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その他 2023.11.1 配信

空前の円安が進行する日本景気の行く末は?

空前の円安が進行する日本景気の行く末は?

名目GDPは2015年に掲げられた目標が達成する水準に


2023年4-6月期の名目GDPは590兆円(年率換算)となり、過去最大を更新しました。安倍政権は2015年に有名な経済対策として「三本の矢」を打ち出し、第一の矢として名目GDPを戦後最大の600兆円にするという目標を掲げていました。

8年前に掲げた目標が達成目前まで迫っているのです。

 

内閣府は2024年度の名目GDPを601兆円としており、来年度には達成する見込みです。しかし、日本の景気は本当に良くなっているのでしょうか?

各地でインフレが進んでいる理由


現在の日本において「戦後最大の国民生活の豊かさになっているか?」というと、それを実感している人は少ないでしょう。

 

その理由は、経済が大きく成長しているというよりも、物価高に押されて家計の消費規模や設備投資が拡大している影響が大きいためです。消費者からすると、物価高になる一方で賃金は上がらず、生活は苦しくなるばかりという印象を持ちます。

つまり、皮肉にも目標として掲げていたGDP600兆円は、望まぬ形で実現してしまったのです。

 

2022年以降は各国でインフレが進行しました。要因として、コロナ禍の経済の停滞から反動的に需要が高まったことや、ウクライナ危機に端を発するエネルギーの高騰などが挙げられます。日本の場合、物価高に追い打ちをかけている特殊な要因があります。空前の円安です。2023年10月に150円まで進行しました。

日本の円安が解消される見通しはあるのか?


円安が進んでいる背景には、日本が金融緩和継続に傾いていることがあります。

2022年から、アメリカは急速なインフレを退治するために利上げを行いました。2023年7月のFOMCで0.25%の利上げを決定し、2022年のゼロ金利解除以降、引き上げ幅は5.25%という22年ぶりの水準まで高まりました。

ヨーロッパも利上げに動いています。2023年9月の理事会で0.25%の利上げを決めました。これで10回連続の利上げとなります。ヨーロッパもアメリカと同じくインフレの抑制を重視しています。

 

日本は先進国に逆行し、緩和の継続姿勢を維持しています。その理由はコロナ禍から経済の回復途上にある日本経済を支えるため。日本は物価高に合わせた賃金上昇が起こっていません。仮に日本銀行が金利を引き締めた場合、金利負担などが企業の利益を圧迫し、景気が急速に悪化する可能性があります。

緩和継続はしばらく続くと見られています。

 

通貨は金利が高い方の需要が強まり、低い方が弱含みます。これは利回りが高い方の通貨で、資産運用をしたいと考える人が増えるためです。現在は金利が高いドルやユーロの需要が強く、金利が低い円の需要が減退しているのです。

輸入品はドルで取引されるため、円安が進行すると海外から日本に入ってくるものは値段が高くなります。それが日本の物価高を促進している理由の一つでもあります。

誰もが恐れるスタグフレーションとは?


先進国の中で、日本はスタグフレーションに陥る可能性が高いのではないかと言われています。スタグフレーションとは、景気低迷を表すスタグネーションと、物価高のインフレーションをミックスした言葉。景気後退と物価高が同時進行する現象です。

 

インフレは物価上昇と経済活性化が同時に進行し、消費者の購買意欲が高まって需要が増大。それに伴って企業の収益が拡大して賃金が上昇します。良いインフレは、このサイクルが回っている状態です。

スタグフレーションは原材料価格の高騰で生産コストが上昇するだけで、需要増が起こりません。むしろ物価高で消費者の購買意欲が失われ、生産活動も減退。企業は収益を高めることができないため、賃金は上がりません。

これをコストプッシュインフレ、悪いインフレと呼ばれます。この状態が続いて経済の停滞が鮮明になると、スタグフレーションに陥ります。

 

スタグフレーションは、1970年代の原油価格の高騰が引き金となり、アメリカで起こりました。アメリカは1971年から1978年までは金利引き上げ政策を取り、それ以降は引き下げました。それによって通貨が過剰に供給されてインフレが一層進行し、一般家庭や企業に深刻な影響を与えたと言われています。

 

現在の日本は1970年代のアメリカに似ているとの指摘があります。

円安が追い風になる業界や業種は?


ただし、円安の進行が特定の業界や業種に好影響を与えるのも事実です。恩恵を受ける典型的な業界が輸出産業です。特に日本の主要産業である自動車は好影響を受けます。

 

トヨタ自動車は2023年4-6月の営業利益が前年同期間比で1.9倍に跳ね上がりました。増益要因の一つに為替変動があります。トヨタは1ドル130円、1ユーロ138円を想定していましたが、ドルは137円、ユーロは150円まで円安が進行。結果として、同期間で1,150億円の利益を生みました。

 

円安は2022年から本格的に進行しています。そしてそれが輸出主導型の企業の収益を高めているのは事実です。2022年度の日本の税収は初めて70兆円を超えました。その中で法人税は14兆9,398億円となり、前年度より1兆2,970億円増えました。所得税も1兆1,395億円増えて22兆5,217億円でした。

 

日本企業が収益性を高めていることは事実であり、物価高を加味しなければ賃金も上昇しています。ただ、急速な物価高に追いついていないだけです。

日本は長らく賃金が上がらない状態が続いていました。その理由の一つに、生産性の低さが挙げられています。特に中小企業が大部分を占める日本は、IT化の波に遅れをとっており、それが生産性が高まらない要因だと言われています。

 

今、日本は景気回復と景気後退の分かれ道にいます。企業が本質的な稼ぐ力を高めることができれば、賃金上昇を伴うインフレとなり、景気は力強く回復するかもしれません。反対に収益力を失って需要が減退し、失業率が高まるとスタグフレーションという最悪の景気後退局面に入る可能性もあります。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。