集客に苦戦する居酒屋企業がM&Aで再起を図るべき理由
集客に苦戦する居酒屋企業がM&Aで再起を図るべき理由
コロナ禍で飲食2つ目の大型倒産となったダイナミクス
居酒屋「鳥二郎」を運営するダイナミクスが、2023年2月27日に東京地裁に自己破産申請を行い、破産手続きの開始決定を受けました。負債総額は106億円7,800万円。
2021年に「竹取御殿」などの居酒屋を運営していたアンドモワが80億円の負債を抱えて破産しました。ダイナミクスは飲食企業で2つ目の大型倒産です。
日本フードサービス協会によると、居酒屋店の2023年1月の売上高は2019年同月比54.1%。未だ6割の水準にも届いていません。時短協力金もなくなり、経営は苦しくなる一方です。
宴会需要の消失でコロナ前には戻らない
コロナ禍で弱体化した業態の一つが居酒屋でした。コロナは居酒屋店を経営する上で重要な要素2つを破壊しました。1つは宴会需要を消失させたこと。もう1つは店舗オーナーの気力を奪ったことです。
2023年に入り、世間はようやく日常を取り戻しつつあります。3月13日からはマスク着用が個人の判断に委ねられ、それ以降は生活様式も一段と変化するでしょう。
しかし、居酒屋には客足が戻りません。特に打撃が大きい店舗が、繁華街型の席数の多いタイプです。小型の路面店は無目的型の来店客がいますが、宴会客を中心に目的型来店を促していた店舗は、従来の顧客を呼び込むことができません。
そうかといって、ビルの2階以上や地下にある店舗は目立ちにくく、無目的型の顧客を店舗に誘導することができません。宴会需要が完全回復する見込みはなく、中長期的に集客には苦戦するでしょう。
アフターコロナの備えができない会社が大半
時短協力金は店舗を生き残らせることができましたが、オーナーの気力を削ぐという劇薬でもありました。
ワタミは居酒屋の一部を焼肉店に転換しました。これは消費者の外食動向が変化したためで、会社の仲間との飲み会はなくなり、家族で食事する機会が増えたからです。新たな生活様式に合わせようとしました。
ワタミは焼肉店に転換するための費用として、日本政策投資銀行から120億円を調達しています。信用力や資本力のある会社は大胆な構造改革に乗り出すことができましたが、飲食店の多くは中小零細企業であり、大金を借り入れて大転換を進めるほどの力がありません。
多くのオーナーは新常態に向けた備えをすることができず、時短協力金を得て我慢強く需要が回復するのを待ちました。このタイミングで、多くの経営者は勘が鈍ったと言われています。コロナという脅威がありながらも、資金面では保証されていたからです。
皮肉なことに、コロナ禍は居酒屋オーナーにとって居心地の良いものとなりました。
2022年3月以降は協力金や助成金がなくなり、本業のみで勝負をしなければなりません。客足が戻らず、経営が悪化する会社も少なくないでしょう。
やきとり大吉の買収で1,000店舗を超える巨大チェーンに成長した鳥貴族
コロナ禍のM&Aで世間を驚かせたのが、鳥貴族ホールディングスによるダイキチシステムの買収。ダイキチシステムは小規模の居酒屋「やきとり大吉」を展開している会社です。買収当時、ダイキチシステムは500店舗を展開しており、鳥貴族は1,000店舗を超える巨大居酒屋チェーンに成長しました。
M&Aを行う前にダイキチシステムの株主だったのが、サントリーホールディングスでした。サントリーは鳥貴族の主要な取引先。このM&Aは関係を強化する役割を果たします。
鳥貴族にとっても、このM&Aは魅力的。ダイキチシステムの店舗は地方都市の路面店が中心で、繁華街中心の鳥貴族と顧客の食い合いが起こりません。しかも、「やきとり大吉」はフランチャイズが中心で、鳥貴族はフランチャイズオーナーとのネットワークを構築できます。
ダイキチシステムは2021年12月期に6,000万円の純利益を出しています。赤字には陥っていません。
しかし、今後もサントリーが親会社であり続け、本社の社員をダイキチシステムの社長として送り込んで中長期的に業績を伸ばせる保証はありません。
鳥貴族のような居酒屋のプロフェッショナルであり、良きライバルからノウハウを得た方が経営力は強まるでしょう。
買収後に営業黒字化を果たした鳥貴族
鳥貴族はダイキチシステムを買収した後の2023年7月期第1四半期において、6,400万円の営業利益を出しました。時短協力金や助成金の力を借りずに、利益を出すことができたのです。なお、ワタミの居酒屋事業や、「はなの舞」を運営するチムニー、「テング酒場」のテンアライドなど、居酒屋企業の大半は営業利益を出すことができていません。
鳥貴族は、居酒屋同士のM&Aであっても会社が安定的に成長することを見せつけました。
多くの居酒屋企業のオーナーが、今後の経営を不安視し、集客に苦戦しながら悩んでいます。場合によっては廃業を考える人も出てくるかもしれません。
M&Aという選択であれば、ダイキチシステムのように共に成長できるパートナーを見つけられる可能性があります。店舗の出店場所や出店タイプなど、条件が良ければ直近の業績が赤字であったとしても、会社の買い手は見つかります。従業員の雇用や取引先との関係も継続することができ、周囲に迷惑をかけることもありません。
廃業を選ぶ前に、M&Aという建設的な方法を検討するのも一つです。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。