海外展開する日本の製造業の現状は? 第2次トランプ政権も事業活動に影響するか

海外展開する日本の製造業の現状は? 第2次トランプ政権も事業活動に影響するか
25%の関税で大打撃を受けるトヨタとホンダ
2025年1月20日に第2次トランプ政権がスタートします。懸念されているのが「トランプ関税」。保護主義的な政策を掲げており、メキシコやカナダからのすべての製品に25%の関税を課す意向を示しています。
打撃を受けそうなのが日系の自動車メーカー。カナダにはトヨタ自動車とホンダの工場があります。トヨタは現地で52万台、ホンダは37万台を生産しています。
関税が課されると、販売戦略には大きな影響が出ると見られています。
海外展開する日本の製造業について解説します。

日本政府の交渉力が試される局面に
2024年10月時点のカナダにおける日系企業の支店や現地法人などの拠点数は982。
ホンダは2024年4月にカナダにEVと電池工場を新設すると発表。過去最大規模の150億カナダドルを投じる計画です。トヨタは2019年からカナダの2工場に14億カナダドルを投資し、新型RAV4などの生産に備えるとしていました。
2社にとってカナダは北米向けの自動車を生産する重要な拠点。そのため、カナダに集まる日系企業も自動車関連が多くを占めています。
カナダはアメリカに輸出をする際、一定の条件を満たせば関税がかからないというメリットがありました。また、EV製造に必要なリチウム、黒鉛などの鉱物が豊富だったことも背景にあります。
トランプ氏の大統領就任により、非確実性が高まったと言えるでしょう。
ここでのポイントは、短期的な政策に右往左往せず、アメリカ政府の根にある指針に目を向けることが重要だということ。もともとアメリカでは生産回帰を求める動きが強くなっていました。日本企業も脱炭素や半導体などの重要な分野を中心として、中長期的に生産体制をアメリカに移すことが視野に入ってくるかもしれません。
一方、日本とアメリカの関係を維持することも重要。日本政府が何らかの働きかけを行い、日系企業に譲歩を迫る交渉には期待できるでしょう。
2022年度の製造業は2割近い増収
日本の製造会社における海外展開は加速しています。
経済産業省の「海外事業活動基本調査」によると、2022年度末における現地法人数は2万4415社で、そのうち製造業は1万433社。全体の42.7%を占めています。
製造業の海外生産比率は27.1%で、前年度比1.3ポイント上昇。輸送機械(48.9%)、非鉄金属(22.2%)などが上昇しました。
製造業における研究開発費は1兆1657億円。前年度比28.4%も増加しました。1社当たり7.5億円を投じている計算で、前年度比32.4%増えています。電気機械、化学、輸送機械の増加が顕著。コロナ禍の停滞から生産活動が戻り、活発に投資を行っている様子がわかります。
現地法人のエリアはアジアが圧倒的。全体の67.8%を占めています。その中でも中国は主要なエリアの一つですが、比率は28.3%で、2021年度比で0.5ポイント減少しました。
中国は不動産不況に見舞われており、景気の冷え込みが鮮明になっています。今後も縮小が続く可能性があります。
一方、ベトナムやタイ、インドネシアなどのASEAN10 は29.7%。0.3ポイント増加しています。
売上状況も良好。製造業の売上は162.1兆円。前年度比16.2%の増加でした。業種別では輸送機械が20.5%増の79.8兆円と好調。自動車は半導体不足で生産・販売活動が滞りました。2022年度は反動増となっています。
電気機械も18.9%増の8.4兆円と堅調でした。

海外に進出するメリットとデメリット
日本企業が海外に進出するメリットはどこにあるのでしょうか。
売上面では販路の拡大。コスト面では原材料費の削減。リソース面では人材確保。この3つが柱となるでしょう。その他、経済特区における法人税の減税、優遇措置が受けられることや、ローカライズと呼ばれる文化・商習慣を吸収することによる別事業・新事業の展開、競争力の磨き込みなどが挙げられます。
特に国内では人口減少によるマーケットの縮小が顕著。一方、アジアやアフリカは人口が増加しており、中間層にも厚みがついています。上の調査でも明らかなように、特に日本はアジア圏には進出しやすく、ビジネスチャンスと捉えている会社は多くあります。
ITなどの人材確保においても大きなメリットになります。製造業でもオフショア開発が盛んになっていますが、ベトナムやインドなどのIT人材が豊富な国は大きな魅力を持っています。
一方、第2次トランプ政権で顕在化した政治的なリスクや文化・商習慣の違いによる課題の表出、雇用の維持の難しさなどがデメリットになります。
最近ではM&Aによって現地に進出する企業が増えています。
カネカは2024年12月にイスラエルの医療機器メーカーを買収しました。くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤の破損を予防する技術を持っており、製品ポートフォリオの拡充、エリアの拡大を狙いました。
三菱電機は2024年12月にアイルランドの空調工事・保守会社を買収しています。三菱電機は総合電機メーカーですが、ヨーロッパのデータセンター向け空調機器の需要が旺盛になると見ています。今回の買収により、空調冷熱設備工事、運用・保守サービスを獲得したほか、現地の顧客ネットワークを獲得しました。
世界に羽ばたく日系企業
中小企業でも海外で活躍している会社は少なくありません。
ジャパニーズワインを製造するサンマモルワイナリーは、「下北ワイン」の名で知られており、青森県でワインを生産しています。同社は青森県産のリンゴの販売が好調だった台湾に進出し、アップルワインの製造に着手。その後、ぶどうで作ったワインが海外で注目されるようになり、アメリカへの輸出を計画しました。2017年にハワイに現地法人を立ち上げ、高級ワインを世界に向けて販売しています。
オーダーメードのトレッドミル(ランニングマシン)や自動ネジ供給機の国内トップメーカー、大武・ルート工業は、2019年2月にアメリカ・ニュージャージー州で現地法人を設立しました。この会社は医療用、リハビリ用のトレッドミルに強みを持っていたほか、詰まりづらいねじ供給機の評価が高く、一定の海外比率がありました。
現地の市場動向や商品の評価、競合の価格情報などを入手し、事業計画書を作成して販売代理店契約を進めるなど、戦略的に海外展開を進めました。
海外展開には高い将来性があります。今後、事業を大きくするには欠かせないものとなるでしょう。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。