コオロギ食で話題のフードテックとは?食糧不足を解決する最新事情
コオロギ食で話題のフードテックとは?食糧不足を解決する最新事情
なぜコオロギ食を推進するのか?
SNS上で敷島製パンが大炎上しました。原因となったのが、食用コオロギを練り込んだパンを販売していたこと。昆虫は人によってアレルギーを引き起こすことがあり、コオロギの粉末が他のパンに紛れ込んでいるのではないかという、あらぬ疑いがかけられてしまったのです。
一連の炎上を目の当たりにし、敷島製パンはKorogi Caféのホームページにて、コオロギパンの工場建屋や製造ラインが他の製品とは異なることを急遽アナウンスしました。
昆虫食はイナゴなどのごく一部の食材を除き、ゲテモノ料理の文脈で語られてきました。今回の炎上は、アレルギーよりも昆虫食に対する忌避感が根底にあります。
しかし、昆虫食は官民挙げて取り組んでいるフードテックの文脈でとらえなければ、その本質は見えてきません。フードテックとはどのようなものなのでしょうか?
官民学による協議会が発足
フードテックは、食分野の新たな技術を開発し、食料の生産・加工・流通・消費形態を変化させ、食に関する課題解決を創出することを指します。植物由来のタンパク質で作る代替肉や昆虫パウダーを使った食品、生産性の高い植物工場、飲食店や食品工場の調理ロボット、廃棄ロスを抑制するシステムなど、様々な領域にまたがって技術開発が進んでいます。
日本においては、2020年10月に産官学による「フードテック官民協議会」が設立されました。農林水産業の発展と食糧安全保障強化を行う目的で、資源循環型の食糧供給システムの構築、高い食のQOL(クオリティオブライフ=生活の質)を実現する国内の技術基盤の確保に向け、活動を行っています。
この活動の事務局は農林水産省が務めています。
フードテックビジネスを支援するための補助事業も実施しており、2022年度の「フードテックを活用した新しいビジネスモデル実証に対する支援事業」においては、昆虫を活用した肥料・飼料の生産システムを開発するムスカや、調理や調理器具の洗浄までの工程を完全自動化したロボットの開発を行うTechMagicの事業が採択されています。
2021年の支援事業の1次公募では、以下7つの事業が採用されています。
世界で2兆円が投じられる有望な市場
※農林水産省「農林水産省フードテック研究会」より
国主導でフードテックを切り開いている背景として、日本が世界と比較してこの分野に遅れをとっていることが挙げられます。
世界のフードテック分野への投資は、2018年に2兆円を超えました。この分野ではアメリカが先行しており、9,574億円が投資されています。中国は3,522億円です。一方、日本はわずか97億円に留まっています。
国土や人口が関係しているようにも見えますが、イギリスは1,211億円、フランスは545億円、ドイツが302億円で、日本の勢いが欠けているのは明らかです。
日本が食分野のテクノロジー開発に遅れている理由として、欧米では食の安全性や健康、環境への配慮に対する意識が高いことが挙げられます。
冒頭のコオロギ食が推進されている理由の一つに、環境負荷が低いことがあります。牛は可食部1kgの生産に必要な餌は25kgで、水を22,000ℓ必要とします。また、温室効果ガスを2,850g排出すると言われています。
しかし、コオロギ(可食部1㎏)に必要な餌の量は牛の1/12、水は1/52、温室効果ガスの排出量は1/1780にまで抑制することができます。
求められるフードテックのルール作り
EUでは2018年1月に「新規食品規制」を施行しました。昆虫の全身が新規食品として追加され、統一規制が敷かれることになったのです。これは昆虫がアレルギーを引き起こすことがあり、安全面を考慮したもの。裏を返すと、EUが公式に昆虫食を推奨していることになります。
フランスでは4人に1人が昆虫食を経験していると言われており、日本のように大炎上する様子はありません。
農林水産省は2024年を目処にフードテックのルール作りを進め、消費者の理解を確立する方針を示しています。食は人体に直接関係する領域のため、フードテックの推進は国民の理解なくしては進めることができません。
ガイドラインを設けて基準を正しく定め、事業者には技術開発を進めやすくする環境を確立し、消費者には安心して商品を選ぶ取り組みが欠かせません。
フードテックは2024年が一つの節目となる可能性があります。
初の黒字化を達成した植物工場運営会社が40億円を調達
フードテックは成長途中の分野のため、企業買収はあまり行われていません。ただし、ベンチャー企業への出資は積極的に行われています。主な出資案件を紹介します。
【飲食店の人手不足解消に寄与するシコメルが8.2億円を調達】
飲食店で提供する料理の一部を、提携する食品工場を通じて製造するサービス「シコメル」を運営するシコメルフードテックは、2022年9月にアグリビジネス投資育成やPlan•Do•Seeなどから、8億2,000万円を調達しました。
飲食チェーンはセントラルキッチンで料理の仕込みを行うことで、店舗の調理負担を抑え、調理スタッフの人数を減らしています。しかし、店舗数が少ない飲食企業はセントラルキッチンを所有することができません。
「シコメル」は個人店でもセントラルキッチンを持つのと同等のサービスを提供します。レシピを元に味や見た目を工場で再現し、アプリで発注を行えるというものです。
【植物工場のスプレッドが40億円を調達】
植物工場を運営するスプレッドが、エンジェル投資家などから2022年8月に40億円を調達しました。
スプレッドはレタスの自動化植物工場「テクノファームけいはんな」や、世界で初めて植物工場の黒字化を達成した「亀岡プラント」などを運営する会社。野菜を棚に収めることで面積当たりの生産性を高めたり、可食部の多い野菜を開発して環境負荷の低減に努めています。
生産された野菜は「ベジタス」の名でスーパーマーケットに販売されています。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。