廃業を選択する経営者の背景には何が潜んでいるのか?
廃業を選択する経営者の背景には何が潜んでいるのか?
2023年に入って1割増加した休廃業件数
帝国データバンクによると、個人事業主を含む2023年の休業・廃業・解散件数は前年比10%増の5万9,105件でした。企業全体の4%が市場から退出したことになります。
休廃業した会社の雇用は少なくとも累計7万8,053人に及んでいます。8万人近い人が転職や退職を迫られており、雇用環境にも大きな影響を与えています。消失した売上高は合計2兆8,424億円。経済に与えるインパクトも少なくありません。
財務や事業環境が悪化したことも要因になりますが、経営者の意識が事業承継に向いていないという最大の問題点も浮かび上がってきます。
休廃業した事業者の半分は黒字
※帝国データバンク「全国企業「休廃業・解散」動向調査(2023)」より
帝国バンクの調査では、コロナ禍の真っ只中だった2020年から2022年までの廃業件数は減少していました。このとき、政府や自治体は持続化給付金や時短協力金で事業者を守る姿勢を強く押し出しました。
また、実質無担保無利子のゼロゼロ融資を活用して事業を継続するよう呼びかけました。コロナ禍は商環境が激変する一大事でしたが、事業者は手厚く守られている時期でもありました。
2023年に入って新型コロナウイルスは終息に向かい、人々は日常を取り戻します。一部の事業者にとっては給付金などで保護されたぬるま湯状態から、激しい競争環境へと連れ戻されたことになります。
更に、資源高や原材料高などのインフレが急速に進行。人手不足による人件費高と円安も相まって事業環境は急速に悪化しました。
大手企業は価格転嫁することで稼ぐ力を高めましたが、交渉力や営業力が弱い中小企業は簡単に原価が上がった分を値上げで賄うことができません。
赤字によって廃業を選択した事業者の割合は、コロナ前の2019年よりも増加しています。経営難に陥って廃業を選択した経営者は少なくありません。
しかし、上の表を見ると分かる通り、2023年に廃業を選択した経営者のうち、51.9%は直前期が黒字だった事業者です。つまり、およそ半数は業績が悪化していないにも関わらず、自ら廃業を選択しているのです。
経営者の年齢は74歳がピーク
休廃業を選択した経営者の年齢が、5.5%で最も高かったのが74歳。平均年齢は70.9歳でした。経営者は高齢化が進行しており、事業承継がスムーズに進められずに廃業を選択するケースが多くなっています。死亡や病気によって事業が継続できず、図らずも廃業に追い込まれることもあります。
経営者の高齢化が進んでいること、廃業した事業者の半数以上が黒字であることを考えると、「なぜ経営者は早い段階で後継者探しをしないのだろうか」と疑問に思うかもしれません。
実は、経営者の多くが誰かに事業を引き継ぐ意志そのものががないことがわかっています。
日本政策金融公庫は、2023年11月20日に「経営者の引退と廃業に関するアンケート」の調査結果を公表しています。
調査対象は経営者の事情を理由に2020年から2023年に廃業した45歳以上の元経営者です。
それによると、「後継者を探すことなく事業をやめた」人は全体の95.9%にも上っています。更に探さなかった理由として、「そもそも誰かに継いでもらいたいと思っていなかった」という回答が55.0%にも上っているのです。
※日本政策金融公庫「経営者の引退と廃業に関するアンケート(調査結果)」より
その考えに至った背景について調査すると、「自分の趣味で始めた事業だから」という人が30.1%、「個人の免許・資格が必要な事業だから」が25.9%と、創業時に事業の内容が経営者本人と密接に結びついており、事業を承継するという考えに発展していないことがわかっています。
M&Aで事業を引き継ぐチャンスを見出せる
日本政策金融公庫の調査では、廃業において外部機関や専門家に相談したか尋ねたところ、「相談していない」という経営者が8割に上っていました。
もし、金融機関や税理士、会計士、商工会議所などに相談していた場合、事業の引継ぎを支援するためのアドバイスが得られた可能性があります。
しかし、廃業を選択する多くの経営者は、事業承継という考え方そのものがないため、相談せずに自ら廃業してしまうのです。
廃業時の困りごととして、「近隣の一般消費者に事業の継続を求められた」、「仕入先や外注先に事業の継続を求められた」、「従業員の再就職先が見つからなかった」という声が集まっています。
事業者の廃業は消費者や取引先、従業員に多大なる影響を及ぼすのは間違いありません。
M&Aという手法によって、事業を継続することができます。消費者や取引先、従業員を不安にさせることがありません。
政府は各業界に働き方改革を推進し、残業時間に上限を設けて厳しく監督する制度を導入しようとしています。労働者にとっては、歓迎すべきことに間違いはありません。しかし、人手不足が慢性化している建設業などでは、技術者や技能者の拘束時間が短くなることで工期が伸び、資金繰りに窮するケース増加する懸念があります。
特に経営者が高齢の場合、生産性を上げるためのデジタル化に対応できず、意識改革が進まないまま現場仕事に忙殺される可能性もあります。そうなれば、目の前の仕事に手一杯で後継者を見つけることなどできません。
経営者はM&Aによって事業を引き継げることを早い段階で認識し、専門の仲介事業者などに相談するべきでしょう。政府や自治体も経営者の啓蒙活動を続け、廃業による経済損失を防ぐ取り組みが必要です。
執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ
外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。