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半導体・製造 2023.2.15 配信

ウクライナ危機でレアアースの調達が困難に?戦略的な確保が必要

ウクライナ危機でレアアースの調達が困難に?戦略的な確保が必要

ネオンの供給不足が懸念されたウクライナとロシアの衝突


ウクライナ危機が半導体生産に影を落としています。半導体の製造にはネオン、クリプトン、キセノンなどの希ガス(貴ガス)のほか、パラジウムなどのレアメタルが欠かせません。一部の半導体メーカーはロシア産のレアガス、レアメタルを調達していました。

ロシアはレアメタルの生産量が多いことでも知られており、ウクライナ侵攻の長期化は半導体の製造にも影響する可能性があります。

 

ウクライナ危機をきっかけとして、レアメタルの戦略的な確保が求められるようになりました。

毀損したサプライチェーンの再構築が求められる


ロシア貿易省は、2022年6月に半導体生産に必要なネオンなどの希ガス(貴ガス)の輸出を2022年末まで制限すると発表しました。希ガスはウクライナが世界有数の供給国になっていますが、2022年3月にマリウポリやオデッサの工場を停止していました。

 

ロシアは希ガス3種類の世界供給で3割を占めており、天然ガスのように外貨獲得手段の一つにしようとしています。

希ガスは大気中に100万分の1程度しか存在しないガスで、空気から抽出するのは極めて困難な物質です。そのため、希ガスは酸素や窒素を製造するプラントの副産物として作られています。日本にはそのプラントがなく、海外の大型プラントで作られるのが普通です。

ウクライナは半導体製造に必要なネオンの供給量の7割を占めています。これはロシアの鉄鋼製造の副産物として生み出されているもので、ロシアとウクライナは密接な関係があります。

 

今回、ネオンの輸出が制限されたことにより、一時深刻な供給懸念が出ましたが、今のところ産業や会社へのダメージは軽微です。中国から輸入できるためです。しかし、中国も外交カードの一つとして、レアガスやレアメタルの制限を行うことも考えられます。

 

半導体産業を中心に、中長期的なサプライチェーンの構築が必要になります。

コンゴの武力集団の活動資金にもなっているレアアース


そもそも、このレアメタルやレアガスとはどのようなものなのでしょうか。

 

この2つはどちらも産出量が少なかったり、抽出が難しいという性質があります。しかし、半導体や電気自動車、IoTなどの先端産業に必要不可欠なものであり、その需要は旺盛です。

レアアース、リチウム、コバルト、マンガンなどのレアアースや、ネオン、クリプトン、キセノンなどのレアガスにおいては、日本はほぼすべてを輸入に頼っています。

やっかいなのは、輸入元になっているエリアの多くは、政情不安を抱えていることです。白金の7割は南アフリカ、コバルトの7割はコンゴ、タンタルの2割はルワンダ、アンチモンの2割をロシアが産出しています。

また、レアアースの6割、タングステンの8割は中国のものです。

※資源エネルギー庁「日本の新たな国際資源戦略」より

 

レアメタルやレアガスは、鉄やアルミなどと比べて市場が大きくないことから、それを目的に産出されることはほとんどありません。別の鉱物の副産物として生産されています。

そのため、供給量が安定せずに価格変動が大きく、需給ギャップが生じやすいという特徴があります。それが原因で、いわゆる闇取引も横行している分野の一つです。

 

コバルトやタンタルを多く産出するコンゴでは、1959年の独立以降、内戦が絶えませんでした。現在でも130と言われる武装勢力が対立しており、資源が眠るエリアを統治下に置こうと争っています。

通常、武装勢力が掌握したエリアのレアメタルは、紛争鉱物として取引されない決まりがあります。しかし、武装集団の勢力が衰える気配はありません。非正規のルートでレアメタルの取引を行い、その資金が武装勢力の活動資金になっていると考えられています。

採掘と精錬を分けて寡占化を進める中国


裏取引が横行しているのも、それを必要とする企業があるからに他なりません。半導体や電気自動車などは製造過程が複雑で、サプライチェーンが広範囲に及びます。変更するのは容易ではありません。

レアメタルは時に貿易制限が課され、高い関税がかけられることがありますが、その影響は甚大です。場合によっては製造ラインの閉鎖にも繋がります。

 

そのため、レアメタルやレアアースのほぼすべてを輸入に頼っている日本は、鉱山開発の上流工程で採掘権を獲得し、安定供給に務めなければなりません。

 

従来、鉱山開発は採掘地と精錬所が同一の場所にありました。しかし、今は採掘した鉱石を、別の場所で精錬する方式が一般的になりました。中国はコバルトの精錬工程の寡占化を勧めています。産出全体の50%はコンゴ、精錬の60%は中国という構図になっています。

 

採掘権を獲得することは難易度が高いものの、精錬工程の寡占化であれば不可能ではありません。日本でもこうした取り組みが求められます。

 

ウクライナ侵攻などの突発的な事象が起こっても、レアメタルやレアガスが一時的に供給不足とならないのは、日本が備蓄制度を進めていたため。現在、官民が協力して60日分のレアメタルの備蓄を行っています。

レアメタルは官民で手を組み、戦略的に獲得することも重要です。

M&Aの活用でレアメタルを確保


レアメタルを確保するため、様々な会社がM&Aを活用しています。

 

トヨタグループの総合商社・豊田通商は、2019年5月にメタルドゥの株式を23.8%追加取得し、出資比率を33.4%に引き上げました。

メタルドゥは電池やニッケル、タンタル、チタンなどのレアメタルのスクラップの回収、加工、販売を行っています。東京、大阪、神戸に拠点を持ち、国内トップクラスのレアメタルスクラップ回収量があります。

 

自動車業界は電気自動車の開発、量産に向けて動き出しています。電気自動車はバッテリーを中心にレアメタルの調達が欠かせません。豊田通商は2010年にアルゼンチンのリチウム資源開発プロジェクトに出資しています。2008年にはインドのレアアース専門商社を買収し、豊通レアアースを設立。2009年にはベトナムで開発権を取得しました。

豊田通商はトヨタ自動車を支えるため、国内外で精力的に活動しています。

 

2012年12月には三菱商事と森下仁丹がレアメタル回収モジュールの共同開発に合意しました。森下仁丹はレアメタルの回収が可能なバイオカプセルの開発に取り組んできました。カプセルに特殊な吸着剤や微生物を閉じ込め、効率的にレアメタルを回収するというものです。

このモジュールが成功すると、廃棄されていた工場排水から大量にレアメタルが回収できると言われています。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。