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その他 2024.2.28 配信

政府がバックアップするBCP(事業継続計画)の現状と課題

政府がバックアップするBCP(事業継続計画)の現状と課題

人命を最優先する防災との違い


地震や水害、パンデミック、テロなどの緊急事態における企業の事業継続計画のことをBCPといいます。危機的な状況を迎えた際の影響を最小限に抑え、事業活動を迅速に行うことを目指すものです。

日本においては、2011年3月の東日本大震災でその重要性に注目が集まり、新型コロナウイルス感染拡大、ゲリラ豪雨などの異常気象に見舞われるたびに、議論が活発になってきました。

 

BCPは防災対策とは異なることが最大の特徴。基本的には企業が策定します。災害時における重要業務への対応、サプライチェーンにおける対策など、事業継続の取り組みを明確にし、ステークホルダーに周知を行います。

中小企業でBCPが進まないのはなぜなのか?


■大企業と中堅企業のBCP策定状況

※内閣府「令和4年防災白書」より

 

政府は2020年までにBCP策定率を50%にするとの目標を掲げていました。大企業においては、2021年の段階で策定率は70.8%に達している一方、中堅企業では40.2%と高くはありません。

BCPは策定に時間がかかることや、業績への直接的なインパクトが少ないために後回しになってしまうこと、策定するに相応しい人材がいないこと、策定にかかるコスト負担に後ろ向きなことが、進まない要因だと指摘されています。

 

上場企業のように業績が安定して資金・人材に余力があり、株主などからコンプライアンスが求められる状況があれば、BCPを積極的に進める理由があります。その一方で中堅企業、特に中小企業は足元の業績や業務への対応が求められており、人材は限られています。株主は創業オーナーということも多く、外部からの圧力も強くはありません。

BCPの策定には後ろ向きにならざるを得ないというのが、実際のところでしょう。

 

業界に注目すると、金融・保険業、情報通信業、建設業など、人びとの生活に直接的に関わる業種は策定が進んでいます。しかし、宿泊・飲食サービス業、その他のサービス業、不動産業などの小規模事業者が多く、災害時に生活圏への影響が少ない業種は策定が進んでいません。

ただし、策定率の低かった建設業は、2009年に関東地方整備局によって「建設会社における災害時の事業継続力認定制度」を導入し、BCP策定が進んだという経緯があります。この制度は建設会社が持っている基礎的事業継続力を当局が評価し、建設会社を公表することによって防災対応業務の円滑な実務と地域防災力の向上を目的としたものです。

 

策定率は政府や自治体、業界団体などが後押しすることで、引き上げることもできます。

BCP策定のメリット


労力をかけてBCPを策定するのにどれだけの意味があるのか。多くの経営者はそう考えるでしょう。策定のメリットは大きく4つあります。

 

●企業の社会的責任を果たす
●経営戦略を策定する機会になる
●災害に強い会社になる
●企業価値を高める

 

重要なのは上の3つ。それらの結果として、企業価値を高めることになります。

 

最も重要度の高いのは、社会的な責任を果たすということです。経営者は企業を守って従業員や取引先、顧客を安心させるため、災害後も継続的にサービスを提供しなければなりません。復旧に時間がかかるのはもちろんですが、BCPを策定することによって、(策定していない)会社よりも迅速に組織を立て直し、事業を行うことができるでしょう。

それは、消費者の生活の安全を守って自社の雇用を継続し、地域や関連企業に対する社会的責務を全うすることに他なりません。

 

BCPは経営戦略を策定するきっかけにもなります。災害は中核となる事業や重要度の高い販売・製造拠点、資材などの優先順位をつけることができます。これは経営戦略そのものであり、事業主が改めて会社経営を考える機会になるでしょう。

 

災害が続く日本において、早期復旧は他社との差別化を図ることにもなります。顧客流出を防止してシェアを維持、拡大できるでしょう。

本社の地方移転は進んだのか?


東京などの大都市圏に本社を構える企業が、BCPの観点から地方に移転するケースもあります。政府は地方創生の柱として、東京都心から地方に移転を促す税制優遇も実施しています。

 

東京商工リサーチによると、2020年から2023年の3年間で本社機能を移転した企業は10万5,367社。2017年-2020年比で1.6倍に増加しました。コロナ禍は首都圏一極集中化を緩和する転換点となりました。

働き方が大きく変化する中で都市部に拠点を構える意味を考え直すきっかけができたことに加え、BCP上のリスク分散という観点から地方へ移転する動きが加速したのです。

 

本社機能を移転した主な会社は、以下の通りです。

 

●日本ミシュランタイヤ
●ジャパネット
●アミューズ
●KADOKAWA

 

日本ミシュランタイヤは2023年8月に新宿の本社を群馬県太田市に移転しました。太田市は研究拠点があり、そこに本社機能も集約させたのです。社員は在宅中心となり、ワークライフバランスを保つきっかけにもなりました。拠点を統合することで財務的なメリットも生まれ、コスト削減に繋がります。

 

ジャパネットは六本木の本社を2021年12月福岡市に移転しています。コロナ禍をきっかけとして、会社のあるべき姿を考えた結果として移転を決定したといいます。BS放送局などのスピード感が必要な部署は東京に残し、人事や経理などの部門を移しました。東京一極集中から脱却してリスク分散をし、スポーツ・地域創生事業における中核拠点と位置付けています。

 

芸能事務所のアミューズは、2021年7月に渋谷から河口湖へと移転しました。宿泊施設やレジャースペースを設けるなど、エンターテインメント企業の本社の新たな在り方を提案しています。

 

KADOKAWAは千代田区の本社の一部を2020年11月、所沢市に移転。出版社がひしめく飯田橋からの移転は注目を集めました。KADOKAWAは有事に備えた本社機能分散の必要性を強調し、新しい働き方を模索するとしています。

 

自然災害やパンデミックなどを転機とし、本社を移転するなど会社の在り方そのものが変化しています。こうした動きは、今後も加速するでしょう。これはデジタル化が進んで多様な事業展開ができることや、組織形態が昔ほど硬直していないことが背景にあります。

有事に柔軟な対応ができるよう、BCPを策定することは極めて重要です。

執筆者 コンサルタント/ライター フジモト ヨシミチ

外食、小売り、ホテル業界を中心に取材を重ねてきた元経営情報誌記者。
現在は中小企業を中心としたコンサルティングと、ライターとして活動しています。
得意分野は企業分析とM&Aです。