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半導体・製造 2023.5.17 配信

プラスチック射出成型機の現状・課題及びM&Aについて解説

プラスチック射出成型機の現状・課題及びM&Aについて解説

プラスチック製品の大量生産に欠かせない射出成型機


射出成型機はプラスチックを加工する機械のことです。溶かしたプラスチックを金型に流し込み、冷却して取り出すもので、この工程を繰り返すことで大量生産を行います。プラスチックはエネルギー効率が高く、安価で加工の自由度が高いことから、自動車部品、家電、包装、医療機器、玩具、航空宇宙部品に至るまで、様々なものが作られています。

 

インドや中国などの新興国を中心に射出成型機の需要は旺盛で有望な市場です。しかし、樹脂不足や自動車のEV化に伴う既存技術からの転換コストなど、課題も抱えています。また、スターバックスやマクドナルドなどがプラスチックから紙のストローへと一部転換したように、脱プラスチック化の波も押し寄せています。

 

プラスチック射出成型機の現状と課題、主なM&Aについて解説します。

マーケットは4%以上のペースで拡大


市場調査を行うReport Oceanによると、プラスチック射出成型機の世界市場は2021年から2030年の予測期間中、年平均4.0%以上で成長し、2030年までに127億ドル(1ドル135円換算で1兆7,145億円)に達すると予測されています。

 

もともと、日本は射出成型機の分野で高い技術力を持っており、国内はもとより中国やインドなどの新興国、北米・欧州といった先進国への輸出も盛んに行われています。

 

国内の射出成型機メーカーである日精樹脂工業は、2022年3月期の売上高が487億3,100万円でした。その内、射出成型機がおよそ8割を占めています。販売実績を見ると、日本向けが33.8%、欧米向けが36.7%、アジア向けが29.5%という割合になっています。

 

決算説明資料より

 

日精樹脂工業はエリア分散に成功しています。小型化(低床化)や自動化を進めた同社の射出成型機は、その技術力でヨーロッパやアメリカなどの競合メーカーとの差別化を図り、各地域で高い評価を得ていると見るべきでしょう。

価格競争力と技術力で世界トップに立った中国企業


ただし、日本がいつまでもこの分野で強みを発揮できているわけではありません。中国の海天国際ホールディングスの台頭です。

海天は技術大国であるドイツの技術者を招き入れ、射出成型機の付加価値を高めました。中国国内で需要が旺盛な家電向けの廉価な射出成型機を中心として生産量を拡大。日本の製品よりも2~5割も安く生産できたため、輸出量も拡大しました。

海天は2009年に生産台数トップに駆け上がり、内需拡大が著しいインド、ブラジルにも生産拠点を築いています。

 

更に2016年には日本のメーカー・ニイガタマシンテクノに資本参加。同社は受注生産を基本とした事業展開を行っていましたが、量産へと切り替えるなどの改革に乗り出しています。海天はニイガタマシンテクノと共同歩調を取ることにより、日本への本格進出を狙っています。

 

国内の射出成型機メーカーは、価格競争力と技術力が高い中国メーカーとの競争が避けられなくなるでしょう。

電気自動車化はかつてない技術力が要求される


射出成型機メーカーは別の課題にも取り組まなければなりません。その一つが自動車産業の大変革です。

自動車はガソリン車から電気自動車へと転換しています。日精樹脂工業の射出成型機は、自動車関連向けのものが2~3割を占めています。自動車産業は主要なマーケットの一つです。

ガソリン車は駆動力が高いため、さほど重量を気にする必要はありませんでした。そのため、金属部品が多く使われています。軽量化が求められる電気自動車は、多くの金属部品が他の部品へとスイッチすると見られています。代替部品の多くは軽量なプラスチック樹脂となるでしょう。

 

それ自体は射出成型機メーカーにとってデメリットではありません。むしろ需要が増えて歓迎すべき大転換です。ただし、これまで以上に製品形状の複雑化が予想されており、3次元形状や肉厚を変化させる特殊な加工が必要になると考えられています。

高い精度・品質が求められ、これまで以上の技術力が必要となるのです。既存のマーケットは中国メーカーの強い価格競争力で淘汰される可能性があり、電気自動車などの新たな市場ではこれまでにない開発力が必要とされる。射出成型機メーカーはそのはざまに立たされています。

バイオプラスチック向け専用の射出成型機も登場


脱プラスチック化も中長期的に頭の痛い問題の一つ。プラスチックは使い捨ての象徴であり、燃やすと温室効果ガスを大量に発生することで知られています。

紙や竹などの自然材料への置き換えが進んでいますが、注目されているのが植物由来のバイオプラスチック。日本は欧米に比べて後れを取っていますが、日精樹脂工業は早くからバイオプラスチック向けの射出成型機の開発・販売を行っていました。

 

脱炭素化を背景としたバイオプラスチックは、食品や化粧品、医薬品などの分野で導入が進んでおり、環境破壊が進んだ中国ではその需要は旺盛です。

射出成型機メーカーは脱炭素化という新たな波に立ち向かうため、新たな製品開発に邁進しなければなりません。この分野では規模の大きな企業を中心に開発が進んでいますが、中小企業は新技術を切り開く資本力が十分ではありません。競争力を失うメーカーが出ることも懸念されています。

 

ウクライナ危機に伴うエネルギー高、原材料高を背景とした既存のプラスチック原料の高騰の影響もあり、射出成形機メーカーはかつてない変革期を迎えています。

活発に行われる射出成型機のメーカーのM&A


経営合理化やシェア拡大などを目的としたM&Aは活発に行われています。射出成型機メーカーのM&Aの目的は大きく4つに分けられます。

 

1.メーカー同士のM&A:シェアの拡大と生産体制の合理化
2.メーカーと金型製造会社のM&A:射出成型機メーカーの経営合理化(射出成型機に欠かせない金型部品の内製化)
3.メーカーと化学メーカーのM&A:化学メーカーの経営合理化(プラスチック製造に欠かせない射出成型機製造の内製化)
4.射出成型機と別の製造機器メーカーのM&A:サービスの拡充(製造工程を統合して製造技術力を高める)

 

【日精樹脂工業によるNEGRI BOSSI S.P.A.の子会社化】
日精樹脂工業は、2020年1月にイタリアの射出成型機メーカーNEGRI BOSSI S.P.A.の株式75%を取得しました。数年後に残りの25%を取得して連結子会社化する計画です。

NEGRI BOSSIはイタリアトップクラスの射出成型機メーカーで、自動車産業に強みを持っています。日精樹脂工業はシェア拡大を図ると同時に、高い技術力を取り入れました。

 

【宇部興産と三菱重工業の事業統合】
宇部興産と三菱重工業は、2017年1月に両社の射出成型機事業を統合しました。

宇部興産の子会社宇部興産機械が三菱重工プラテックの経営権を取得。商品ラインナップや販売網を拡充し、製造コストの低減を図って生産性の向上を図ります。

 

【セイコーエプソンのセルビック買収】
セイコーエプソンは2018年6月に射出成型機械製造のセルビックの全株を取得しました。エプソンの産業用ロボットと射出成型機の技術を組み合わせ、提供するサービスの範囲を広げました。

工場は人手不足に伴う省人化が進んでおり、自動化技術が欠かせません。エプソンは得意とする搬送用ロボットの設置だけでなく、射出成型機の工程も加えてニーズに合致する提案ができるようにしました。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。