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介護・福祉 2024.11.20 配信

介護事業の将来予測と現状における課題は? M&Aの最新動向も紹介

介護事業の将来予測と現状における課題は? M&Aの最新動向も紹介

深刻な事態と言われている2025年問題とは?


日本の介護業界が転換点を迎えようとしています。

2025年は団塊の世代(1947年から1949年生まれ)が75歳以上の後期高齢者となり、深刻な人材不足が懸念されているのです。これを2025年問題と呼びます。総人口1億2,326万人のうち、17.5%の2,155万人が75歳以上となる見込みです。およそ5人に1人が後期高齢者となるのです。

 

認知症高齢者、単身高齢者世帯が増加し、医療・介護費などの社会保障費は増大すると見られています。また、介護職は31万人不足すると見られており、政府や自治体も人材不足解消に乗り出していますが、実際の現場では不足感も広がっています。

報酬額を事業者が自由に決められないという特殊事情


厚生労働省によると、2021年度の介護職員数は214.9万人。2025年度には243万人、2040年度には280万人が必要だと試算しています。2025年度は2021年度比で32万人が新たに必要となる計算です。

 

厚生労働省は様々な介護人材確保の対策を行ってきました。

リーダー級の介護職員については、他の産業と遜色ない賃金水準を目指し、年間総額2,000億円を活用して2019年10月から処遇改善を実施。介護職員については、収入を3%(2,000円)引き上げる措置を2022年2月から行っています。

そのほか、介護福祉士修学資金貸付、再就職準備金貸付、ボランティアを活用した介護分野での就労活動の推進、中高年齢者等の介護未経験者に対する入門的研修の実施から、研修受講後の体験支援、マッチングまでを一体的に支援する取り組みも行っています。

 

しかし、介護現場では厳しい声が聞こえてきます。

独立行政法人福祉医療機構経営サポートセンターリサーチグループが2023年10月に実施した特別養護老人ホームのアンケート調査によると、職員の充足状況について「不足している」との回答は70.3%。2021年の調査では55.1%、2022年は68.6%でした。年々比率は上がっています。

不足している職種において、介護職員は98.4%と圧倒的。看護職員は35.1%、理学・作業療法士は5.1%でした。介護現場を支える人材の獲得が急務なのです。

人材確保が難しい要因として、「他産業より低い賃金水準」が63.9%でした。2022年の調査は54.9%。急増しています。

 

コロナ禍からの経済の回復と、急速なインフレの進行によって日本全体の賃金水準は上昇しています。厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、2023年の一般労働者の平均賃金は月31万8,300円。2022年に続いて過去最高を更新しました。

前年からは2.1%増えており、伸び率は1994年の2.6%増以来29年ぶりの高い水準となっています。

 

連合によると、2023年春季労使交渉による賃上げ率は平均で3.58%で、前年比で1.51ポイント上昇しています。3%を超えたのは29年ぶり。1993年の3.90%以来の数字となりました。

 

しかしながら、賃金が著しく上昇しているのは一般企業が中心。介護事業のように収入の大半が国費で占められている場合は、自由に報酬額を決めることができません。また、インフレの進行で水道光熱費などの高騰で経営を圧迫され、赤字経営に陥っている事業者も多数あります。

アルバイトのマッチングサービスの利用も有効な一手に


事業者の人材不足解消に向けた取り組みも進んでいます。具体的な施策として以下4つが挙げられます。

 

1.労働環境の整備
2.資格取得や管理職育成のバックアップ
3.外国人人材の活用
4.人材派遣やマッチングサービスの活用

 

スタッフが働きやすい環境を整えるため、ITシステムやロボットが活用されるようになりました。

厚生労働省は介護記録や請求書などのデータをデジタル化することや、ビデオカメラ・ベッドセンサーなどで見守り業務負担を削減することを推奨しています。また、排せつや入浴、移動などを支援するロボットも多くの種類が市場に流通するようになりました。

自治体ごとに介護施設向けのICT導入補助金が整備されています。業務効率化などを目的とした、介護ソフト・情報端末・通信環境機器の購入費や、運用経費の一部が補助される仕組み。介護事業所の職員数に応じた上限額が設定されています。

介護ロボットも補助の対象です。

事業所がスタッフの業務負荷軽減に向けた取り組みを積極化し、離職率を低減。さらにそれをアピールすることが人材獲得の一助にもなるでしょう。

 

事業者が職員に対して資格の取得を促すのも有効な手段。介護福祉士は社会福祉専門職の介護に関する国家資格です。取得すると業務内容や待遇が変わります。介護士よりも介護福祉士の方が給与水準が高い傾向にあり、厚生労働省の「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」によると、介護士の平均給与は31万7,540円。介護福祉士は33万1,080円でした。

介護福祉士の資格を取得するために必要な経費(講座の受講料や受験手数料など)を一部補助する助成制度があります。そうした情報をスタッフと共有しましょう。

介護施設で中間管理職になる道をスタッフに示し、それを目指す意識づけを行うことも重要です。

 

外国人を積極的に受け入れる動きも加速しています。

介護に関する在留資格に「EPA」というものがあります。2008年にインドネシアからの介護人材の受け入れがスタートし、フィリピン、ベトナムへと広がりました。EPAの介護人材は、2023年時点で3,260人の実績があります。

介護老人保健施設や特別養護老人ホーム、グループホームなど様々な施設で受け入れができます。

EPAの他に在留資格「介護」や「特定技能」などもあります。「介護」の場合はEPAと異なり、受入調整機関はありません。そのため、日本人学生と同様に介護福祉士養成施設を卒業する留学生にアプローチをします。

 

人材派遣事業者との繋がりを持つことや、スポットアルバイトのマッチングサービスを利用するのも人材不足解消の有効な一手。マッチングサービスを提供するタイミーは、介護分野の有資格者数が2024年7月に28万5,000人を突破したと発表しています。

即効性の高いツールとして注目されています。

人材不足解消を目指したM&Aも活発化


介護業界では、人材不足解消を目的としたM&Aが頻繁に行われることで知られています。介護のスペシャリストを養成するのは時間がかかりますが、M&Aであれば短い期間での獲得が可能です。募集や教育に必要なコストを大幅に削減することができます。

介護施設運営会社の経営者や施設の責任者も迎え入れることもできます。

M&Aによって拠点を広げることができ、経営の分散が可能です。M&Aはデューデリジェンスと呼ばれる、対象企業の調査を行うプロセスがあります。そこで財務状況などの調査を行うため、あらかじめ潜在的なリスクを洗い出すこともできます。

人材不足を解消して事業の拡大に努めたいと考えている経営者は、M&A仲介サービスに相談しましょう。

 

【人材不足解消を目的とした主なM&A】

■ケア21がエム・ケー企画から事業を譲受

首都圏と近畿圏などで介護サービスを提供するケア21は、2023年8月にエム・ケー企画の訪問介護事業の事業譲渡契約を結びました。エム・ケー企画は埼玉県三郷市を拠点として訪問介護事業を展開しています。

同エリアで介護サービスを提供しているため、人材確保の面で一体的な運用が図れるなどシナジー効果に期待できることからM&Aを行いました。

 

■エフビー介護サービスのスマートケアタウン買収

長野県に本社を置くエフビー介護サービスが、2023年7月にスマートケアタウンの株式を取得しました。スマートケアタウンは長野県岡谷市で小規模多機能型居宅介護施設などを運営しています。

エフビー介護サービスは岡谷市に拠点がありませんでした。一方、近隣には自社が運営する施設があります。人員配置の効率化などが行えることに期待をして買収を決めました。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。