介護機器事業のM&Aが活発化している理由
介護機器事業のM&Aが活発化している理由
2021年、介護関連分野は前年比3.3%の増加
日本福祉用具・生活支援用具協会の調査によると、2021年の福祉用具産業の市場規模は前年比0.3%増の1兆5,033億円。この規模は出版の1兆2,300億円、オンラインゲームの1兆3,500億円よりも大きく、魅力的なマーケットを形成しています。しかも2009年から緩やかな伸びが続いており、将来有望な市場でもあります。この産業を支えているのが介護関連分野。2019年の在宅等介護関連分野の市場規模は前年比3.3%増の7,576億円となりました。介護機器は日本の数少ない成長産業です。
2040年、日本の総人口の35%が高齢者に
総務省統計局によると、2021年の総人口に占める高齢者(65歳以上)の割合は29.1%と限りなく30%に近づきました。今や3人に1人は高齢者の時代です。
日本は1950年以降、一貫して高齢者の割合が増加しています。1950年は4.9%、1985年に10%、2005年に20%を超えました。第2次ベビーブーム期に生まれた世代が65歳以上になる2040年には、35.3%になると予想されています。
■高齢者の人口及び割合の推移
日本は長寿大国と呼ばれる通り、世界で最も高齢者の割合が高い国です。2位のイタリアは23.6%、3位のポルトガルは23.1%です。
高齢化社会は日本に限定して語られることの多いものですが、実は高齢者人口の割合は、先進国を中心に増加傾向にあります。つまり、介護機器は日本に留まらず、世界中で需要が膨らむ可能性が高いマーケットだということです。
■主要国における高齢者人口の割合の推移
フランスベッドが福祉用具事業を強化
大手企業を中心に介護機器事業への進出や強化を行っています。
M&Aを活用して戦略的に事業展開しているのがフランスベッド。2021年3月期フランスベッドの売上高524億3,000万円のうち、メディカルサービス事業は328億3,900万円(構成比率62.6%)、インテリア健康事業は191億8,600万円(構成比率36.6%)で、今やこの会社は小売ではなく病院や介護施設向けのサービスが主力です。
その中でも介護関連レンタル売上は178億1,600万円で、メディカル事業の54.3%を占めています。フランスベッドはこのレンタル事業の伸長に力を入れています。
2009年12月に福祉用具の販売やレンタルを行う翼の株式を取得。2020年9月に同様の事業を行うカシダスを子会社化しました。カシダスはもともと介護事業を展開するロングライフホールディングの傘下にありましたが、フランスベッドが全株を取得しました。2021年12月には福祉用具レンタルを中心事業とするホームケアサービス山口の全株式を取得しました。
フランスベッドは2022年3月期の売上高を前期比3.0%増の540億円、営業利益を同14.0%増の37億円と予想しています。予想通り着地すると営業利益率は6.9%となり、前期の6.2%から0.7ポイント上昇する見込みです。
フランスベッドは、中期経営計画において利益率の高い福祉用具レンタル事業に経営資源を集中するとしていました。事業拡大の手法としてM&Aを上手く活用しています。
最先端技術を医療や介護に活かす取り組みも
ロボット開発のベンチャー企業サイバーダインは、2021年11月に米リハビリ施設運営のライズ・フィジカル・セラピーを子会社化することについて、基本合意書を締結したと発表しました。ライズ・フィジカル・セラピーは、米国で16か所のリハビリ施設を運営しています。
サイバーダインは機能回復訓練に活かすロボット「HAL」を開発しました。従来はリハビリ、医療施設に納品するビジネスモデルでしたが、リハビリ施設を買収したことで、「HAL」を活用した医療サービスを提供することができるようになりました。
サイバーダインは2021年8月にスマートフォン向けアプリ「熟睡アラーム」を運営するC2の全株式を取得し、完全子会社化していました。熟睡アラームは睡眠といびきを可視化するアプリで、ダウンロード数が320万を超えるなど、ヘルスケアアプリの中でも上位を維持しています。7,500万件以上の睡眠データが記録されており、疾病の予防・早期発見を目的とした小型バイタルセンサーの開発との相乗効果が高いと判断しました。
サイバーダインはM&Aを通してヘルスケア部門を強化しています。
【近年の主な介護機器のM&A】
2021年に入ってからは特に介護機器のレンタル事業のM&Aが活発です。
〇ココカラファインがキコーメディカルの全株式を取得
ドラッグストアのココカラファインが、2021年4月に福祉用具のレンタルや販売を行うキコーメディカルを買収しました。ココカラファインはドラッグストア、調剤が主力事業ですが、医療と介護一体的に提供するヘルスケアネットワークの構築を急いでおり、買収はその取り組みの一環です。
〇芙蓉総合リースの日本信用リース株の追加取得
芙蓉総合リースが2021年4月に医療機器や介護福祉用具のリースを提供する日本信用リースの株式を追加取得しました。保有比率を30%から100%に高め、完全子会社化しました。芙蓉総合リースは成長期待の高い医療・福祉部門の強化を行いました。日本信用リースはもともと芙蓉総合リースとニチイ学館が共同で出資した会社で、売り手はニチイ学館です。
〇インターネットインフィニティーがフルケアを完全子会社化
リハビリ型通所介護「レコードブック」を運営するインターネットインフィニティーが、2021年4月に医療機器や福祉用具のレンタル、販売などを行うフルケアの全株式を取得しました。フルケアの本社は広島市であり、買収によって中国地方へエリアを拡大する狙いがあります。
〇揚工舎がケア・フレンドを買収
有料老人ホームやデイサービスを提供する揚工舎が、2021年3月に福祉用具のレンタルを行うケア・フレンドの全株式を取得しました。揚工舎は施設運営のほか、訪問介護や福祉用具の販売、レンタルなど、ヘルスケアを軸に事業を多角化していました。今回の買収も事業ポートフォリオ強化に向けた取り組みです。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。