トップページ
案件情報
M&Aとは
M&Aオールが選ばれる理由
業界特化M&A
ご相談の流れ・料金
M&Aの実例・インタビュー M&Aコラム よくあるご質問
まずはお気軽にご相談ください
半導体・製造 2024.1.31 配信

産業構造の大変革は金型製造業にとって福音となるか?

産業構造の大変革は金型製造業にとって福音となるか?

日本の技術が結集した金型産業


2020年の日本の金型生産高は、1兆5,438億円。中国の5兆0,526億円、アメリカの1兆6,367億円に次いで世界で3番目の規模を誇ります。4位の韓国とは7,000億円以上の差をつけており、金型製造業はいまだ日本の主力産業の一つとして確固たる地位を維持しています。

 

金型生産のピークは1991年。当時の生産高は2兆円ありました。事業所数は13,000で、就労者数も12万人という一大産業を形成していました。現在の事業所数はピーク時の3割程度の4,300。就業者数も6割程度まで縮小しています。

 

一時は斜陽産業とも言われた金型製造業ですが、復活の兆しも見えてきました。キーワードは電気自動車への転換が進む、自動車業界の産業構造の変化です。

日本の自動車産業を世界トップ水準に押し上げた金型メーカー


国内の金型の生産金額の構成比率を見ると、トップは自動車用で7割を占めています。残りはオートバイ、電機、精密機器、産業機械、通信機器、医療用などで構成されていますが、数%程度がひしめく状態が続いており、構成比率として1割を超えているものはありません。

つまり、金型産業は自動車産業と切っても切れない関係にあるのです。

 

金型製造は日本のモノづくりを支えてきました。自動車のボディやボンネット、ドアからエンジンを構成する部品、ヘッドライト、電装部品、プラスチック部品など、あらゆるパーツに金型が用いられています。

自動車には1万、多いもので3万のパーツが使われていますが、大部分は金型から作られています。

 

各自動車メーカーはクルマの品質を高めるため、大量生産に必要な金型を作る会社に対して、高い要求を出し続けてきました。日本の自動車メーカーは、金型製造メーカーに支えられて覇権を獲得したと言えます。金型メーカーがミリ・ミクロン単位の要求に応える製品を作り、その結果として自動車の性能が高まったのです。

 

金型製造は職人技が必要とされていたために属人性が高く、企業規模を拡大するハードルが高くなりました。金型製造業の多くの会社が中小・零細であり、町工場などの脆弱な状態で生き残っているのはそのためです。

海外の新興勢力から高い技術力に熱視線が注がれる


金型メーカーに異変が起こったのは、2000年代に入ってから。業界を驚かせたのは、2009年のオギハラの資本業務提携。金型業界最大手のオギハラが、タイの自動車部品メーカー・タイサミットの出資を受け入れ、タイサミットが筆頭株主となったのです。

 

両社は2008年に中国に合弁会社を立ち上げ、ベンツの生産拠点付近に工場を新設していました。タイサミットは、日本の自動車メーカーのサプライチェーンに注目しており、経営が悪化したオギハラの買収を図ったのです。

同じタイミングでオギハラの技術力に注目していたのが、現在の自動車産業において台風の目となっているBYD。BYDは2010年にオギハラの館林工場を買収。80名の従業員を100名に増員し、品質向上や生産拡大に努めました。

BYDが電気自動車の生産台数においてテスラを抜いたことはよく知られている通りです。

 

BYDグループの傘下に入ったオギハラの館林工場では、同社の要望がトヨタよりも高いことに驚いたと語られています。デザインや納期への対応が厳しく求められ、コストを重視する日本の自動車メーカーとは明らかに視点が異なると言います。

産業や資本構造の変化とともに、金型メーカーは新たなニーズや要望に応える体制が必要とされるようになりました。

 

日本において金型製造の成長そのものは頭打ちとなりました。

しかし、これから躍進する新興勢力にとって日本の金型製造メーカーは、優れた技術を持つサプライヤーの一つ。今後は海外メーカーや自動車の新興勢力に買収する動きが加速する可能性は十分にあるでしょう。

オギハラの買収劇は、転換点を迎えたことを如実に物語っていました。

フォードが世界の中で見つけた日本の中小企業


電気自動車や燃料電池車など、次世代自動車の普及に備えて、新たな技術開発に取り組んでいる会社があります。KTXです。この会社は電気鋳造(電鋳)金型の世界トップブランド。電鋳は母型にイオン化した金属を付着させて凹凸を精密に転写するもの。消費エネルギーは従来の1/10、コストは1/3にできるメリットがあります。

 

KTXはアメリカのフォードから高い技術力を認められて注目が集まりました。特に軽量化に対する信頼が厚く、4キログラムだったインパネが2キロ程度で成型できました。フォードは次世代自動車の開発に向けた軽量化インパネの実現を模索しており、世界中のメーカーを調査する中でKTXに行き着いたといいます。

 

KTXは2021年12月長崎県に新工場を設立。自動車用の大物部品へのエッチング加工に乗り出しました。小物部品においてエッジング加工はすでに採用されていますが、大物部品に使うのは珍しい技術です。

電気自動車などの次世代自動車の普及に伴って、人々が内装に求める質感やイメージも変化すると見られています。将来的な受注を獲得するためにも、こうした技術開発は外すことができません。KTXは新たな需要獲得に先手を打ったのです。

 

日本の金型産業は、取引先の要望に応えることで成長してきました。高い技術力を育んだことは間違いありませんが、やがて無理なコスト削減を要求されて産業育成の芽を摘み取ってしまった側面もあります。

現在、金型メーカーを取り巻く環境は変化しつつあり、停滞感から抜け出すチャンスの時でもあります。技術力や営業力の強化により、次世代自動車の旺盛な需要を取り込む機会は十分にあります。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。