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金融・保険 2024.11.6 配信

国内のフィンテック最新事情を紹介! デジタル給与に企業が後ろ向きな理由は?

国内のフィンテック最新事情を紹介! デジタル給与に企業が後ろ向きな理由は?

QRコード決済の利用率はおよそ7割


経済産業省によると、2023年のキャッシュレス決済比率は39.3%(126.7兆円)に達しました。政府は2025年までにキャッシュレス比率を4割程度にするとの目標を掲げていましたが、達成に向けて着実に歩みを進めています。

QRコード決済は8.6%(10.9兆円)ですが、これは経済産業省の調査が高額な買い物も含んでいるため。決済プラットフォームなどを提供するインフキュリオンの調査(「決済動向2024年上期調査」)では、クレジットカードの利用率が78%、QRコード決済が69%となっています。

 

日常生活においてQRコード決済は当たり前のものになりました。PayPayや楽天ペイなどのシェアの取り合いはひと段落し、フィンテック業界は新たな局面に突入しています。

PayPayで給与支払いができる時代に


フィンテック業界の最大の関心ごとの一つが、給与のデジタル化。政府は2023年4月に賃金のデジタル払いを解禁しました。キャッシュレス決済が普及し、送金サービスが充実する中、従業員による口座の資金移動の手間がないデジタル払いのニーズが高まるとの見方があったためです。

 

2024年8月に取扱事業者として初めてPayPayの運営会社が厚生労働省から指定を受けました。従業員はこれまで通りに給与を銀行口座や現金で受け取ることができますが、PayPayマネー残高として受け取ることもできるようになります。

PayPayの運営会社にとっては、消費者がPayPayを起点として生活するようになるため、経済圏を広げられるというメリットがあります。将来的には保険や証券などの加入・購入へと促すこともできるでしょう。

従業員は銀行口座に振り込まれた給与を公共料金の支払いなどのために引き出すといった手間が必要ありません。手数料もかからず、経済的に処理することができます。

 

SNS広告などを手がけるスタートアップNELはデジタル払いの導入を決定。人事院は国家公務員の給与に対応するよう検討を開始したと報じられています。しかし、多くの企業は決して前向きな態度をとっているとは言えません。

 

検討すらしていない企業が9割


帝国データバンクはデジタル払いに対するアンケート調査を実施しています(「企業の「賃金のデジタル払い」対応状況アンケート」)。それによると、「導入予定はない」と回答した企業は88.8%にものぼりました。全体の9割はデジタル払いの検討すらしていないことになります。

「導入に前向き」はわずか3.9%。「言葉も知らない」が1.6%あり、認知そのものが広がっていない様子がわかります。

 

導入する予定がない理由として、「業務負担の増加」が61.8%と高くなっています。これは、デジタル払いと口座振込で経理手続きが2重運用になってしまうことや、労使協定の改定が必要なことなどが背景にあります。

給与処理は企業活動を継続する上で最重要項目の一つ。間違いは許されません。わざわざこの領域に手をつけるだけのメリットが見当たらないというのが、経営者の本音のようです。セキュリティに対する不安もあるようです。

 

「制度やサービスに対する理解が十分でない」との回答も45.0%ありました。

結局のところ、デジタル払いは理解が進んでいるとはいえず、そのメリットや制度そのものへの知識が不十分なのでしょう。この状態では経営者は正しい判断ができません。

 

政府と決済事業者だけでなく、フィンテック業界が一丸となって経営者への理解を進める必要がありそうです。

 

デジタル払いはQRコード決済が急拡大する潜在性を持っていますが、普及には高いハードルが存在しています。

QRコード決済の普及がデジタル地域通貨発行を後押し


デジタル地域通貨が盛り上がっているのも、現在のフィンテック業界の潮流の一つです。

デジタル地域通貨とは、特定の地域に限定して利用される電子マネーのこと。地域経済を活性化させ、コミュニティを再構築して強化する目的で発行されます。自治体と企業が主体となって発行します。

 

地域クーポンなどの紙をベースとしたものは、印刷や配布、決済などの運用負荷が高いという問題点がありました。これをデジタル化したことにより、利便性が上がったのです。

2000年代初頭に盛り上がりを見せましたが、2005年の306件をピークに減少へと転じました。運用費用を捻出するのが難しかったからです。

デジタル地域通貨に加盟する企業が発行主体に対して法定通貨の換金を依頼した場合、決済手数料として2~3%を徴収します。これは100万円を換金しても発行主体には3万円程度しか入らないことを意味します。地域の規模が大きくなければ、採算がとれません。

 

しかし、QRコードの発展に伴って決済プラットフォームが整備されると、デジタル地域通貨の運用コストが劇的に下がりました。更にコロナ禍で飲食や宿泊施設などが打撃を受けると、再びデジタル地域通貨に注目が集まるようになりました。

平塚市は10億円近い地域通貨を発行


デジタル地域通貨の成功事例も出てきています。

 

神奈川県平塚市の「ひらつか☆スターライトポイント」はその一つ。2020年から運用を開始しています。平塚市独自のキャッシュレス決済アプリで、加盟店で決済ができます。プレミアム率は20%。6,000円分のポイントを現金5,000円で販売しています。平塚市在住者のみが利用できます。

2022年度の発行額は9億6,000万円。地域活性化や住民へのお得感を醸成する取り組みとして注目を集めています。

 

この通貨の発行主体がフェリカポケットマーケティング。ソニーやぐるなび、三井物産などが共同出資して設立した会社で、当初は非接触IC技術「FeliCaポケット」のマーケティング支援などを目的としていました。

2014年にイオンが74.9%の株式を取得。電子マネーサービス「WAON」の利用推進をするようになります。やがて非接触技術とキャッシュレス決済技術を生かした地域活性化に取り組むようになりました。

 

「ひらつか☆スターライトポイント」の他に、東京都中野区の「ナカペイ」、栃木県那須塩原市の「エンジョイなすしおばら」なども手掛けています。

 

政府のバックアップで給与の支払いをデジタルで行えるようになったことと、地域で使えるデジタル通貨が盛り上がるという2つの潮流は、フィンテック業界を語る上で外せないものとなるでしょう。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。