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産業廃棄物・環境 2023.1.18 配信

脱炭素化社会実現に向けた水素ビジネスの基礎知識と最前線

脱炭素化社会実現に向けた水素ビジネスの基礎知識と最前線

気候変動対策の切り札とも言える水素ビジネス


パリ協定において、世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて2℃低くし、1.5℃に抑える努力をするという目標が掲げられています。

日本は2030年に2013年度比で温室効果ガスを46%削減することを目標としました。アメリカは50~52%、EUが55%、イギリスが68%削減する目標を立てており、脱炭素化に向けた各国の取り組みが始まりました。

温室効果ガスの削減において、効果的な方法の一つが化石燃料に頼らない社会の実現です。産業革命以降、人間社会は石炭や石油、天然ガスなどの資源に頼ってきました。21世紀に入り、相次ぐ自然災害や気候変動でその限界が露呈しました。代替エネルギーの早期技術開発と実用化が求められています。

 

期待の高いエネルギーが水素。燃焼させてもCO2を排出しません。水素ビジネスが盛り上がりつつありますが、具体的なイメージがつかみづらい領域でもあります。この記事では、水素ビジネスの基礎知識と最前線を紹介します。

サプライチェーンの構築が水素社会の鍵に


水素を社会で活用するためには、製造、貯蔵、輸送を含めた一貫した取り組みが不可欠です。そのため、水素ビジネスはサービスや製品がどこに位置付けられており、サプライチェーンをどのように構築するのかが一番のポイントになります。

※環境省「水素社会実現を目指す官公庁の取組」より

 

すでに具体的な取り組みは始まっています。代表的なプロジェクトが、トヨタ自動車を実施代表者とする京浜臨海部での燃料電池フォークリフトの導入。横浜市と川崎市で行ったもので、CO2フリーの水素製造から貯蔵、輸送、利用を含めた水素サプライチェーンを構築しました。

 

風力発電所で電気を作り、水電解装置によって水素を生み出します。それを貯蔵して圧縮。水素充填車に積んで輸送し、フォークリフトの燃料電池に活用します。フォークリフトは青果市場や冷蔵倉庫、物流倉庫などで仕事をしました。

 

大林組は福島県の太陽光発電所を利用した水素製造施設から出荷した水素を、圧縮水素トレーラーで輸送し、簡易充填センターに供給。それを燃料電池車に提供しました。この仕組みは現在も稼働しており、町のインフラとして利用する計画です。

 

水素ビジネスは極めて規模の大きなものであることがわかります。

水素ビジネスを実施している主なプレイヤーは?


大手企業を中心として、水素を活用したプロジェクトがスタートしています。

 

【水素の精製】

〇Jパワー:不純物を多く含む石炭、褐炭をガス化して水素を製造。製造したオーストラリアから日本に水素を輸送する実験に成功。Jパワーは褐炭の水素精製を担当しており、実用化を目指しています。

 

〇日揮:オーストラリアで太陽光由来の電力で電気分解装置から水素を製造。現地で販売し、水素コミュニティ構築を計画。年間250~300トンの水素製造を予定しており、事業モデルの構築を進めています。

 

【水素の輸送】

〇川崎重工業:2030年に水素の輸送量を22万5,000トンにするという目標を掲げ、海上輸送・陸上輸送の両面から水素ビジネスを推進しています。水素はマイナス253℃にすると気体から液体に代わり、体積は800分の1になります。高い技術力が要求される輸送船やタンカーの開発を進めています。

 

【水素を使う】

〇日本製鉄:鉄を製造するには鉄鉱石に石炭を混ぜて高炉で溶かすプロセスを踏みます。その際、大量のCO2を発生させることで知られています。石炭を混ぜるのは、鉄鉱石から酸素を除去しなければならないため。効率的かつ安価な方法が石炭の使用でした。日本製鉄は水素を使って直接鉄に還元するプロセスを確立しようとしています。

 

〇IHI:水素を燃料とするガスタービンを開発し、すでに納入実績を持っています。ガスタービンは発電分野の要。今後は、安定的な燃焼やNOxガスの削減が求められます。

水素ビジネスのM&Aは?


水素ビジネスはサービスや商品として確立されているものが少なく、M&Aが活発に行われている領域とは言えません。ただし、広義のM&Aである第三者割当増資などは頻繁に行われています。技術開発を目指すスタートアップに大手企業が出資をしているのです。

 

2022年7月、日立製作所は、スウェーデンの新興企業H2グリーンスチールに出資しました。H2グリーンスチールは、水素の活用によって鉄鋼業界の脱炭素化を目指す会社。ボーデン市に化石燃焼を使用しない製鉄所の建設を計画しています。

2022年10月には、神戸製鋼がH2グリーンスチール向けの直接還元鉄プラントを受注したと発表しています。CO2を排出しない製鉄技術の確立は極めて難易度が高く、世界中の情報やノウハウ、技術が必要な分野。スウェーデンと日本の共同プロジェクトとも言えるでしょう。

H2グリーンスチールに出資をした日立製作所は、水素を生産するための電解プラント向けのインフラ整備に関するノウハウを提供。第三者割当増資の実施により、資金だけでなく技術の提供も受けられるというメリットがあります。

 

2022年10月にはアメリカン航空がUniversal Hydrogenに出資しました。Universal Hydrogenは水素で駆動するパワートレインの開発を行っています。同社は2025年までに水素バリューチェーンを構築し、水素で飛行する航空機の運航を目指しています。

この会社には2021年10月に三菱HCキャピタルも出資をしています。航空業界の環境負荷の低減も必要不可欠な分野。その一方で、安全性は欠かせません。難易度の高いチャレンジを行っています。

 

2022年2月、三井物産はメタンからクリーン水素を製造するカナダのスタートアップ、エコナ・パワーに出資しました。エコナ・パワーは水素と個体炭素に分離させるメタン熱分解システムを開発。炭素が個体となって生成されるため、二酸化炭素の処理が不要という技術です。

今回の出資総額は71億8,900万円と巨額。実用化やビジネスモデルの構築には、労力や時間がかかることを示しています。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。