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飲食・食品 2023.3.22 配信

高付加価値製品に活路を見出す!製粉業界の課題とM&A事情

高付加価値製品に活路を見出す!製粉業界の課題とM&A事情

4社で国内のシェア8割を占める寡占化が進んだ業界


製粉会社は2020年の段階で全国に66社あるとされています。製粉業界の国内の市場規模(出荷金額ベース)は5,000億円でほぼ横這いが続いています。シェアは日清製粉、ニップン、昭和産業、日東富士製粉の4社が全体の8割を握っており、典型的な寡占市場です。

 

製粉会社が成長する要因は大きく2つあります。1つは高付加価値製品を生み出すこと。もう1つは海外に活路を見出すことです。

 

製粉業界が抱えている課題や特徴、最新のM&Aについて解説します。

為替と運賃の変動を受けやすいビジネスモデル


製粉会社は、カナダ、アメリカ、オーストラリアなどから小麦を輸入し、港湾部の大規模工場で小麦粉を製造しています。原料は海外からの輸入に依存しているため、小麦価格だけでなく、為替や海上運賃の影響を受けやすいという特徴があります。

 

小麦粉は原料そのものとしては製品の差別化が図りづらく、それが寡占化が進んだ一番の要因となりました。経営合理化を進めなければ、生き残ることができないのです。

2000年ごろまでは製粉会社の数は100を超えていましたが、現在は66社にまで減りました。工場の数も減少しており、企業の多くが生産設備を臨海部へと移しています。

 

更に価格競争力が激しくなる要素が生まれました。2018年に発行したTPP11です。オーストラリア、カナダ産の小麦製品についての関税が撤廃され、2020年にはアメリカとの間でも発効しています。

今後は小麦二次加工製品についても関税が撤廃される方向にあり、製粉各社は国内だけでなく、価格が安い海外製品とも戦わなければなりません。

付加価値の高い二次製品で勝負を仕掛ける


小麦粉は用途が広いことで知られています。パン類、めん・パスタ類、菓子類などです。これらはどの市場も1兆円を超えており、規模が大きいことが挙げられます。

そのため、製粉会社は早くから事業を多角化してきました。

 

日清製粉は売上高のおよそ半分が製粉事業ですが、3割は食品、2割は中食・総菜が占めています。同社は中食・総菜事業を第3の主力事業にするべく、投資を活発化させるとしています。

中食・総菜事業は子会社日清製粉デリカフロンティアが行っているもので、調理パンやパスタ、らーめんなどをコンビニエンスストアや食料品スーパーなどに卸しています。

 

核家族化が進んだことや、単身世帯が多くなっていることで、中食・総菜の需要は拡大しています。日清製粉はパスタ、麺類などの食品加工事業を育ててきましたが、更に付加価値の高い製品で成長を促進しようとしています。

海外展開の難しさに直面した日清製粉


日清製粉は、中期経営計画2026において、事業競争力を高める強化戦略重点テーマの一つに海外事業の成長戦略を挙げています。2026年度に海外事業の営業利益構成比率を13%から38%に引き上げるという計画です。

海外事業を拡大する強力な武器がM&Aです。

 

日清製粉は2012年にアメリカのパスタ・ベーカリー製品向け小麦粉卸大手Miller Milling Companyを1億2,200万ドルで完全子会社化しました。

2013年にはニュージーランドの製粉事業チャンピオン製粉を33億円で買収。2018年にはタイの製粉会社から製粉工場を18億円で取得しています。

2019年にはオーストラリアの製粉会社Allied Pinnacleを子会社化しました。

 

日清製粉は買収によって短期間で海外に拠点を広げましたが、M&Aのリスクの高さも露呈しました。2022年10月19日に2023年3月期の通期業績の下方修正を発表。185億円としていた純利益を185億円の純損失へと修正しました。

その後、予想を100億円の純損失に改めましたが、赤字から脱することはできませんでした。日清製粉の業績は極めて安定しており、上場以来赤字に陥ることはありませんでした。

 

突然の大赤字となった主要因が、オーストラリアの製粉事業Allied Pinnacle社ののれんと固定資産の減損損失558億円の計上。エネルギー価格高騰やコロナ禍の商環境の変化を受けて収益性が悪化し、のれんの価値を見直す必要がありました。減価せざるを得なくなり、その分を損失として計上したのです。

 

製粉事業は大型の設備が必要で固定資産が大きく、事業が安定しているため、特にクロスボーダーM&Aは買収額が大きくなる傾向があります。巨額ののれんを積むことにもなります。

日清製粉が買収した2019年の段階では、コロナ禍やウクライナ危機などは、予想もできなかったでしょう。M&Aの難しさを見せつけたケースでした。

 

ただし、日清製粉はのれんを潰したため、収益性が回復する可能性があります。日清製粉は日本の会計基準を採用しており、のれんを最長20年で償却しなければなりません。仮に600億円ののれんを計上し、20年で償却すると年間30億円の償却負担が発生します。

償却費はキャッシュアウトを伴いませんが、損益計算書上の経費と同じ扱いとなり、営業利益を下押しする要因となります。2024年3月期からは、その償却負担が軽くなります。

M&Aで経営合理化や高付加価値製品開発への足掛かりをつかむ


製粉会社の国内のM&Aにはどのようなものがあるでしょうか。

 

【日清製粉の熊本製粉の子会社化】

日清製粉は、2022年6月に熊本製粉の株式を取得し、連結子会社化すると発表しました。両社は2011年に業務提携を結んでおり、小麦の調達などの領域で協業体制を構築していました。連結子会社化することにより、経営合理化を進めます。

 

【日清製粉のDAIZへの出資】

日清製粉は2022年7月に大豆を使った植物肉の製造・販売を行うDAIZに出資しました。DAIZは植物肉「ミラクルミート」を主力製品としており、オンラインストアでの販売や、レストランなどに提供しています。

官民ファンドのクールジャパン機構からも資金調達しており、注目度の高いスタートアップです。

日清製粉は、植物肉を軸に新たな高付加価値製品を生み出そうとしています。

 

【ニップンのオーケー食品工業の子会社化】

ニップンは2022年7月にオーケー食品工業を株式交換で子会社化しました。オーケー食品工業は、油揚げなどの加工品を製造しており、総菜・和菓子などの仕入販売をしています。

ニップンとオーケー食品工業は、仕入先の統合や人的リソースの相互活用を行うことで、経営合理化を図り、シナジー効果を高めようとしています。また、商品の共同開発によって付加価値の高い商品を生み出すとしています。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。