日本のAI導入率はわずか13%? アメリカの30%との乖離の背景と解決策を解説
日本のAI導入率はわずか13%? アメリカの30%との乖離の背景と解決策を解説
世界経済をけん引するAI関連産業
AI関連が経済成長に欠かせないものとなりました。
高性能GPUを開発するNVIDIAの株価は、2023年1月の終値から2024年6月の高値までの上昇率が7.2倍。2024年11月19日時点の時価総額は3.4兆ドルとなり、Appleを抜いて世界1位を獲得しています。
GPUはCPUよりもAIの開発に優れていると言われており、NVIDIAはAI投資を加速する潮流に乗ることができました。豊富な資金力を蓄えたNVIDIAはAIモデルを開発する会社への投資を強化しており、日本のスタートアップ・サカナAIに数十億円を出資したと報じられています。
高性能AIを開発する企業への投資が加速すれば、企業や消費者への活用が広がり、AI産業は更に発展すると見られています。
日本の半導体企業ラピダスも製造の選択肢と発言
サカナAIは元Googleの研究者が2023年7月に設立した会社で、NVIDIAの出資によって企業価値は1,600億円程度に高まったと見られています。1年でユニコーン(10億ドル以上の未上場企業)の仲間入りを果たしたのです。
サカナAIの特徴は「進化的モデルマージ」。複数のモデルを統合し、アルゴリズムを組み合わせることで新たなAIを生み出すモデルです。日本語と数学のモデルを組み合わせ、日本語の数学の問題を回答する技術の開発に成功しました。
ポイントはこの融合させる技術。通常のAIモデルは、大量の数式やテキスト、画像などのデータを集め、それを学習することで精度を高めるという手法をとっていました。生成AIはデータや計算量が増えるほどに性能が高まるという特性があるためです。一方、このやり方は大量の半導体が必要で設備投資に巨額の費用が必要でした。
しかも、電力の消費量が膨大で、データセンターの電力不足を懸念する声もありました。
そうした背景から、精度の高いAIモデルの開発は大型の設備投資や開発・運用コストに耐えられる巨大企業に限定されていました。
サカナAIはゲームチェンジャーとも言える存在。自らモデルを構築するのではなく、オープンソースの技術を使って効率的に高性能なAIを生み出すことができます。
組み合わせの工程には人間の手が必要なく、アルゴリズムが用いられます。大型の設備投資や電力も必要ありません。
興味深いのは、NVIDIAにとってサカナAIの技術が普及するメリットがないこと。AIを開発する会社は大型の設備投資が必要ないからです。CEOのジェン・スン・フアン氏は、「日本におけるAIの民主化を促進しています」と同社を評価しました。
AIの黎明期において、自社の利益よりも民主化が進んで企業やユーザーの利便性が向上することに重きを置いているのです。それだけ普及には期待をかけているということでしょう。
NVIDIAはPlayStationやNintendo Switchの開発に携わるなど、日本企業とは深い関係があります。AIによって日本の産業が盛り上がることに期待をかけているのかもしれません。
NVIDIAは工場を持っておらず、生産の多くを台湾のTSMCが担っています。フアン氏は日本の新たな半導体企業ラピダスでの生産も選択肢の一つと語りました。
ラピダスは技術開発に成功しても販売先が欠けているとの批判もありました。NVIDIAの発言は渡りに船といったところでしょう。
NVIDIAの成長は、日本の産業をもけん引する存在になるかもしれません。
深刻な専門人材の不足
ただし、日本のAI普及率は決して高くありません。
データサイエンティスト協会は、ビジネスパーソン向けにAI導入率のアンケート調査を行いました(「職場におけるAI導入率」)。それによると、日本は13.3%。アメリカの30.2%と2倍以上の開きがありました。導入済みかつ活用ありの割合は日本が6.2%で、アメリカは17.8%。実務となると3倍近い開きがあります。
日本で積極的に活用されている業種はIT・通信で22.0%。次いでコンサル・リサーチが15.2%と続きます。ITの現場においては、AIがコードの補完や提案を行うツールの導入や、システム開発そのものにAIを活用するなど、精度の向上や生産効率を上げるための取り組みが加速しています。
Web広告の運用会社が、広告文、バナー広告、運用設定の最適化などでAIを使うケースも目立つようになりました。
戦略コンサルタントもAIを活用してプロジェクトを進めています。よく使われるのがデータの収集や分析。業界の問題点や課題、成長が見込める点などをAIに質問し、回答を得るような使い方です。
AIはデータを分析して結論を導き出すのが得意。筋の通ったストーリーを描くことができるのです。
資料に必要なテキストや図表、メール文章の作成補助などとして使うこともあります。
このように、一定の業界ではAIの活用が進んでいますが、肝心の製造業における普及率は電機業界で12.0%、産業機械は8.4%と数字は低いまま。アメリカでは電機業界が50.0%、産業機械で36.0%と普及が進んでいます。
検品や在庫管理、製造ラインの自動化など、AIによって生産性を高めることが可能です。深刻な人材不足が懸念される日本でこそ、導入を進めるべきでしょう。
なぜ、日本では十分に普及していないのでしょうか。
最大の要因はデータサイエンティストの不足。先ほどの調査で「勤務している会社にデータサイエンティストがいるか」という質問に対して、「いる」と答えたのは日本ではわずか8.1%。アメリカは32.4%でした。
日本の会社にはAIを専門的に扱える人材が不足しているのです。
必要な人材を確保するためのM&Aも
ヒューマンアカデミーの調査によると、日本企業の85%がDXに課題を感じており、そのうち40%がDX人材の不足を挙げています(「企業300社のDX推進をレポート」)。専門人材不足の問題は、日本の経営課題とも言えるもの。企業はeラーニングや資格取得を通してスキルアップに取り組むようになりました。大和総研は独自のデータサイエンティスト育成プログラムを立ち上げ、課題解決に乗り出しています。
一部の自治体では、DX・デジタル人材育成に関連する補助金制度も設けています。官民挙げての取り組みが始まりました。
実は人材獲得を目的としたM&Aがあります。企業買収と雇用を意味する英語を掛け合わせた造語、アクハイヤーの名で親しまれるものです。
セールスフォースは2024年9月にカリフォルニア州のスタートアップTenyxを買収すると発表しました。TenyxはAIを使った音声対話サービスを開発する会社。セールスフォースが展開するシステムの利便性を高めるため、AIに関連する人材を迎え入れたと見られています。
アクハイヤーは専門人材のほかに経営にも精通した人材を獲得できます。現在はアメリカの巨大テック企業を中心にM&Aが盛んですが、日本でも今後は一つの潮流となるかもしれません。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。