外国人労働者の受け入れで日本はどう変化する?外国人労働者受け入れの成功事例も紹介
外国人労働者の受け入れで日本はどう変化する?外国人労働者受け入れの成功事例も紹介
サービス業界の人手不足は深刻
厚生労働者が調査した2022年10月末時点での外国人労働者数は、前年比5.5%増(9万5,000人増)の180万人となりました。届出が義務化された2007年以降、過去最高を記録しました。外国人を雇用する事業所数は29万か所で、前年比4.8%(1万3,000)増加しています。
外国人労働者は国内雇用者数全体の3%程度を占めるまでになりました。
日本は少子高齢化による労働人口の減少が見込まれており、今後は50万人規模で縮小すると見られています。宿泊、飲食、介護、輸送、建設業界など、様々な業界ですでに人手不足が深刻化しています。外国人労働者の受け入れは、それを解決する有効な手段の一つと目されています。
外国人労働者をどのようにして受け入れるのか。現状の制度や課題、何がハードルになっているのかを整理して解説します。
外国人労働者の受け入れにおいて抱えている課題と解決に向けた動き
※厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ」より
産業別に外国人労働者数を見ると、製造業が全体の26.6%を占めてトップとなっています。ただし、伸び率が高いのは医療・福祉。対前年増加率では28.6%となりました。
介護系人材の不足は深刻。厚生労働省は介護現場で働く外国人労働者のルールの見直しを検討しています。新たな有識者会議が開かれたのが、2023年7月。介護現場を支える人材の確保と外国人が幅広く活動できる環境整備などを目的とし、技能実習と特定技能、EPA(経済連携協定)の規制緩和を論点とする方針を示しています。
現状、技能実習、特定技能、EPAは外国人の訪問サービスへの参入を認めていません。また、技能実習で外国人を受け入れる施設や事業所は、設立から3年以上経過していることが求められます。技能実習、EPAについては、外国人が就労開始から6か月以上経過しないと施設や事業所の人員配置基準の構成者としてカウントできないという制限もあります。
確かに、外国人一人での訪問サービスは意思疎通の面で難しい面もありますが、この規定で介護の現場が制限が受けることも事実です。こうした点を慎重に議論しながら、規制緩和に向けて動き始めました。
報告書を2023年内にまとめ、その内容をもとに実行フェーズに移行するとしています。
外国人労働者を取り巻く仕組みと制度
2019年に創設された外国人の在留資格である「特定技能」は、人手不足対策として導入されました。特定技能は種類が2つあります。就労期間が最長5年の1号と、資格更新回数に上限がなく長期就労が可能な2号です。2号は高度な技能を持つ外国人労働者が対象。家族を国内に呼ぶこともできます。
特定技能は外国人労働者全体の8.0%を占める14.6万人。しかし、2号は建設業と造船業のわずか10人に留まっているのが現状です。多くは5年しか滞在できない1号であり、しかも業界は建設や介護、農業、飲食製造などの12分野のみしか認められていません。
つまり、現状の日本においては、外国人同労者は一時的な人手不足の補充という位置づけが強く、中長期的な労働人口の確保という機能はほとんど果たせていません。
事業者の目線で見ると、外国人労働者はオペレーションを円滑に行ってくれるリソースとなりますが、日本の課題である将来的な労働力不足という課題に対しては不十分だと言えます。
出入国在留管理庁は2023年4月に外国人労働者等特別委員会において、特定技能2号の大幅な対象拡大を提案しました。しかし、与党内からは移民政策だなどという反対が根強く、受け入れ拡大に向けては慎重論が根強いのが現実です。
それでは、慎重論の主張はどのようなものなのでしょうか?
