【国内食品】製油業界の最新動向と主なM&Aを紹介
【国内食品】製油業界の最新動向と主なM&Aを紹介
大手企業の寡占化が進む典型的な業界の一つ
製油業界は大手企業が大部分のシェアを握る業界です。日清オイリオ、J-オイルミルズ、不二製油のトップ3メーカーが台頭しており、植物油においては日清オイリオとJ-オイルミルズが全体の8割のシェアを握っていると言われています。
寡占化が進んだ背景には、ビジネスモデルや業界特性が深く関係しています。国内消費への依存度が高い製油企業は、M&Aを活用して海外への進出や事業の幅を広げています。
製油業界の特徴や最新動向、M&Aの事例を紹介します。
海外製品との差別化が図れない植物油
国内で消費される植物油に菜種油、パーム油、大豆油があります。原材料はほぼすべて輸入に依存しています。そのため、港湾部に大規模な工場を建設し、精製・出荷しています。
業界の特徴として、製造した植物油を輸出しづらいというものがあります。これは、商品の特性上、差別化を図りにくいことが関係しています。植物油はその国の文化にローカライズされた商品が大量に生産されており、海外の消費者はわざわざ日本の製品を手に取る理由がありません。
価格による差別化が図れれば別ですが、原料を輸入に頼り、製造コストや賃金水準が他の国と比べて大きな差がつけられるわけでもありません。価格競争力もつけられないのです。
そのため、国内消費向けの製品を大量生産することでコストを下げ、利益を得てきました。
大規模な業界再編が起こったのは2000年代前半です。2002年に日清製油、リノール油脂、ニッコー製油の3社が経営統合し、2004年に合併して日清オイリオグループが誕生しました。
同じく2002年にはホーネンコーポレーションと味の素製油が経営統合。持株会社の豊年味の素製油が誕生しました。翌年に吉原製油が傘下に入り、各事業会社を吸収統合したJ-オイルミルズが発足しています。
再編が起こったのは、生産効率をできる限り上げようとしたためです。日清オイリオとJ-オイルミルズは2022年11月に搾油合弁会社設立で合意しました。日本の人口減少、少子高齢化で食糧需要が減少し、製油産業は更なる効率化に迫られていることを如実に物語る出来事でした。
売上高では不二製油が業界トップに
日清オイリオ、不二製油、J-オートミルズ3社の売上高は、日清オイリオがトップを走る体制が続いていました。しかし、2020年3月期に不二製油がトップの座を奪取します。
※各社決算短信より
不二製油の仕掛けた一手が、アメリカの業務用チョコレート製造企業Blommer Chocolate Companyの買収。848億円で完全子会社化しました。
Blommer社は2018年5月期の売上高は9億700万ドル(120円換算で1,088億4,000万円)の会社。およそ1,000億円の売上高の押し上げ効果がありました。
不二製油は2017年2月に発表した中期経営計画「Towards a Further Leap 2020」にて、成長戦略分野としてチョコレート用油脂とチョコレート、製菓・製パンを挙げていました。
特に油脂グループとしてのシナジー効果が高いチョコレートを注力領域としており、世界の業務用チョコレートの販売数量で4位からトップ3に入ることを目標に掲げていました。
製油にこだわり、コスト削減を行っているだけでは、企業の成長はありません。主力事業と相乗効果の高いチョコレート事業の大型買収は、製油業界の行く末を占うものとして注目を集めています。
植物油以外に活路を求める不二製油
ただし、足元では更なる効率化が求められています。資源高や原材料高、円安が進行しているだけでなく、輸入自由化で海外から安価なオリーブオイルなどが市場に流通する可能性が高いためです。
製油会社はM&Aによって、経営資源を注力事業に集中する動きが加速しています。
【J-オイルミルズが辻製油の全株を売却】
J-オイルミルズは2022年3月に辻製油の保有株を辻製油に譲渡しました。J-オイルミルズは2009年に辻製油と業務提携契約を締結し、20.0%の株式を保有して持分法適用関連会社化していました。提携関係は継続し、売却資金を得るという内容です。J-オイルミルズは成長領域への投資を加速するとしています。
【不二製油がデザート販売のトーラクの全株を売却】
2020年5月不二製油は「神戸プリン」などの商品を展開するトーラクの株式を丸大食品に売却しました。売却前のトーラクは減収が続いており、営業利益率も低下していました。チョコレート事業に集中する不二製油は、収益性が更に悪化する前に切り離しました。
不二製油は出資をして注力領域を広げようともしています。
【不二製油が製菓・製パンのECサイト運営cottaに出資】
不二製油は2022年5月にcottaの株式556,000(5.18%)を取得しました。cottaは製菓・製パン材料のECサイトを運用している会社。レシピなどの情報を発信して製菓・製パン市場の活性化を図っているほか、インフルエンサーを用いて市場の開拓、コミュニティの構築を行っています。
ECサイト、運営だけを行うビジネスモデルは限界に達しています。競合サイトとの差別化を図りづらいためです。cottaは市場を拡大しようと意欲的に取り組んでいる会社で、不二製油のチョコレート、製パン領域に経営資源を集中するという方針と合致します。
会社の規模が大きい製油企業は、ベンチャー企業への出資には後ろ向きでした。大規模なM&Aで大変革を起こしており、ベンチャー出資の成功体験が薄いことが背景にあると考えられます。その点、不二製油は積極的に投資を行っており、先進的な取り組みとして注目されます。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。