【自動車】脱炭素化で激しいシェア争いを繰り広げるEVに日本メーカーの勝機はあるか?
【自動車】脱炭素化で激しいシェア争いを繰り広げるEVに日本メーカーの勝機はあるか?
脱炭素の主役である自動車業界
世界が脱炭素に向けて動き出しています。
日本は2030年の目標が2013年比排出量46%削減。アメリカは2005年比50~52%、ヨーロッパは1990年比55%、イギリスは1990年比68%以上、それぞれ削減する目標を掲げています。
産業革命後の世界は化石燃料に頼って成長してきたと言ってもよく、そこからの脱却は経済や社会の新たな地平を切り開くターニングポイントとなります。
脱炭素で産業構造が大きく変化すると言われているのが自動車業界。ガソリン車から電気自動車への転換が必要になりました。日本はこの分野で後れを取っています。
ノルウェーの電気自動車普及率は9割
まずは電気自動車の現在の潮流から見てみましょう。
世界での電気自動車の普及率は14%。普及率が高いのはノルウェーで88%となっています。
ノルウェーは、電気自動車の高速道路無料や市営駐車場の無料、税金の一部免除など、数々の優遇制度を導入しました。また、水が豊富で低コストの水力発電の稼働が高く、電気代が安いという特徴があります。ノルウェーの普及率が高いのは、電気自動車に乗るメリットが多いことに起因しています。
ヨーロッパ全体の普及率は21%、アメリカが7.7%、日本が3%ほどです。中国では29%まで進んでいます。
この中国の普及率の高さの背景にあるのが中国の電気自動車メーカーBYD。安価な製品を次々と打ち出して高シェアを獲得しました。
2023年上半期において、販売台数が最も多かったのがBYD。119万台を販売しています。電気自動車業界の先駆者テスラは88万台でした。
圧倒的な差をつけています。
なお、トヨタ自動車は7万台で、この領域においては全く存在感がありません。
技術力とアイデアの両面で製品力を高める中国メーカー
BYDはもともとスマートフォンなどのバッテリーを開発していました。やがて車載用の電池を開発するようになり、自動車そのものの開発を行うようになりました。
潮目が大きく変わったのが、LFPバッテリーのみを使った低価格の電気自動車を販売したこと。2021年の出来事でした。
LFPはエネルギー密度が低く、国内のメーカーは搭載に後ろ向きでした。しかし、BYDは車への搭載方法を従来のやり方とは変化させることで、エネルギー密度の向上を図ります。
技術革新により、166万円という超低価格の電気自動車を販売しました。これが中国の都市部に住む人々に受け入れられたのです。
BYDは車のポジションを明確に切り分けています。都市部の人びとが日常の足として使うのは電気自動車。長距離移動を伴う旅行に出かける際はプラグインハイブリッド車としているのです。
日本の自動車メーカーは、長距離でも快適に移動できる性能の高さを追求しています。それが開発や製品化に後れを取る一因になっているのです。BYDは販売方法でそれをカバーしました。
BYDの普及スピードの速さには、ビジネスモデルの大転換があったのです。
BYDの2023年度上半期の売上高は、前年同期間の1.7倍となる2,601億元。日本円でおよそ5兆3,151億円です。営業利益率が5%程度あります。
日本のメーカーの電気自動車はほとんどが不採算だと言われていますが、BYDは安価な電気自動車を販売しながらも、着実に利益を出しています。
サイバートラックはゲームチェンジャーになれるか?
他社の追随を許さなかったテスラにも焦りが見られます。
この会社はもともと、広告費を一切かけないことや高単価で販売すること、販売代理店を通さないことにより、高収益体質を維持していました。
更に自動車のモデルを絞り込むことで、共通パーツを使うことができ、コストの圧縮もできました。
テスラもビジネスモデルによって高収益な仕組みを作ったのです。
しかし、テスラの営業利益率は下がりました。2022年は営業利益率が17%を超えていましたが、2023年に入って10%を割り込むようになったのです。
原因は値下げ。
テスラは2023年に複数回の大幅な値下げを行いました。中国、ヨーロッパ、日本でも実施しています。
BYDが低価格で高品質の製品を市場投入したため、テスラがシェアを奪われることに危機感を抱いているのです。
テスラはサイバートラックという、近未来型の電気自動車の販売を開始しました。4WDで走破性が高く、荷物の積載量も多いモデルです。
これは明らかにランドクルーザーなどのSUVの市場を奪いに行ったもの。電気自動車のシェア獲得から、ガソリン車のシェアを奪いに向かったと考えられます。
これはつまり、テスラのこれまでのビジネスモデルが通じなくなったため、自動車に機能性を持たせて勝負を仕掛けたことになります。テスラは転換点を迎えているのです。
日本の電気自動車は?
トヨタ自動車は2026年までに、電気自動車を世界で年間150万台販売する目標を掲げました。新たに10モデルを新規投入するとしています。中国で2車種、アメリカでSUVの現地生産も開始する計画です。
トヨタの現在の電気自動車の販売台数が半年で7万台ほどであることを考えると、野心的な目標であることがわかります。
ただし、経営戦略の根底にあるのは全方位型で、ガソリンからハイブリッド、プラグインハイブリッド、燃料電池車まで幅広く取り揃えていることが特徴です。
足元では、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車が好調。特に中国エリアでの健闘が目立ちます。
テスラを見ると分かる通り、一気に電気自動車に転換した場合、価格競争に巻き込まれて利益が出なくなります。トヨタには着実に台数を確保するという巧みな戦略が隠れているのです。
すなわち、意図的に電気自動車への本格参入を遅らせていると見ることができるのです。
トヨタは明言していませんが、電気自動車の主戦場となる中国において普及を促し、普及率が一定の基準を超えたタイミングを見計らって高性能の電気自動車を販売。定着させるという戦略をとる可能性があります。
日産はトヨタに先駆けて電気自動車の量産体制を本格化させています。2026年度におけるヨーロッパでの電気自動車販売比率を従来の75%から98%に改めました。
それと同時に2030年までに投入する電気自動車のモデル数を19車種から27車種に増やす方針を発表しています。
日産は普及が進むヨーロッパにいち早くアジャストしようとしています。ポイントは利益率を高められるかどうか。日産は業績回復が鮮明になってきましたが、一時は不振が目立ちました。再び失速の兆しを見せると、株主の圧力で経営方針の見直しを迫られることがあります。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。