企業の生産性を上げることを最優先に
慎重派の主張は3つに集約することができます。
1.日本人の就労機会の喪失
2.労働市場の二重構造化
3.生産性向上の阻害
就職氷河期世代は非正規労働で収入が低く、不安定な生活を送っていると言われています。国内の労働者を最適化する前に、外国人労働者を大量に受け入れると、国内労働者の就業機会を奪うことになりかねません。
日本人が就きたがらない職種を外国人で補充した場合、日本人と外国人の労働市場が形成され、外国人が多い労働市場で劣悪な労働条件が固定化するなど、労働市場の分断が起こる可能性もあります。外国人労働者に仕事を押し付けることで、国際批判や差別問題が発生する可能性もあります。
本来はデジタル化やロボット化によって労働者一人当たりの生産性を高めることができたとしても、外国人労働者を単純に受け入れることにより、設備投資をせずに目先のオペレーションに経営資源を集中してしまうことも懸念されています。特に日本の中小企業はデジタル化が進んでおらず、外国人労働者が多く働く建設、製造、飲食、介護は特に後れを取っていると言われています。
産業が成長するポテンシャルを持っているにも関わらず、労働者の受け入れでその芽を摘み取ってしまうという考え方です。
ドイツの移民政策は失敗だったのか?
外国人受け入れの積極派と慎重派の意見は、どちらも首肯できるものであり、抽象的な議論を続けていてもゴールは見えません。
参考になるのが、外国での事例です。
最もよく知られているのがドイツでしょう。2015年にメルケル元首相が移民に門戸を開き、100万人以上を受け入れたと言われています。2016年の国別難民申請者数はドイツが72万人、フランスが7万人、イギリスが3万人でした。ドイツはヨーロッパの国々の中でも桁違いの移民を受け入れたのです。
しかし、この移民政策は政治的な失策との見方が大半です。これは、移民反対派と賛成派の分断が鮮明になったことに起因しています。
転機となったのは、2015年12月31日。この日にケルンの大聖堂前広場などでアラブ人・アフリカ人を主体とした集団暴行事件が発生しました。国民感情を逆なでするような行動に対して、過激な保守派の活動が先鋭化するようになります。
2016年ごろから、移民の収容所が放火される事件が相次ぐようになりました。やがて移民や難民の人びとの一部は、路上などでの厳しい生活を強いられるようになります。
移民の受け入れによって、労働力不足が解消したのかというと、そうとも言い切れません。ドイツは人手不足が深刻な介護職でも、ドイツ語によるコミュニケーション能力を求めるなど、外国人労働者にとっては厳しい条件を求めています。例え賃金などの条件が良くても、基準が厳しいのであれば英語圏の北米やオーストラリアの方が働きやすいでしょう。
これは日本でも同様のことが起こっています。
また、ドイツでは家賃の安い都市部の住宅が移民に取られてしまい、ドイツ人が住みづらくなりました。移民の受け入れは、地方の過疎化を解消するとの期待もありましたが、結局は誰しもが都市部に住みたがり、住宅の取り合いが起こってしまったのです。
外国人労働者の受け入れに成功した国もあります。シンガポールです。国土面積、人口、天然資源にも恵まれない小国が、あれほど発展したのは外国人労働者を積極的に呼び込んだからに他なりません。
特に1980年代後半から1990年代の高度経済成長期には労働力が不足しており、外国人受け入れ策を積極化。優秀な研究者や技術者、投資家をリクルートし、成長に寄与する人材を確保しました。2000年に入ると、外国企業で働く管理職や専門資格保持者、投資家は簡単に査証が取れ、永住権が取りやすい国へと変貌しました。
初代首相のリー・クワンユーは2000年代初頭から、日本が景気低迷から抜け出せないのは、外国人労働者を受け入れないためだなどと発言しています。
ダイバーシティを推進するカシオ計算機
次に事業者単位での成功事例を見てみましょう。
外国人労働者の受け入れで成功した企業の一つがカシオ計算機。2,768名のうち、29名が外国人労働者です。ダイバーシティを推進するため、積極的に採用しました。特にカシオのような大企業の場合、多様性という面で積極採用するケースが目立ちます。
担当業務を特定して採用する「職種別採用」を導入。これによって専門性の高い優秀な学生を確保することができます。また、結果としてミスマッチによる早期離職やモチベーションの低下を防止でき、長く働ける環境を用意できると言います。
母国に帰りやすい仕組みを用意しているのも特徴です。「母国帰国休暇」を制度として創設し、入社3年経過後から3年に1度のペースで外国人社員に付与しています。
IT技術などの専門性の高い人材は、日本では不足すると見られています。企業は外国人労働者を短期的な労働力とみなすのではなく、組織をともに育てるという意識が必要です。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。