【製鉄】脱炭素化でダイナミックにシェア拡大を目指す優良業界
【製鉄】脱炭素化でダイナミックにシェア拡大を目指す優良業界
電気自動車よりも製鉄の脱炭素化の方が現実的?
脱炭素化がビジネスの重要なテーマになりました。
自動車はガソリンエンジンから電気モーターへの転換を急いでいます。しかし、航続距離が短く充電するスタンドの数も足りていません。充電に時間もかかるため、思うように普及していないのが現実です。
政府は2030年にガソリン車の販売を禁止すると表明しましたが、それが実現できるのかは疑問符がつきます。
自動車が電気化すれば大量の電力を必要とするため、結局は火力発電所の稼働率が上がるだけなのではないか?との声もあります。自動車業界の脱炭素化は複雑な要素が絡み合い、単純には進みません。
その一方で、現状で大量の二酸化炭素を排出し、それを大幅に抑制できるポテンシャルを持つ業界があります。製鉄業界です。日本は技術力が高く、将来有望な分野でもあります。
なぜ投資家はESG投資に注目しているのか?
様々な企業が脱炭素化への取り組みを加速させている背景の一つに、投資家の理解があります。投資家がなぜESG投資に対して好意的なのかを把握しなければ、脱炭素化を理解することはできません。
気候変動に端を発する脱炭素化に否定する理由はなく、CO2を削減しようとの意識は世界的に高まっています。消費者の環境に配慮した商品への選好度も上がっており、商品開発やプロモーションに生かしています。
ただし、環境に配慮した商品やサービスの推進は、一部の人にとっては頭の痛い問題でもあります。投資家もその一人。企業がCO2を削減する取り組みのために設備投資や研究開発費を行えば、利益が削られて配当が減る可能性があるためです。
しかし、機関投資家を中心としてESG投資の動きは活発化しています。世界最大の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、ESGに関連する日本株の指数であるFTSE Blossom Japan Indexなどの総合指数に4兆円を投資。外国株を合わせると6兆円近く組み入れています。ESGに関連するテーマ指数にも6兆円以上を投じています。
これはビジネスを主導する立場でもある投資家が、企業に対して指針を示すという役割を担っているという面も確かにあります。しかし、投資家は基本的にリターンを得ることを生業としており、きれいごとだけで成立するわけではありません。実利が伴わなければならないのです。
実はリターンが得られる目算はあります。
脱炭素などの分野で新技術を確立し、マーケットリーダーになることができれば、その会社は圧倒的な収益力を得ることができます。現在はその過渡期であり、将来成長するタネに今のうちから資金を入れておこうと考えているのです。
将来的に花開きそうな業界の一つが製鉄です。
政府が開発資金として4,500億円もの拠出を決めた水素還元製鉄とは?
世界の製鉄業界からのCO2排出量は34億6,100万トン(2020年)。CO2の総排出量は314億トンで、実に10%ほどを製鉄業界が占めていることになります。
鉄はコークスと鉄鉱石や石灰石を高炉に投入し、銑鉄を作るという工程を踏みます。コークスは高い熱を発する便利な物質で、この熱が固い鉄鉱石を溶かします。しかし、この工程でコークスの「C」と鉄鉱石の「O」が結びついて大量のCO2を排出するのです。
製鉄プロセスで発生するCO2のおよそ8割が、コークスと鉄鉱石を溶かす工程で発生しています。
日本製鉄は、水素でコークスの役割を代替させる技術を開発しています。水素の「H」と鉄鉱石の「O」が結びつけば「H2O」(水)が排出されます。極めてクリーンがプロセスで、鉄を生み出すことができるのです。
ただし、日本製鉄はこの技術の開発に5兆円の設備投資が必要だと言います。資金調達の問題を何とかクリアしなければなりません。
資金の有力な出し手の一つが、日本政府。経済産業省は2023年9月に水素還元製鉄への開発支援を4,500億円に倍増すると発表しました。2040年までの実用化を目指すとしています。
経済産業省は、2兆円の研究開発基金「グリーンイノベーション基金」といった脱炭素化を後押しする資金源を持っています。それらをどのように活用するのかについて、様々な業界から注目が集まっていました。水素還元製鉄への拠出額は大きく、その期待感の大きさをうかがい知ることができます。
日本製鉄は2023年3月にカナダのElk Valley Resourcesに追加出資を行い、合計出資金額は11億5000万カナダドル(約1100億円)となりました。この会社は原料炭の採掘などを行っています。原料の質を高めることにより、高炉水素還元プロセスでCO2を削減しつつ高品質な鉄を生産する体制を整えました。
電炉化を進めるJFEスチール
脱炭素化に向けて電炉化を進めているのがJFEホールディングス。岡山県にある高炉1基を2027年に大型電炉に切り替える計画を発表しました。高炉を電炉に転換するのは、日本で初めてです。
電炉は鉄スクラップを溶かして鋼を生産します。高炉は品質が高い鋼の生産に適していますが、電炉は不純物が混じることから質が低くなるという課題があります。そのため、主力となる自動車用の鋼板やモーター用の電磁鋼板などに使うことができません。価格が安い建築やインフラなどの建設用鋼材が中心となります。
ただし、日本製鉄はすでに電炉で電磁鋼板を作る技術は開発済み。JFEは後れを取りながらも、脱炭素化に向けて本格的な技術開発へと乗り出しました。
JFEは2023年9月に総額2,100億円の資金調達を発表しました。公募増資と新株予約権付社債の発行による調達です。調達する資金のうち950億円を電磁鋼板の技術開発に投じるとしています。
製鉄業界は脱炭素化を中心とした技術開発が進み、ダイナミックな変革が起きている分野です。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。