人々の生活になくてはならない紙・パルプ製造業の動向とM&A
人々の生活になくてはならない日用紙製造業の動向とM&A
需要は多いが品質による差別化が図りづらい業界の一つ
トイレットペーパーやティッシュペーパーは人々の生活に欠かせません。このような生活必需品の特徴として、品質の差別化が図りづらく、消費者は似た商品であれば安いものを選択するため、価格競争が激しくなることが挙げられます。
王子ホールディングスや日本製紙、大王製紙などの大手企業は、巨額の研究開発費をかけて高品質なものを生み出し、強力なマーケティングを仕掛けてブランドを構築しています。そのため、品質での差別化は容易ではありません。
業界全体でコスト高と人件費高が進行しており、大手企業は国内外で工場を取得してスケールメリットを働かせています。中小の日用紙製造会社は変革を求められています。
原価率が3.5ポイント上昇した王子ホールディングス
2022年から2023年にかけてウッドショックと呼ばれる木材チップの価格高騰が起こりました。
コロナ禍から世界経済が立ち直り、急速に紙の需要が高まりました。また、世界の森林面積の5分の1を占めるロシア産パルプの流通が滞るようになったことで、需給バランスが崩れました。
更にエネルギー高が追い打ちをかけます。紙の製造は木材チップを煮て繊維を取り出し、プレス機で水分を絞り出した後、紙を乾燥させます。特に乾燥させる工程においては、大量の燃料を必要とします。
製紙業界は急速なコスト高に見舞われました。
王子ホールディングスは2023年3月期の原価率80.1%でした。前期と比較して3.5ポイント悪化しています。日本製紙も83.4%から85.5%へと1.1ポイント上昇しました。
コスト高に見舞われたとはいえ、中小の製紙会社が簡単に価格転嫁できるわけではありません。差別化要素が少なく、値上げをすれば消費者が別の商品を手に取ってしまうためです。
そのため、原材料価格を抑制するために調達先を多様化し、安く仕入れを行おうとする動きが活発化しました。
環境に配慮した商品で価格競争を抜け出すことができるか?
トイレットペーパーやティッシュペーパーを取り巻く近年の変化として、消費者が環境に配慮した商品を選ぶようになったことが挙げられます。
リサイクル商品や、ゴミが出ない芯なしのトイレットペーパー、CO2の排出を抑制した商品などです。
消費者向けの商品だけでなく、企業のノベルティグッズとしても環境配慮型の商品は有効です。販促グッズとしてティッシュやキッチンペーパー、ウエットティッシュなどを配布するケースです。
地銀などの金融機関や地方自治体などがノベルティグッズを多く活用していますが、環境配慮型とすることで地域に貢献していることをアピールすることができます。
取引先企業や団体のイメージアップを図るためにも、環境配慮商品のラインナップは今後大きなテーマの一つとなるでしょう。
日用紙の製造業・工場のM&Aが進む理由
ティッシュやトイレットペーパー、ナプキン、紙皿・紙コップなどを製造する会社や工場のM&Aが活発化しています。
買い手側の視点から、その理由を見てみましょう。以下5つが主な理由として挙げられます。
1.製品ラインナップの拡充
2.コストの削減
3.シェアの拡大
4.海外展開
5.新規参入
先ほど説明した通り、環境配慮型の製品が主力になったことから、多くの会社が製品ラインナップを拡充したいと考えています。今後、この分野が競争力の源泉となる可能性が高いためです。
裏を返すと、CO2削減などに強みを持つ会社は、魅力が高まっているということでもあります。
製紙会社はスケールメリットが働きやすい業界の一つで、規模を広げるほど利益が出やすいという特徴があります。コスト削減、シェアの拡大、海外展開は大手企業にとって一括りにしてもいいと言えるもの。目下、この3つの要素を戦略に入れて規模を拡大しています。
パジェロ工場が製紙工場に鞍替え?
非常に珍しいM&Aの事例が、2022年に行われた大王製紙による三菱自動車岐阜工場の取得。三菱自動車は三菱パジェロを製品ラインナップから外し、2021年8月末にすべての生産を終えて工場を閉鎖していました。
大王製紙はパジェロの製造工場を取得し、衛生用紙などの増産体制を整えたのです。売却額は土地と建物で40億円程度とみられています。
自動車工場を製紙工場にリニューアルするケースは珍しく、業界内でも驚きの声が聞こえました。大王製紙がそれだけ大規模な工場設備を必要としているということなのでしょう。
大王製紙はM&Aを活発に行っている会社の一つ。2022年8月にはペット用品・紙加工品の開発を行う大貴の全株を取得しました。大貴はメーカーで規格外となった壁紙や紙おむつ、不織布などのリサイクル原料を活用し、紙製の猫砂などを開発しています。
このM&Aは環境配慮型商品のラインナップ拡充を目的としたM&Aの事例です。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。