未だ完全回復はしておらず、地方の赤字を都市部の鉄道が支える、という構図にも軋みが生じるようになりました。
新幹線の利用は9割程度まで回復
JRは東日本の業績が他を圧倒しているため、ローカルエリアの苦戦を鮮明にするために、JR東海とJR北海道の比較を行います。
まずはJR東海の業績から見てみましょう。
■JR東海の業績推移
※決算短信より
JR東海はコロナ禍からの業績回復が鮮明になってきました。2023年3月期の売上高は前期比49.7%増の1兆4,002億円、営業利益は前期の220倍ともなる3,745億円まで増加しました。
2021年3月期は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、ドル箱だった新幹線の乗客がほぼ消滅した他、行動制限で各路線の乗客も激減しました。2021年3月期は1,847億円もの営業赤字を計上しています。
そこから段階的に回復し、2024年3月期の売上高は前期比11.8%増の1兆5,660億円を予想しています。売上高はコロナ禍を迎える直前の2020年3月期の85%程度まで回復する見込みです。
東海道新幹線の利用状況は、2023年3月に89%まで回復しました。2024年3月期は上期が85%、下期が90%で推移すると予想しています。
※決算説明資料より
運輸収入も2023年3月期に86%まで回復しています。2024年3月期は9割程度で推移するでしょう。
JR東海はホテル事業において、2022年3月期に54億円の営業赤字を出しましたが、2023年3月期はわずかながら黒字を達成しています。
暗黒期を抜けて本格的な回復に向けて歩み始めました。
JR北海道は黒字化を実現できるのか?
JR北海道は、全く黒字化の道筋が見えてきません。2023年3月期の売上高は672億円でしたが、665億円の営業損失を計上しています。
大赤字を出すのはコロナ前から変わっていませんでしたが、コロナ禍では売上高を上回る赤字を出しました。
■JR北海道の業績推移
※経営情報より
JR北海道はインバウンド向けのレールパスの販売拡大や新千歳空港からのアクセス輸送の強化、新規観光列車による需要の拡大など、観光を軸とした収益強化に取り組んでいます。
同時にコスト削減策も進めており、利用者数の少ない駅や踏切の見直し、ワンマン運転による効率化、自動化・省人化による固定費の削減を行っています。
不採算のJR北海道は経営合理化に向けたM&Aが活発です。
2016年に連結子会社の札幌交通機械と、その子会社である北海道ジェイ・アール・サイバネットを合併しました。北海道ジェイ・アール・サイバネットは消滅しています。
札幌交通機械は鉄道車両部品や機械設備の修繕からスタートした会社で、車両の点検から路面電車の改良工事、ビルの空調、ボイラー、給排水設備など産業機械全般の工事施工、設計、調査などを行っていました。
北海道ジェイ・アール・サイバネットはICTを活用したシステム開発や、車両向け電気機器の開発・修繕などを行っていました。
経営統合することにより、経営資源を最適化し、両社のノウハウが共有できる体制を整えました。
2014年には北海道キヨスクと、ジェイ・アールはこだて開発の合併も行っています。北海道キヨスクは北海道全域でキヨスクを展開し、ジェイ・アールはこだて開発は物販や飲食事業を展開していました。
JR北海道はコロナ禍を経て経営合理化を推し進めており、2023年3月に五稜郭車両所が廃止、4月に留萌本線 石狩沼田駅 – 留萌駅間が廃止されています。JR北海道最後のリゾート列車「ノースレインボーエクスプレス」の運行も終了しました。
子会社の経営統合、売却、一部路線の廃線などを継続的に行う可能性があります。
スタートアップへの出資で次世代の輸送手段を育成
主力鉄道会社が注力しているのが、ベンチャー企業への出資です。
JR東海は2021年5月にPlug and Play Japanとエコシステム・パートナーシップ契約を締結しました。Plug and Play Japanはベンチャー企業の経営支援などを行うアクセラレーターで、2017年に日本拠点を設立。40社以上とパートナー契約を結んで、ベンチャー企業の育成支援を行っています。
日本においては9つの分野でイノベーション創出に力を入れており、その中にMobilityがあります。JR東海は輸送分野で革新的な技術を持つ企業をいち早く見つけ、そのノウハウを事業に取り込もうとしています。
JR東海はオープンイノベーションに積極的に取り組んでおり、2020年7月にはイノベーション推進室を立ち上げていました。大手ベンチャーキャピタルなどとも手を組んで、エコシステムの形成に力を貸しています。
鉄道会社トップのJR東日本は、2018年2月にJR東日本スタートアップを設立しました。この会社は、ベンチャー企業に出資をするコーポレート・ベンチャー・キャピタルです。
駐車場の予約・決済を行うakippaや、宿泊事業者に特化した予約管理ツールを提供するメトロエンジン、隙間時間にアルバイトをする仲介サービスのタイミー、タクシー事業者向けの業務効率化支援ツールを提供する電脳交通など、様々なベンチャー企業に出資をしています。
鉄道会社は組織規模が大きく、”お役所的”と揶揄されることも少なくありません。そのため、意思決定が遅く、革新的な技術が生まれにくいと言われています。
しかし、コーポレートベンチャーキャピタルなどを通して出資を行い、資金力を活かしてエコシステムの土壌を提供することができます。
今後も主力鉄道会社は出資を通して競争力を高めるでしょう。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。